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森林の系統生態学 広木 詔三(著) - 名古屋大学出版会
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森林の系統生態学 ブナ科を中心に

A5判
縦217mm 横156mm 厚さ25mm
重さ 659g
388ページ
上製
価格 5,400円+税
ISBN
978-4-8158-0987-4
Cコード
C3045
専門 単行本 生物学
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2020年4月30日
書店発売日
登録日
2020年3月18日
最終更新日
2020年4月28日
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紹介

従来の生態学が偏重しがちであった個体群ではなく、歴史性を担う種に注目し、遷移現象やすみ分けなど、樹木の種間関係を通じて森林群集を空間的・時間的に捉え直す。日本の多くの森林で優占種となっているブナ科を通して、系統分類学と生態学の統合を試みた、エコロジーの新地平。

目次

はじめに

序 章 種の特性と群集
1 種の認識について
 1-1 種についての認識の変遷
 1-2 種の概念について
2 種の実在性について
 2-1 種の実在性についての認識
 2-2 三中による種の実在性の否認
 2-3 認知能力の生得性と種の認識の問題
3 種分化と系統的放散
 3-1 種分化と形態的多様性
 3-2 種分化をとおしての系統的放散
4 種と群集
 4-1 種と群集をつなぐ系統群
 4-2 種と群集の特性
 4-3 群集の複雑性と多様性
 4-4 群集生態学
 4-5 群集についての全体論と還元論

第I部 植物の系統と分類
――ブナ科の位置付け

I-1 植物の系統と被子植物
1 植物の系統
 1-1 ライニアとマツバラン
 1-2 裸子植物
2 被子植物の多様性
 2-1 被子植物の誕生
 2-2 被子植物の多様性と系統
 2-3 樹木と草本の分化
3 草本の特殊化の典型例
 3-1 ホソバノハマアカザの種子の二型性
 3-2 2種類の種子の発芽特性の違い
 3-3 ホソバノハマアカザとハママツナのすみ分け
 3-4 二年生草本ハマサジの生存戦略

I-2 ブナ科の系統と学名
1 ブナ科の系統
 1-1 ブナ目
 1-2 ナンキョクブナ科
 1-3 世界のブナ科
 1-4 日本のブナ科
2 ブナ科における系統と新しい分類体系
 2-1 ブナ科の系統
 2-2 ブナ科における亜科の区分について
 2-3 コナラ属における新しい体系
3 果実と殻斗の進化
 3-1 Formanによるカクミガシの発見
 3-2 ブナ科における果実と殻斗の進化
 3-3 ナンキョクブナ科における殻斗と果実
4 ブナ科と学名
 4-1 学名について
 4-2 学名と図鑑・植物誌
 4-3 ツブラジイ、スダジイおよびオキナワジイの学名の変遷
 4-4 ツブラジイとスダジイにおける種名の逆転
 4-5 ミズナラの学名

 エピソード1【学名の分類学の難しさ】

第II部 樹木の生活史と生態
――ブナ科に即して

II-1 ブナ科の生活史
1 ブナ科の種子発芽
 1-1 短期発芽と長期発芽
 1-2 シラカシの種子発芽
 1-3 クヌギの種子発芽
 1-4 ブナの種子発芽

 エピソード2【松原輝男さんとの出会い】

2 ブナ科の種子と果実
 2-1 種子と果実の大きさが意味するもの
 2-2 カバノキ科の種子との比較
 2-3 ブナの結実周期

 エピソード3【ブナの実拾って17年】

3 樹木の萌芽再生
 3-1 萌芽再生の意義
 3-2 根の貯蔵養分と萌芽再生
 3-3 ブナ林構成種3種における萌芽特性の違い

II-2 ブナ科における近縁種の分布、生態および雑種形成
1 アベマキとクヌギ
 1-1 アベマキとクヌギの分布
 1-2 アベマキとクヌギの形態の違い
 1-3 アベマキとクヌギの種子発芽特性と星状毛の有無
 1-4 アベマキとクヌギの雑種形成と交雑帯について
 1-5 クヌギの植栽と帰化植物の可能性
 1-6 山形県に分布するアベマキ
2 ツブラジイ、スダジイおよびオキナワジイ
 2-1 スダジイとツブラジイの分布
 2-2 スダジイとツブラジイの形態と生活史の違い
 2-3 スダジイとツブラジイの生態的特性の違い
 2-4 スダジイとツブラジイの雑種について
 2-5 東三河における植栽起源のスダジイの分布拡大
 2-6 葉の表皮組織が2層であることの意味
 2-7 スダジイの起源と人間による伝搬説
 2-8 氷期におけるスダジイの分断と日本産シイ類の系統について

