版元ドットコム

探せる、使える、本の情報

文芸 新書 社会一般 資格・試験 ビジネス スポーツ・健康 趣味・実用 ゲーム 芸能・タレント テレビ・映画化 芸術 哲学・宗教 歴史・地理 社会科学 教育 自然科学 医学 工業・工学 コンピュータ 語学・辞事典 学参 児童図書 ヤングアダルト 全集 文庫 コミック文庫 コミックス(欠番扱) コミックス(雑誌扱) コミックス(書籍) コミックス(廉価版) ムック 雑誌 増刊 別冊
その一言が言えない、このニッポン 辛 淑玉(著) - 七つ森書館
....
【利用可】

書店員向け情報 HELP

その一言が言えない、このニッポン (ソノヒトコトガイエナイコノニッポン)

社会一般
このエントリーをはてなブックマークに追加
発行:七つ森書館
四六判
224ページ
並製
定価 1,400円+税
ISBN
978-4-8228-1382-6   COPY
ISBN 13
9784822813826   COPY
ISBN 10h
4-8228-1382-7   COPY
ISBN 10
4822813827   COPY
出版者記号
8228   COPY
Cコード
C0095  
0:一般 0:単行本 95:日本文学、評論、随筆、その他
出版社在庫情報
不明
初版年月日
2013年9月
書店発売日
登録日
2013年7月10日
最終更新日
2013年8月28日
このエントリーをはてなブックマークに追加

紹介

怖い、助けて──。その一言が言えなくて、
絶望の中でなんとか息をしているあなた。どうか声に出してほしい。
それは決して、弱さの表れではないのだから。
被災地のこと、原発のこと、日本のこと……。
被災地に通い、常に弱者に寄り添いつづける在日3世の著者が放つ痛快メッセージ。

目次

prologue 美魔女と富山妙子

1 「いい人」でいたいのよね
   寄付文化
   偽られた敵
   口説かれます
   双子の判決
   イヤはイヤ
   海老蔵の「にらみ」で踊った人たち
   生きた化石ニッポン
   すべてはオセロゲーム
   1日2食宣言
   タイガーマスクが救った人
   1475万部に抗う一冊
   「いい人」でいたいんだね

2 その一言が言えない
   語られない、震災下の性被害
   人災は天罰では語れない
   すべては金だ
    column お金のなる木の下で
   内田裕也に見る男の器
   ケンカの作法
   手を離すかも知れない、が……
   野田聖子議員の出産の意味
   「外国人献金」叩き
    column 差別の連鎖
   その一言が言えない辛さ
   見たくない、か
   孝行息子の果て
   靖国合祀訴訟と沖縄
   汚染水の一気飲みと豊田商事事件
   「誰に食わせてもらってるんだ」
   宗教者こそ看板を降ろせ
   被害者に寄り添えない人たち
   200円のお弁当
   ヒモの言い分
   国家の責任を問うこと
   「はるな愛」の先に未来はあるか?
   生命をかけた闘い
   国家と大衆の結託
   死に際の後?
   韓流スターと尾木ママの時代
    talk 被災地を支える人を支える(香山リカ)

3 絶望を生きる 
   あー、恥ずかしかった。
   ドヤ顔の政治家
   絆
   名誉殺人
   福島でサーフィン
   上澄みの社会
   人工衛星でお祭り騒ぎ
   騙される男たち
   芸人の財布を覗く陳腐さ
   いけにえとしての「犯人」
   主語なし社会「一億総懺?」
   福祉のための増税か?
   やめられない、とまらない。
   友達は政治家、か。
   高倉健
   オレに頭を下げろ、か
   「怪しい××人」だって。
   モモヒキ差別
   夫の決断は?
   性的商品
   「日本人」の問題ですよ
   処女性を売るアイドル
   苦しくてしょうがない
   承認願望
   職場がねぇ。
   江南スタイルと「日本」
   「食券」
   沖縄ジェノサイド
    column 橋下徹と日本社会
    talk 在日、沖縄から見た原発事故とオスプレイ配備(目取真俊)

epilogue ともに生きる社会をつくる

おわりに
初出一覧

前書きなど

epilogue ともに生きる社会をつくる

 西日本には、まだ過去がある。
 西日本に行くたびに、「あぁ、ここにはまだ過去がある」と思う。
 あぁ、確か昔、こんなような時代があったなぁ、と。
 何も考えずに、空気を吸う。
 何も考えずに、食材を買う。
 ここは何マイクロシーベルトかなんて、考えることもない。
 ああ、これはいつか見た過去だと。
 そしてまた東日本に行くと、未来がある。

◆「頑張る美しい被害者たち」などいない
 
 私が原発に反対しようと確固たる意志を持ったのは、原発事故は、核事故だからである。そして、それはただ人間の身体を壊すだけではなく、人間そのものを壊すということが分かったからだ。
 いま、福島に行っても、放射線量を測る人を見ることはない。お母さん、お父さん、子どもたち、すべての人たちの頭の中にはもう、ここは何マイクロシーベルト、ここはこの位というのが、細かくインプットされている。だからわざわざ測る人がいない。
 彼らはすでに大量の情報を持っている。
 
