書店員向け情報 HELP
複数のヨーロッパ
欧州統合史のフロンティア
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2011年5月1日
- 書店発売日
- 2011年6月2日
- 登録日
- 2011年2月22日
- 最終更新日
- 2011年6月8日
紹介
ヨーロッパ統合史は,いま最もスリリングな学問領域の一つである。公開された史料に基づく実証的研究が日進月歩の勢いで積み重ねられていく一方,それまでの歴史叙述を「脱神話化」していく作業も進められている。本書は、そうした実証的・先端的研究を担う若手の研究者を集め,ヨーロッパ統合史研究のあり方を根本的に問い直し,その地平をさらに広げることを企図するものである。
本書のタイトル『複数のヨーロッパ』は,単にヨーロッパ像の多様性を示すものではない。『複数のヨーロッパ』とは、従来の,しばしば単線的で閉鎖的であったヨーロッパ統合史研究をいったん解体し,時系列的・空間的・アプローチ的に開放された新しい統合史研究を打ち立てるために選び取られた,きわめて挑発的な視座である。本書は,時代的には戦間期から1970年代までの長い期間を扱い,空間的には域内/域外、国際/国内を往還しつつ,政治・社会・経済・文化など多様な次元において,無数のアクターとそれらが担う複数の「ヨーロッパ」像が相互作用しながら構築される過程として,ヨーロッパ統合の歴史を描き出す。このため本書には,国際政治,外交史,思想史,経済史,社会史など,多様な専門的バックグラウンドをもつ執筆者が戦略的に集められている。
本書の各部・各章は有機的に構成されている。第1部第1章は、既存のヨーロッパ統合史研究を批判的にレビューしつつ,統合史研究のフロンティアを設定している。それをふまえて第2部では,ヨーロッパが歴史的に抱えてきた「遺産」,すなわち戦争(第2章)や,キリスト教および保守主義(第3章),そして植民地(第4章)が,ヨーロッパ統合の歴史に影を落としていることを示す。そして第3部では,これまで見落とされがちだった経営者(第6章)や労組(第7章)のようなアクター,あるいは農業というセクター(第5章)を取り上げつつ,「正史」に回収されない複線的な統合の系譜を明らかにする。最後に第4部では,東方外交(第8章)やヨーロッパ政治協力(第9章)を題材に、最新の外交史料を駆使しながら,1960~70年代の多極化する世界のなかで模索された「ヨーロッパ」のかたちを浮き彫りにする。こうして,多国,多次元,多領域にまたがる豊かな歴史が立ちあらわれるだろう。
目次
はじめに
第Ⅰ部 ポスト「正史」のゆくえ
第1章 ヨーロッパ統合史のフロンティア―EUヒストリオグラフィーの構築に向けて
(遠藤 乾・北海道大学大学院法学研究科教授)
第Ⅱ部 ヨーロッパの「暗い遺産」
第2章 戦争のなかの統一「ヨーロッパ」,1940-1945年
(宮下雄一郎・日本学術振興会特別研究員)
第3章 黒いヨーロッパ―ドイツにおけるキリスト教保守派の「西洋」主義
(板橋拓己・成蹊大学法学部助教)
第4章 ヨーロッパ統合の裏側で―脱植民地化のなかのユーラフリック構想
(黒田友哉・セルジー=ポントワーズ大学院人文社会科学研究科博士課程)
第Ⅲ部 統合の複線的系譜学
第5章 もう一つの「正史」―農業統合の系譜とプールヴェール交渉,1948-1954年
(川嶋周一・明治大学政治経済学部准教授)
第6章 経営者のヨーロッパ統合―1950年代前半における西ドイツの事例から
(田中延幸・東京大学大学院経済学研究科博士課程)
第7章 日欧貿易摩擦の交渉史―アクターとしての労働組合・EC委員会・域外パワー,1958-1978年
(鈴木 均・新潟県立大学国際地域学部専任講師)
第Ⅳ部 多極化する世界とヨーロッパの模索
第8章 「全欧」と「西欧」のあいだ―ブラントの東方政策とヨーロッパ統合問題
(妹尾哲志・同志社大学政策学部講師)
第9章 完成・深化・拡大―ヨーロッパ政治協力の進展と限界,1960-1972年
(山本 健・名古屋商科大学コミュニケーション学部専任講師)
上記内容は本書刊行時のものです。