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辛淑玉的現代にっぽん考
たんこぶ事始
- 初版年月日
- 2010年7月
- 書店発売日
- 2010年7月1日
- 登録日
- 2010年6月4日
- 最終更新日
- 2010年6月24日
紹介
恵まれた環境で育ち、住むところも、学費も、食べることも、就職も、病気の心配も、将来の計画を立てようもない不安も知ることなく育ってきた人々が、この国を動かしている。構造的弱者はどうやって生きていけばいいのだろうか。辛 淑玉が見る現代にっぽんの姿。
目次
はじめに
1 にっぽん政治
たんこぶ事始
女にもてるわけがない
改憲という集団自決
リトマス試験紙
どこを探せばいいの?
改訂学習指導要領の愛国心
うそつきどもの夏の宴
目くそ、鼻くそを切る
「黒人初の大統領」と「平和」
命の仕分け
帝国の墓場につっこんだオバマ
なんだかなぁ
二分した父親像
棄国北朝鮮
民主主義の手続き
デジャブーは堪忍してね
Yes You (and) I
自民党の役割
僕を見て、の「森田健作」がいっぱい
老害の果ての新党結成
2 沖縄の怒りと悲しみ
器
ご指摘ありがとう
福田さん、どうしちゃったの?は、あなたです
「ロス疑惑」報道は日米安保?
おためごかし判決
沖縄のコロポックル
癒されるということ
ジュリーから知花昌一さんへ
金も力もない「××」の生きる道
越後屋、おぬしも悪よのぉ
3 人間らしく生き抜く
死を決意して、自由に
個人の視点
くるくる回って……はいかない
貧乏の匂い
大企業を叩けない大手マスコミ
人間らしく働きたい
底の見えない孤独
裁かれるのは誰か
誰が言い出し、誰がやるの?
正社員化で救えるのか?
十五歳の少年に宿った闇
貧困率の向こうに
金を使わない知恵
救われる人の偏差値
職場復帰できる職場はあるか?
4 在日とマイノリティーの心
疲れるなぁ
お友だちは金持ちだけ、か
裁判員制度とヤクザ
人質解放と日本
自分の中の矛盾
移住出稼ぎ労働者と「品格」
「王貞治」を求める日本の闇
「外国人初」力士のウソ
伝統の足元
平沼赳夫と亀井静香の不安
自らの問題を直視できない人たち
なんでこんなに哀しいのだろうか
5 女の責任とは
どこまで女をバカにするの?
日々是ムカツキ
あたしが殺してやるから
苛立ちばかりがつのる
化石男と言われないために……
バイアグラとブラジャー
パチンコをしていた? だから何?
お誕生日は感謝の日
婚活と憲法九条
女の責任
「父親殺し」と男女共同参画
勘違いしていると思うよ
前書きなど
はじめに ── 生命が大事
むごい政治が続いている。
「自民党をぶっ壊す!」と豪語しながらアメリカにしっぽを振って格差を急拡大させた小泉純一郎、「美しい国」を唱えつつ給食当番でも辞めるように首相の座を投げ出した安倍晋三、「ボクは君とは違うんだ」と上から目線で吐き捨てた福田康夫、有権者に「下々の皆さん」と呼びかけた麻生太郎と、揃いも揃って金の苦労をしたことのないスーパーぼっちゃんの首相ばかりが続いた。そして政権交代後には、毎月一五〇〇万の子ども手当を母親から支給されていたことさえ知らず、「国民が聞く耳を持たなくなった」と言って首相の座を降りたキング・オブ・ぼっちゃんが登場した。
彼らの共通項は、生きることのむごさを一度として体験したことがないことだ。恵まれた環境で育ち、住むところの心配も、学費の心配も、食べる心配も、就職の心配も、病気になったらどうしようという心配も、将来への不安も知ることなく育ってきたのだろう。貧乏は不幸の入り口などというのは、言葉としては理解しても、その先にある人間の壊れ方など想像もつかない。そういう人々がこの国を動かしている。
「普天間」と「政治と金」問題での鳩山退陣後、今度は「市民派」を自称してきた菅直人が登場し、民主党の支持率はV字回復をした。しかし、彼は防衛問題に関しては鳩山政権をそのまま踏襲している。
思えば、小泉から菅直人まで共通していることが二つある。一つは、強い者の方にだけ顔を向け、決して自分では泥をかぶらないこと。二つ目は、沖縄もアイヌも旧植民地の問題もすべて棚上げにして、右傾化する世論に迎合することで、巧みに困難な問題を回避してきたことだ。世論(多数派)がダメだと言えばやらない、となれば、社会的少数者は永久に救われない。
政治はどんなことがあっても弱者救済でなければならない。そうでなければ、弱肉強食の資本主義経済を維持することなどできはしないのだ。
権力の暴走を食い止めるべきジャーナリズムもまた機能不全を起こしている。
多くの人々は、基地が自分の地域に来るのは嫌だと言い、では全面撤去に向けて鳩山政権を後押しするかといえばそれもせず、基地移転が不可能と知るや、それ見たことかと鳩山叩きに走った。そこには、自らの社会を自らが作るという意識はない。それをさらにマスコミが煽る。なんと異常な光景だろうか。
米軍は軍隊であり、軍隊とは人を殺すための集団だ。人を殺すことに迷いを持たない人間の集団、そこには、特定の人々は殺してもいい、という差別が存在する。そして、その暴力装置から莫大な利益を得るのがアメリカを中心とした軍需産業だろう。
だのに、移設ではなく基地の撤去という戦争そのものの否定につながらないのは、日本にもそこから利益を得る人間がいるからだ。加えて、官房機密費からあぶく銭をもらったマスメディアと評論家、コメンテーターの数々。これでは権力の暴走を止めることなどできはしない。すべてが弱者を踏みつけにすることで成り立っているのだ。
本書は、一九九六年に社民党から独立して結成されたの機関紙である「週刊新社会」で連載されたコラムを抜粋してまとめたものです。
新社会党は、日米安保体制に反対してきた筋金入りの政党と言ってもいい。この党は、はたから見ると不器用で、ちょっと古臭く、宣伝もうまくない。国会議員も一人もいない(二〇一〇年六月現在)。金もない。それでも、反戦を支持する人たちが手弁当で支え続けている組織だと言えばご理解いただけるだろうか。時代に流されずに筋を通す。そんな頑固者たちが私のコラムを支えてくれた(もちろん異論・反論もあったが)。これは、単に購読者が私のファンだということではなく、弱者の側に立ち、社会をより公平なものにしたいと願い行動する人たちの思いと連なるからだろう。
「生命が大事」とする人たちの思いが、私の言葉を通じてより多くの人に届くことを願ってやまない。
人材育成技術研究所 辛 淑玉
関連リンク
上記内容は本書刊行時のものです。