 エピソード4【シイの実拾って11年】

II-3 フモトミズナラの分類学的位置付けと生態
1 フモトミズナラの分類学的位置付けをめぐって
2 フモトミズナラのカシワモドキ説
3 フモトミズナラの遺伝子解析の研究
4 フモトミズナラの雑種起源説
5 フモトミズナラの生態

 エピソード5【フモトミズナラを見て27年】

第III部 森林のダイナミクス
――火山植生の遷移を中心に

III-1 植生遷移研究の歴史的概観
1 植生遷移研究の始まりと古典的な論争の時期
2 遷移の古典理論の完成
3 クレメンツの遷移理論の構造とその問題点
4 遷移研究におけるその後の展開
5 遷移理論におけるパラダイム転換
6 火山植生遷移の研究史概略

III-2 桜島における火山植生遷移
1 田川による火山植生遷移の研究
 1-1 田川の研究の意義
 1-2 桜島における溶岩上の初期遷移
2 田川の研究における問題点
 2-1 遷移後期に優占する樹種の問題
 2-2 森林伐採の影響
 2-3 空間的な配置から時間軸を読み取る問題
 2-4 極相に達するまでの時間
 2-5 果たしてスダジイ林は極相と呼べるのか

III-3 三宅島溶岩上における火山植生遷移
1 三宅島における噴火、火山噴出物、および植生の概況
 1-1 噴火と火山噴出物
 1-2 植生の概況
2 1962年溶岩上における植生遷移
 2-1 1962年溶岩上における植生の概況
 2-2 種の侵入パターン
 2-3 3種における種子散布特性の違い
3 1874年溶岩上における植生の発達と遷移
4 発達したスダジイ林とタブノキ林
 4-1 古い溶岩上のスダジイ林
 4-2 大路池わきのタブノキ林
5 三宅島における遷移のパターン、メカニズム、モデル
 5-1 植生遷移のパターン
 5-2 遷移のメカニズム
 5-3 ストレスと攪乱を組み込んだ森林動態のモデル
6 三宅島における植生遷移の特色
 6-1 オオバヤシャブシとフランキアの共生
 6-2 三宅島ではカシ類が欠如すること
 6-3 三宅島で植生遷移の進行が速いと考えられる理由
 6-4 局所的極相という概念

III-4 磐梯山における火山植生遷移
1 磐梯山の噴火と植生遷移
 1-1 磐梯山における遷移研究の意義
 1-2 磐梯山の噴火史概略
2 植生パターンを成立させる要因
3 岩塊地における森林の成立と遷移
 3-1 先駆種と後続種
 3-2 胸高直径と樹齢
 3-3 イタヤカエデとミズナラの侵入パターンの違い
 3-4 アカマツの植栽と森林の遷移
4 泥土地帯における植生遷移
 4-1 ススキ草原の遷移
 4-2 湿性遷移
5 遷移の後期過程における問題
 5-1 ブナの侵入が遅いのはなぜか
 5-2 山腹岩塊上における混交林の問題
 5-3 丸山ブナ林

III-5 穂高岳右俣谷の渓谷林における森林のダイナミクス
1 穂高岳右俣谷の概況
2 右俣谷の渓谷林における樹種構成
3 サワグルミの結実周期と実生の消長
 3-1 サワグルミの結実周期
 3-2 サワグルミの実生の消長
4 サワグルミとトチノキの生存戦略の違い
5 雪崩崩落跡地における植生遷移
6 ヒロハカツラの生存戦略

 エピソード6【右俣谷における雪崩との出会い】

III-6 大根山湿地における植生遷移
1 大根山湿地の概況
2 大根山湿地の地形、水系および水位
3 大根山湿地における樹林の発達
4 森林伐採の時期と湿地の拡大
5 大根山湿地の誕生と衰退をめぐって

III-7 遷移の理論に関する諸問題
1 倉内の植生遷移に関する研究の検討
2 遷移における位相の問題
3 極相概念のゆらぎ
4 種の位置付けに関する問題
5 熱帯と温帯における遷移現象の違い

 エピソード7【チャンスと出会い】

第IV部 すみ分けと種分化

IV-1 すみ分け論
1 渓流性昆虫におけるすみ分け
 1-1 今西のすみ分け原理
 1-2 谷田によるシマトビケラ幼虫の研究
2 すみ分け論の検討と拡張
 2-1 ニッチ概念の概略
 2-2 ニッチ概念の問題点
 2-3 すみ分けとニッチ
 2-4 種間関係と競争
 2-5 ハッチンソンの洞察
 2-6 すみ分け概念の拡張
 2-7 すみ分けの英文表記について

