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反国家のちから 鎌田 慧(著) - 七つ森書館
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反国家のちから (ハンコッカノチカラ)

社会科学
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発行:七つ森書館
四六判
208ページ
並製
定価 1,800円+税
ISBN
978-4-8228-1527-1   COPY
ISBN 13
9784822815271   COPY
ISBN 10h
4-8228-1527-7   COPY
ISBN 10
4822815277   COPY
出版者記号
8228   COPY
Cコード
C0036  
0:一般 0:単行本 36:社会
出版社在庫情報
不明
初版年月日
2015年2月
書店発売日
登録日
2015年1月27日
最終更新日
2015年2月24日
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紹介

 「まるで侵略戦争のようだ、と思う。あまり極端なことは言いたくない。しかし、沖縄にたいする安倍内閣の攻撃は、侵略と言っても過言でないほどにひどい──。」(本文より)

つねに犠牲にされる立場に身をおき、全国を歩き、その怒りや嘆きを記録し、厳密に取材し、伝え、連帯を呼びかけてきた著者の集大成。

目次

はじめに

序章 沖縄と国家──安倍内閣の侵略的手法

1章 戦争と国家
    さようなら原発、さようなら戦争 この時代を丸ごと引き受ける
    軍国教育の恐怖
    戦後レジームからの脱却
    怖れを持たない珍しい人間
    名判決の運命
    歴史修正主義と朝日バッシング
    慰安婦記事 問題の深化、解決への期待
    誤報とはなにか
    朝日第三者機関見解は妥当か 本質直視せず萎縮憂慮
     コラム◎戦争と経済を学ぶ絶好の教科書
         日本と沖縄からの重圧に苦しむ島
         この手で人の命を奪った。あらゆる暴虐な手段が「戦争」の二文字によって正当化された
         見よぼくら一銭五厘の旗
     コラム◎壊される労働、潰される若者、希望はどこに

2章 原子力と国家
    原発と国家と
    お天道様はありがたい
    利権と核武装
    軍事と核の一体化
    核武装の潜在的ポテンシャルとしての原発
    三つの破滅未来のエネルギーと光明
    福島・双葉町 原発推進標語をつくった少年の二六年
    大間原発 国と電源開発の「禁じられた遊び」に強まる怒り
    六ヶ所村とはなにか
    川内原発再稼働破滅計画
    いのちの価値、大飯判決
     コラム◎「一騎当千」の荒くれものたちが、腕力を発揮
         人間の「存在」を取り戻す
         日本の富の収奪を目論むアメリカの影

3章 死刑とハンセン病と国家
    ハンセン病 差別と死刑
    消えかけた命を今日も引きずってゆく
    前事不忘、後事之師
    水平に繋がる運動
     コラム◎お前は人間ではないと言えるのか 秋田二児殺害事件
     コラム◎どん底世界の美しい話
         歌を忘れたカナリア

