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異色の教育長 社会力を構想する 門脇 厚司(著) - 七つ森書館
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異色の教育長 社会力を構想する

発行:七つ森書館
四六判
272ページ
並製
定価 2,800円+税
ISBN
978-4-8228-1787-9
Cコード
C0037
一般 単行本 教育
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2017年12月
書店発売日
登録日
2017年10月5日
最終更新日
2017年11月24日
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紹介

 教育研究者が教育長になって、〈社会力〉を構想して実践しました。
 「0歳から90歳までの社会力育て」「ノーテレビ・ノーゲーム運動」「おんぶ・だっこ運動」など楽しくて面白い教育実践、教育施策への批判、教育制度と教員社会の考察、そして「社会力を育てる緩やかな提案と期待」を書きます。

目次

まえがき 教育研究者、教育行政のただなかを観る
 
序 章 教育長就任に至る経緯
 (1)教育長就任以前の経歴
 (2)美浦村の概要
 (3)教育長就任を引き受けた理由
 
 
第1章 美浦村の教育長を務める
 1 教育行政制度と教育委員会委員
 (1)戦前期の教育行政
 (2)教育委員会制度の目的
 (3)変質する教育委員会制度の独立性
 (4)教育委員会の担い手たち
 2 異色の教育長の業務日誌
 (1)異色の教育長としての責任
 (2)文書決済と書類処理に追われる日常
 (3)各種行事への出席、挨拶が目白押し
 (4)数多い各種委員会への出席
 (5)手を抜けぬ定例議会、議員への対応
 (6)年間を通してある各種各様の学校訪問
 (7)会すれど議せぬ各種の教育長会議
 (8)重要な任務でみる教育プランの策定と実践
 (9)教員評価への関わりと評価基準
 (10)少なくない学校事故やクレームへの対応
 (11)人事異動計画策定における教育長の役割
 (12)「異色」ならではの多様な対外活動
 3 美浦村の教育施策と教育刷新の試み
 (1)0歳から90歳までの社会力育て
 (2)子どもの読書意欲を高める「選書会」
 (3)村ぐるみで取り組むノーテレビ・ノーゲーム運動
 (4)新しい出会いを作る「読み合い」
 (5)脳を刺激する園庭をみんなでつくる
 (6)相互学習する生涯学習推進計画づくり
 (7)他者を体で実感する「おんぶ・だっこ運動」
 (8)学力向上路線からの離脱と授業王国の実現
 (9)教育振興計画と読書推進計画の策定
 (10)美浦版「学校教育の手引き」の作成
 
第2章 わが国の教育施策を批判する
 1 美浦村における試みと教育委員会制度改変批判
 (1)学力向上路線から離脱し「授業王国」をめざす
 (2)地域から始めるわが国の教育刷新
 (3)教育委員会制度の改変と教育現場に及ぼす影響
 (4)目指すべき社会ビジョン欠いた教育振興基本計画
 (5)掘り起こせ、地域の教育力
 (6)問題あり! 教育委員会制度の改変
 2 安倍政権の教育施策批判
 (1)戦前の社会と教育を彷彿
 (2)自民の憲法草案に懸念──先読み能力を働かせ対応を
 (3)戦後教育の支柱骨抜きに
 (4)教育行政の独立性危惧──問われる教育長の力量
 (5)教科書採択と首相演説
 (6)戦争法案に教師の悲哀
 (7)政治の世界、学校に開放を
 (8)教育学の専門家配置を
 
第3章 教育制度と教員社会
 1 不自然な近代公教育制度と教育制度の足枷
 (1)不自然な近代公教育制度の始まりと行く末
 (2)戦後新教育が目指した自然な教育の試み
 (3)偏向教育の実態
 (4)不自然な教育に回帰した教育と教育制度
 2 縦系列が貫徹した教育委員会と教職員組合
 (1)微に入り細を穿つ文科省からの通知と依頼
 (2)補完し補強する都道府県レベルの行政通知
 (3)依存体質を高めルーティン化する教育委員会
 (4)存在感をなくし無力化する教職員組合
 3 縛られ諦め従い満足する教員社会
 (1)生真面目な〝普通の人〟としての教員集団
 (2)服務規律と法令遵守を求められ唯々諾々と従う教員
 (3)忙しさに追われ、学べず考えない教員たち
 (4)教育専門職者としての矜持を無くしている教員たち
 (5)現状に満足する教員社会
 (6)世襲が進む教員社会
終 章 社会力を育てる緩やかな提案と期待
 (1)教育の真の再生のためのたった一つの提案
 (2)教育委員会と教育長の役割に係る若干の提案
 (3)教員と教職員組合へのやや強めの期待
 
