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相模原事件が私たちに問うもの
- 書店発売日
- 2018年2月25日
- 登録日
- 2018年2月14日
- 最終更新日
- 2018年2月14日
紹介
精神科医医療における強制的入院制度である措置入院との関係や、犯人の思想・信条と社会関係の複雑な構造との関係など、多くの困難な課題に挑む現場からの実践レポート。
2016年7月26日、神奈川県相模原市の障害者支援施設津久井やまゆり園において19人の障害者が元介護職員によって殺害されるという世界を震撼させる事件が勃発した。いわゆる「相模原事件」である。いまだに事件の全貌が判然としないが、「生きるに値しない生命の抹殺」という事件の特異な性格は、さまざまな領域に大きな影響を及ぼしている。
医療にかかわる精神科医は国の方針によって治安の道具として利用されたかつての精神医療が気になる。しかし、相模原事件が私たちに問うているものはそれだけではない。今回の事件をヘイトクライムと捉えるべきだという論者は少なくない。もちろん未だに生きている優生保護法とその思想の問題として考えざるを得ない。優生思想は決して私たちの思考から遠くにあるものではない。医療者にとっては安楽死や尊厳死は日常的なテーマであり、これらのテーマは優生思想の近くにあるはずだ。
被疑者の歪んだ思考の背後にある私たちの日常的常識は、被疑者の歪んだ考え方と無縁ではない。被疑者の思考が作り上げられていくとき、彼の眼には彼の前に居る入所者や私たちたちがどのように映っていたのか。相模原事件は始まったばかりである。
目次
はじめに(太田順一郎)
[座談会]相模原事件が私たちに問うもの(井原裕、平田豊明、中島直、[司会]太田順一郎)
1 検証チームの議論/2 「入口」に関する議論/3 司法の問題として立件できなかったのか? /4 ダイヴァージョンの可能性/5 措置診察のチェックポイント?/6 治療内容―とくに物質使用障害に関して/7 医療側は責任を問われるべきなのか? /8 「出口」に関する議論/9 退院後のフォローアップ/10 まとめに代えて
行為における自由意志と責任――相模原事件に関する河合幹雄氏の諸論を批判的に検証する(野崎泰伸)
1 行為の意図と動機づけの本質とは/2 河合幹雄氏の議論と主張/3 治安維持という「大義」――優生思想は「妄想」か/4 行為と自由
接点はどこにあるのか(松永真純)
1 はじめに/2 被害者の死をめぐって/ 3 「個」として、唯一無二の具体的な生を生きる/4 究極の受動態としての誕生/5 善意と優生/6 人間が人間を敬うこと
相模原事件を受けて、これからの策動にどう抵抗するのか(桐原尚之)
1 検討チームの最終報告書をうけて/2 “退院後の支援がルール化されていない”ことは問題なのか/3 神奈川県警による失敗の追及が夜警主義的な考え方と結びつくのか/4 “患者の利益”とは実のところどういったものなのか/5 医学者たちに閉ざされた問いとしての“患者の利益”について
美しい日本――相模原事件について(富田三樹生)
はじめに/1 事件の経過/2 二つの問題
当事者の立場から考える自立とは(熊谷晋一郎)
要旨/1 痛みが教えてくれたこと――自己身体への信頼と依存/2 依存症が教えてくれたこと――他者への信頼と依存/3 自立が孤立にならないために
共に生きる社会を築く難しさを内にみつめて(大塚淳子)
1 はじめに/2 2016年7月26日/3 再び……の思い/4 検証の在り方に読み取れるもの/5 放置されていた措置入院制度に関する見直し/6 求められているのは支援という名の監視ではない/7 多様な市民の暮らしを身近に感じられる大切さ/8 大学の教育現場で
保安処分反対主義の帰結は措置入院保安処分化――相模原事件考(井原裕)
1 保安処分反対イデオロギーの総括/2 精神医療は精神保健を、刑事政策は犯罪防止を/3 保安処分反対主義者にとっての保安処分/4 イデオロギーに修正主義はありえない/ 5 保安処分反対主義者の最終答案としての「山本レポート」/6 保安処分反対主義者とその他の精神科医の世界観のずれ/ 7 保安処分反対主義者の説明責任
差別と精神医学――産むのか、アンチテーゼになり得るのか(中島直)
1 医療観察法/2 野田事件/3 道路交通法・自動車運転致死傷処罰法/4 差別と国家意志/5 精神医学と差別/6 おわりに
相模原事件から1 年が過ぎて(中島直)
措置入院の話だけでなく(太田順一郎)
1 それでもまず措置入院の話/2 国会審議など/3 措置入院の話を離れて/4 差別する存在であること―細雪・教科書・波平恵美子/5 それでも差別と闘い続けること――ゲイの少年・青い芝・ディストピア/6 葛藤の中で
あとがき(中島直)
上記内容は本書刊行時のものです。