書店員向け情報 HELP
戦争障害者の社会史
20世紀ドイツの経験と福祉国家
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年2月28日
- 書店発売日
- 2021年3月9日
- 登録日
- 2021年1月26日
- 最終更新日
- 2022年1月12日
受賞情報
第43回「サントリー学芸賞」(思想・歴史部門)
書評掲載情報
2021-12-25 |
朝日新聞
朝刊 評者: 保阪正康(ノンフィクション作家) |
2021-05-08 |
朝日新聞
朝刊 評者: 保阪正康(ノンフィクション作家) |
MORE | |
LESS |
紹介
二度の大戦により、300万人におよぶ大量の戦争障害者を生み出したドイツで、国家に奉仕した「英雄」はどのようなその後を生きたのか。公的支援や医療の発達、義肢や盲導犬などの補助具の発展と、他方での差別や貧困、ナチへの傾倒などの多面的な実態を丁寧に描き、現代福祉の淵源を示す。
目次
序 章 戦争障害者の時代
――社会国家のもう一つの源流
第I部 第一次世界大戦へ
第1章 英雄か「怪物」か
――第一次世界大戦までの戦争障害者支援
はじめに
一 近代以前の表象と支援
二 国民軍の創設と民間慈善の組織化
三 統一戦争期の戦争障害者支援――軍事年金法の拡充
四 第一次世界大戦前の状況――一九〇六年の軍事年金法改正
おわりに
第2章 「労働による自立」
――第一次世界大戦下の戦争障害者支援
はじめに
一 開戦時の戦争障害者支援
二 戦争障害者支援の拡充――医療支援
三 「労働による自立」の貫徹――戦争障害者への就労支援
四 農村移住
おわりに
第II部 戦間期
第3章 「帰還者」の相互支援
――戦争障害者の組織化と政治化
はじめに
一 在郷軍人会と「キフホイザー同盟」
二 ヴァイマル期の除隊者・戦争障害者の組織化
三 ナチ党政権下における「合一」
おわりに
第4章 「生きた戦争記念碑」
――戦争障害者へのまなざし
はじめに
一 戦争障害者という呼称
二 誰が戦争障害者か?
三 戦争障害者の男性性
四 英雄からパリアへ
おわりに
第5章 「リサイクル」される戦争障害者
――国家援護の法制化
はじめに
一 戦争障害者支援の統合――全国援護法と軍事援護法
二 戦争障害者の就労状況
三 経済危機下の戦争障害者
おわりに
補論1 盲導犬
――戦争障害者のための「支援器具」
はじめに
一 戦時下の救護犬
二 第一次世界大戦下の戦争障害者支援と盲導犬の育成開始
三 戦争失明者から一般市民の視覚障害者へ
四 盲導犬に対する社会からのまなざし
五 ナチ政権下の変容
六 戦後の再建
おわりに――「支援器具」としての盲導犬
第III部 第二次世界大戦から二つのドイツへ
第6章 「戦争障害者は第一の市民である」
――ナチ党支配下の戦争障害者支援
はじめに
一 「民族共同体」の一員としての戦争障害者
二 国防軍援護法の制定
三 労働力としての戦争障害者――戦時動員の一形態
四 戦争障害者の自己意識と家族の感情
おわりに
第7章 「受肉した」敗戦の象徴
――占領統治下における再建と変容
はじめに
一 瓦礫社会からの出発
二 戦争犠牲者支援の停止
三 自主的な戦争障害者支援の展開
おわりに
第8章 「五つ目の車輪にはならない」
――西ドイツの戦争障害者支援
はじめに
一 西ドイツにおける国家援護の要求
二 戦争障害者への就労支援とその功罪
三 家族のなかの戦争障害者
おわりに
補論2 戦争記念碑と戦争墓
――戦争障害者支援の一形態
はじめに
一 ドイツにおける近代的な戦争記念碑の発展
二 第一次世界大戦後の戦争記念碑――ヨーロッパ的な共時性、時代を超えた普遍性
三 戦没兵士の帰還――戦争墓の設置
四 「栄誉の碑」設置をめぐる議論
五 第二次世界大戦後の戦争墓区画の再編
おわりに――「栄誉の墓」が表象するもの
終章 戦争障害者支援からみえてくるもの
あとがき
注
参考文献
初出一覧
図表一覧
索引
前書きなど
本書は、二〇世紀のドイツにおいて、二度にわたる世界大戦の時期に急激に増加した戦争障害者(Kriegsbeschädigter/Kriegsversehrter)をめぐる国家や民間の支援とその基盤となる思想を分析し、ドイツの社会国家が形成された過程をたどることを目的とする。対象とする時期は、一八七一年に成立したドイツ帝国、一九一八年の第一次世界大戦敗戦後に成立したヴァイマル共和国、一九三三年に非民主的な形で政権の座についたナチの統治期、そして第二次世界大戦後の占領期から東西ドイツの成立期を経て一九六〇年までとする。
従来のドイツ社会国家=福祉国家形成史に関する研究では、第一次世界大戦がその形成を後押ししたことが繰り返し指摘されてきた。本書はそれを、戦争障害者援護という要素を用いて実証することをめざす。戦争障害者への官民からの支援は、前線兵士の死者数はもとより傷病者数も大量に増え続ける第一次世界大戦中に、当事者の生活再建をめざす方向で構築された。すでに普仏戦争(一八七〇/一八七一年)後に傷病を負った除隊者への軍事年金を国家が支払う法律は制定されていたが(第1章参照)、それは軍隊内の位階別に金銭が給付されるもので、とくに徴兵による軍務遂行者にとって生業に戻れない場合の生活再建はほとんど考慮されていなかった。
死者数も傷病による除隊者も格段に増えた第一次世界大戦期には、その戦時中から戦争障害者の生活再建は、大……
[「序章」冒頭より]
上記内容は本書刊行時のものです。