あとがき 教え子を再び戦場に送らないことを願って

初出一覧

前書きなど

まえがき──教育研究者、教育行政のただなかを観る
 
 太平洋戦争敗戦後の1947(昭和22)年に始まる新しい学校制度のもと、翌48(昭和23)年に教育委員会法が公布されスタートしたわが国の教育委員会制度もすでに70年を経過した。教育委員会の発足とともにすべての都道府県と市町村に教育長が置かれることになり現在に至るが、これまで教育学の研究者として大学で長く仕事をし、助教授・教授として教育に携わりつつ管理職を務め、しかも最後は学長も経験したという人間が地方の小さな村の教育長を務めたという事例は、わが国の教育の歴史の中でも、間違いなく例外中の例外といっていい。管見ながら、唯一の例として記憶の中にあるのは大阪教育大学の学長から奈良県香芝市の教育長に転じた中谷彪氏のみである。
 茨城県にある2つの村の一つ美浦村という人口1万7000人ほどの村の教育長を引き受けることになったいきさつは序章でやや詳しく書いているが、前歴が大学の教授でしかも学長まで経験した研究者が教育長に就任したということで私は就任直後から〝異色の教育長〟と見られることになった。地元の学校で長く教員を務め、校長になり定年を迎え、その後人柄を見込まれ教育長に就任するというのが現在の教育長の大半である。その中にあって、教育研究者がストレートに教育行政の只中に入り教育長としての業務を全うし指揮を執るというのは極めて稀なこと。こうしたことは望んでもできない貴重な経験である。
 であれば、めったにできない貴重な経験を記録として残し、わが国の教育を考える共通の素材にしなければならないのではないか。研究者教育長としてわが国の教育行政の只中で直接見たことや実際に経験したことをできるだけ正確に記録し学会の共有財産にすべきではないか。在任中のほぼ6年間、教育長としての任務を全うしながら、私はできるだけわが国の教育行政が作動する実際とその中で任務を果たしている教員を参与観察することに努めてきた。そして、その結果を一冊の本にまとめることが、かつて日本教育社会学会の会長を務め、加えて日本教師教育学会の会長を経験したものとしての責務でもあろうと考えてきた。そうした意図がどれだけ成功したかは読者の判断を待つしかないが、外部からはなかなか見えない教育長の仕事の中身や任務や権限がどんなものか、また教育長に期待される役割やなすべき責務についてその一端を明らかにすることはできたのではないかと思っている。
 本書は大きく3章に分けて構成してある。第1章は教育長としての日常的な業務がどんなものかを紹介すると同時に、私が美浦村の教育長として6年間実際にやってきたことやそのような教育を行うことにした思想的背景や考え方についても語っている。
 第2章は教育長在任中に新聞や雑誌や書籍を通して教育長として社会に発信した発言の中から数点転載した。在任中に求められ寄稿した文章はかなりの数に上り大小取り混ぜ100点ほどになる。その中から、安倍政権の教育施策に対する批判も含め、現時点で論議が交わされているホットなテーマについて率直な考えを述べたものを数点選んだ。そうしたテーマを敢えて選んだのは全国に1800人ほどいる教育長たちのほとんどが、現今重要な争点になっている安全保障法や憲法改正問題や主権者教育や共謀罪法など諸々の政治的な問題にまったく口を閉ざし発言していないからである。腹を括れば、たとえ現役の教育長であっても、この程度の発言はできるということを実例をもって示したかったからである。多くの教育長たちに転載した寄稿文をしっかり読んでほしいと思っている。
 第3章は、教育長として参与観察して見えてきた現時点での教育行政と教員社会と教職員組合の実態について、私なりの分析や見方を率直に書いた個所である。わが国の教育行政は今やどこから見ても文科省を頂点とする縦の指示命令系統が、例えていえば、蟻の這い出る隙間もないほどに完璧に出来上がっている。そうした現状の中にあって、果たしてわが国の学校教育や教育行政のあり方を変え改良する可能性はあるのか。なかなか難しいというのが正直な認識であるが、私なりの教育長体験を踏まえて、少しばかりの提案や注文や期待を書いてみた。わが国の教育刷新への緩やかな進言が終章の内容である。とりわけ教員への注文が多くなっているのは、教師たちへの期待が大きいからである。戦後わずか70年を経ただけで再び教え子を戦場に送りかねない状況になっている昨今、とりわけ若い教師たちの教育専門職者としての自覚と矜持と、それにおかしいことはおかしいと声を上げる覚悟が問われていると思うからである。
 本書の3章を通して、私が本書に込めた共通のメッセージをお読み取りいただき、今後に活かしていただければありがたく思う。

著者プロフィール

門脇 厚司  (カドワキ アツシ)  (

 1940年中国青島市生まれ、山形県出身。
 東京教育大学教育学部卒業、教育社会学を専門とする。筑波大学教授を経て、東京家政学院筑波女子大学学長、筑波学院大学学長を歴任し、茨城県美浦村の教育長を6年間務める。
 現在、つくば市教育長、筑波大学名誉教授、ラボ言語教育総合研究所代表、日本教師教育学会会長。
 著書に『子どもの社会力』『社会力を育てる』(岩波新書)、『学校の社会力』(朝日選書)など多数。

上記内容は本書刊行時のものです。