前書きなど

国家のかたち

 内容空疎、大言壮語。この国の首相は、「私が最高責任者」といいたがる。首相が軍事行動の最高責任者であるのは、まちがいはない。それをことあるごとにいう。「朕は国家なり」の口真似だが、カラ威張り。それでいて、いつも認めてもらいたい。よほど自信がないようだ。
 「イスラム国」に、ふたりの人質が囚われていた。命の危険が迫っているのに、エルサレムで、日の丸とイスラエル国旗を両脇に立てて記者会見。「許しがたいテロ行為」と声を高め、「私が陣頭指揮を執る」と見栄を張った。イスラエル。ガザの虐殺。憎悪の連鎖。はるばるアジアから出かけていったこの国の首相は、そのあと、カイロに行って、「イスラム国」と対立する国々に、二億ドルの資金を援助すると発表した。危険を読めない火遊び、非人道支援だった。「卑劣なテロに屈しない」との強がりは、背後にいる米国の口まねであり、迎合である。
 結局、人質ふたりは虐殺された。と、まるで遠吠えのように、「テロリストたちの罪を償わせるために国際社会と連携していく」「テロと戦う国際社会において、日本としての責任を毅然として果たしていく」とひとり力んでいる。「有志連合で戦うぞ」というアピールのようで、背筋が寒くなった。これからどんな跳ねっ返りを招くか、の考えがない。と、早速、「イスラム国」から、脅迫状。「アベよ、勝ち目のない戦いに参加するというおまえの無謀な決断のために、このナイフはケンジを殺すだけでなく、おまえの国民を、場所を問わず殺りくする。日本にとっての悪夢が始まるのだ」
 たちまちにして、日本列島は震え上がって、テロ対策強化に走り出した。この国はアメリカ同様、テロの恐怖に震える国になったのだ。架空の国にせよ、「イスラム国」という存在にたいして、首相とその側近の冷静さを欠いた無知と強がりによって、憲法に謳われた、すべてを話し合いで解決する、平和外交、平和国家の矜持がめちゃくちゃにされそうだ。
 「テロとの戦い」「邦人救出」は、首相の妄言だった。シリアの砂漠に置かれたふたつの遺体が、首相をいきり立たせ、「自衛隊派兵」「集団的自衛権」行使のチャンスを狙っている。人間の命を犠牲にしても国威発揚、人命より国益、戦争の論理である。首相の妄想短慮が、一気に見えない敵との戦闘状態に陥れた。原発国家の「テロとの戦い」。この拙い政治は、やがて「亡国の危険に曝した首相」として、歴史に名を刻まれる。
 「国」の漢字は、王様が城壁にとり囲まれている形である。日本は「君主国」ではない。民主国のはずだから、「くに」の字は、「民」を四方の海岸線が囲む形のはずだ。ところが、福島第一原子力発電所の事故以来、その危険がイヤというほど証明されても、まだカネのために原発を再稼働させようとしている。
 「除染」を名目にして、膨大な国家資金が投じられた。無駄な工事を繰り返して、「くに」の字を、「金」が金庫で囲まれる形に変貌させた。この政策は、被災地を食い物にする、「ショック・ドクトリン」(惨事便乗型資本主義)というべきで、チリやイラクでの米国資本の支配の手法である。
 アベ政権の外交は、「地球儀を俯瞰する」外交と恥ずかしげもなく自称されている。地球をぐるぐる回る、税金の浪費の「外遊ごっこ」は、まるでチャーリー・チャップリンが演じる「独裁者」のように、地球儀をもてあそぶ異常な遊戯となっている。外遊は原発、兵器産業の社長たちを引き連れた大名行列。国内では、それまでの民主的ルールを破壊する、NHK会長人事や法制局長官人事を強行、民主主義の岩盤を破壊して、「特区」や「特定秘密」をつくりだしている。挙げ句の果てに、「イスラム国」との不用意な「戦闘状態」への突入。この失政のツケは大きい。
 安倍第三次内閣とは、「大惨事」内閣のことである。一方では姿なき「テロとの戦い」を引き出し、もう一方では、福島県に広大な廃墟の荒野をつくりだした。それでもなお、原発事故の悲惨には目もくれることなく、メーカーと電力会社救済のために、地震の恐怖もかまうことなく、各地の原発を再稼働に突進させようとしている。
 アメリカとの無謀な戦争の果ての敗戦が、日本国憲法と戦後民主主義を産みだした。首相官邸執務室に、祖父・岸信介とアイゼンハワー米大統領との、日米安保条約調印の写真が飾られてある。
 首相特有の戦後民主主義への敵意は、祖父が果たせなかった「大東亜共栄圏」の夢の後追いである。しかし、祖父が締結した、従属的な日米安保条約と日米地位協定からの脱却を考えることはない。この条約によって、すべてのアメリカの要求に応じさせられ、沖縄辺野古への米軍新基地建設が暴力的に進められている。沖縄の怒りを土足で踏みにじって、テンとして恥じることはない。沖縄、原発、集団的自衛権の行使。TPP交渉。この国の首相は、まるで熱病に冒されたように、うわずってつんのめり、国の存在を危うくしている。
 いまや、この国家の字は、危険の「危」となった。「危」を「反」によって打ち破り、心溢れる、「心」を中心にした、心優しい に変えたい。
  二〇一五年二月   鎌田 慧 

著者プロフィール

鎌田 慧  (カマタ サトシ)  (

1938年、青森県生まれ。
新聞記者、雑誌編集者などを経てルポライターに。
主な著書に『自動車絶望工場──ある季節工の日記』(講談社文庫)『六ヶ所村の記録──核燃料サイクル基地の素顔』『狭山事件の真実』『日本列島を往く〈全6巻〉』(いずれも岩波現代文庫)『鎌田慧の記録〈全6巻〉』(岩波書店)『橋の上の「殺意」──畠山鈴香はどう裁かれたか』(平凡社)『原発列島を行く』(集英社新書)『さようなら原発の決意』(創森社)
『時代を刻む精神』『沖縄〈ウチナー〉──抵抗と希望の島』『反骨のジャーナリスト市長──鈴木東民の闘争』『日本の解放区を旅する』『怒りのいまを刻む』(以上、七つ森書館)ほか多数。「さようなら原発1000万署名市民の会」「戦争をさせない1000人委員会」呼びかけ人。

上記内容は本書刊行時のものです。