 そんな中、福島で韓流ブームが起きた。
 えっ? と思った。何マイクロシーベルトだとか、そういう数値が頭の中にいっぱい入っている、そんな人たちの間で、なぜいま韓流のドラマや映画のDVDがひっぱりだこになっているのか、と。
 「何も考えない瞬間をつくりたいから」とある女性は言った。いつも放射線量のことを考え、いつもドキドキ、ハラハラしながら、子どもに対して申し訳ないと思いながら生きている。そうすると、おかしくなってくると。
 福島に残っている親たちは、バカな親と言われる。そして、子どものためを思って一生懸命に放射能のことを考えていると、「お前、まだ考えているのか?」と言われ、子どもがちょっとでもおかしくなったら、「お前が神経質だからだ」と言われ、あっちからもこっちからも叩かれる。
 だから、少しでもそれを考えないで済む時間をつくろうとすれば、何かに熱中するしかない。それで韓流を見るのだと。
 テレビでよく見る「頑張る美しい被害者たち」。私はそんな人に一度も会ったことがない。
 「頑張れと言われると、棄てられたような気持ちになる」と、よく言われた。「明るい復興の兆し」という言葉に、本性が見えたとも。それは、見たいものだけを見て、現実を見ないということだ。テレビというのは、自分は何もしたくない、責任から逃れたい、考えたくないと思っているマジョリティに、安心を与えるための装置なのだ。それが、本当の被害や本当の苦しさを映し出すことはない。
 時限爆弾を抱えたまま地雷原で生きていくには、何でもないふうを装っていなければならない。そして、いつも視られている。
 私が、被災地の人にきちんと話をしてもらえるようになったのは、原発事故から1年たってからだ。なぜって? それは、こいつに話をしたら分かってくれるのか、くれないのか。誰に話していいのか、いけないのか。1年かけて、ようやく、話をしても大丈夫だとわかってもらえたからだ。
 いつも、ドキドキ、ドキドキ、ドキドキ、ドキドキしながら生きている。
 もしいま福島で、誰もが怖さを隠している中で、放射能が怖いなどと言ったら、攻撃されたり、無視されたり、仲間外れにされたりと、さまざまなことが起きる。
 誰が敵なのか、誰が味方なのか、何を話していいのか、どこまで言っていいのか。必死でそれを読み取る。そんな生活が続いている。
 避難しない親のことを、とても多くの人たちが非難、つまり攻撃する。
 「子どものことを考えたら、なぜ逃げないんだ」と。
 でも、人はそれぞれ、さまざまな生活を抱え、さまざまな生き方をしているのだから、移動できない人だってたくさんいる。その上、避難したらしたで、今度は「逃げた」と言われる。避難先での生活が立ちゆかなくなって戻れば、「逃げた奴が戻ってきた」と言われる。
 そしていま言われるのは、「逃げた」ではない、「消えた」である。
 「あっ、○○ちゃん消えた!」「誰それさん消えた」
 「消えた」というのは、もうその瞬間からそこからなくなる、その会話からなくなるということだ。
 ひとりひとりが皆、壊されていっている。……(後略)

  ※  ※  ※

福島

 福島を隠すことを 両親は獣のような鋭さで覚えた
 ふるさとが福島だといって 死んでいった友がいた
 ふるさとを告白し 愛する者に去られていった友がいた
 わが子よ お前には胸を張って
 「ふるさとは福島です」と名乗らせたい
 瞳をあげ、何のためらいもなく
 これが私のふるさと福島です と名乗らせたい

版元から一言

精神科医・香山リカとこころのケアと自己責任について語る「被災地を支える人を支える」、芥川賞作家・目取真俊(めどるま しゅん)との対論「在日、沖縄から見た原発事故とオスプレイ」を収録。

著者プロフィール

辛 淑玉  (シン スゴ)  (

 1959年、東京生まれ。在日3世(韓国籍)人材育成コンサルタント。
 1985年、人材育成会社「香科舎」を設立。1995年、人材育成技術研究所開設。企業内研修、インストラクターの養成、マニュアル制作などを行うかたわら、webを使ったe-ラーニング「管理職検定」をプロデュース。NTVの『世界一受けたい授業』やNHKの『時論公論』などに出演し、執筆、講演も多数こなす。明治大学政治経済学部客員教授、カリフォルニア州立サンディエゴ校客員研究員、新聞労連検証会議委員、東京都企画政策室委員、かながわ人権推進懇話会委員などをつとめる。2003年、第15回多田謡子反権力人権賞受賞。
 主な著書に「怒りの方法」「悪あがきのすすめ」(岩波新書)「差別と日本人」(角川oneテーマ21)「せっちゃんのごちそう」(NHK出版)「鬼哭啾啾」(解放出版)「辛淑玉のアングル」(ちいさいなかま)「辛淑玉的現代にっぽん考──たんこぶ事始め」「辛淑玉的危ういニッポン考──たんこぶ事始めⅡ」(七つ森書館)「放射の時代を生きる3つのアクション」(伴英幸監修、七つ森書館)他多数。

上記内容は本書刊行時のものです。