IV-2 樹木におけるすみ分け
1 樹木におけるすみ分け現象の発見とその認識
 1-1 針葉樹類におけるすみ分け現象の発見
 1-2 北米ナラ類における種間関係の解釈をめぐって
 1-3 スギ(裸子植物)とブナ(被子植物)におけるすみ分け
2 ブナ科の系統群におけるすみ分け
 2-1 日本のブナ科の系統群におけるすみ分けのパターン
 2-2 ブナとイヌブナのすみ分け
 2-3 コナラ節におけるすみ分け
 2-4 ブナとナラ類の関係
 2-5 カシ類におけるすみ分け
3 ブナ科以外の系統におけるすみ分け
 3-1 ヤナギ属の系統群における種のすみ分け
 3-2 バラ科のサクラ類の系統群における種のすみ分け
 3-3 ムクロジ科のカエデ属の系統群における種のすみ分け
 3-4 カバノキ科の系統群における種のすみ分け
4 種のすみ分けと森林帯
 4-1 モミとツガのすみ分け――太平洋側針広混交林
 4-2 イスノキとイチイガシ――暖温帯林
5 すみ分けと生態的統合

IV-3 樹木における種分化
1 コナラ属における種の問題
2 ミズナラにおける種内文化
 2-1 北海道北部海岸に分布するミズナラのエコタイプ
 2-2 ミズナラから分化しつつあるミヤマナラ
3 モンゴリナラの系統と種分化
 3-1 モンゴリナラとミズナラの分化
 3-2 分類学的系統と遺伝子の系統
4 フモトミズナラの誕生と分布拡大
5 種分化と断続平衡論
 5-1 オニグルミの起源について
 5-2 断続平衡論からみた種分化

 エピソード8【一般教育について】

第V部 森林群集論

V-1 森林の成り立ちと構造特性
1 樹木と環境
 1-1 森林を成り立たせる要因
 1-2 複合要因としての風ストレス
 1-3 植生と群系
2 森林と階層構造
3 細胞膜とのアナロジー
4 植生連続体説
5 連続体としての森林群集

V-2 樹木社会学批判
1 森林を社会として捉えることの問題点
2 今西の種社会概念と種の認識
3 樹木の情報伝達機構について
4 種の共同と共存をめぐって
5 樹木の相互作用と社会性

V-3 森林群集論
1 森林群集論の枠組み
2 歴史性
 2-1 種分化
 2-2 系統的放散
3 生態的統合
 3-1 森林における生物間相互作用
 3-2 森林群集における種間関係
4 系統と生態の関係――ブナ科とカエデ属を例に

終 章 系統生態学の展望

引用文献
あとがき
索引

前書きなど

人類社会はかつてない飛躍的な発展を遂げ、人口増加と生産活動の高まりが、地球上の生態系に大きなインパクトを与えている。人間活動の増大にともなって、熱帯林が減少し、多くの種が絶滅したか、あるいはまた絶滅の危機にさらされている。このような背景のもとで、私たち人間は、近年ようやく、生物多様性の重要性を認識するに至った。

森林は、人間による改変の影響を被る前から、大陸移動や気候変動などの大きな変動にさらされてきた。森林の可塑性はきわめて大きく、大きな変動を受けても、森林は自律的に再生することができる。このような森林の可塑性は、それを構成する種とその個体の緩やかな統合体という森林の性格そのものにある。森林は、個々の樹木どうしが相互作用を行う局所的な存在であるとともに、どこまでも連続した森林群集としての性格をもっている。また、森林群集は空間的に連続したひろがりをもつ実体であるとともに、森林を構成する種の誕生と分布の遷移という歴史的な側面を含んでいる。したがって、森林群集は地理的・歴史的な種の統合体として捉えることができる。

森林の生態学的研究に、樹木の系統の視点を取り入れようと試みたものが本書であり、本書のタイトルに使用している系統生態学(phylogenetic ecology)は、未だ確立された分野ではない。これまでの生態学にとって、種は群集を構成する一つの要素に過ぎなかった。しかし、種の分布や生態について具体的に知れば知るほど、その種がたどってきた歴史性と系統の問題に突き当たらざるをえない。種分化は生物多様性の源泉であるが、ほとんどの場合、種分化が進行した実際のプロセスはわかっていない。それにもかかわらず、多くの系統がそれぞれの祖先から分岐したことは疑いえない。それぞれの系統に属する種は、それが属する系統に何らかの制約を受けているように見え、系統内でお互いに何らかの類似性と共通性をもっている。しかし、それぞれの系統は系統の制約を受けながらも、つねに変異を生み出し、新しい種を生み出す傾向をもってい……

[「はじめに」冒頭より]

著者プロフィール

広木 詔三  (ヒロキ ショウゾウ)  (

1944年 茨城県に生まれる
1974年 東北大学理学研究科博士課程修了
    名古屋大学教授、愛知大学特任教授等を経て
現 在 名古屋大学名誉教授、理学博士
著 書 『里山の生態学』(編著、名古屋大学出版会、2002)他

上記内容は本書刊行時のものです。