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ソビエト・ミルク
ラトヴィア母娘の記憶
- 初版年月日
- 2019年9月
- 書店発売日
- 2019年9月13日
- 登録日
- 2019年8月8日
- 最終更新日
- 2019年8月23日
書評掲載情報
2019-12-08 |
毎日新聞
朝刊 評者: 中島京子(作家) |
2019-12-07 |
日本経済新聞
朝刊 評者: 秋草俊一郎(比較文学者) |
2019-10-13 |
毎日新聞
朝刊 評者: 沼野充義(東京大学教授・スラブ文学) |
2019-10-13 | 読売新聞 朝刊 |
2019-09-22 | 毎日新聞 朝刊 |
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紹介
ラトヴィアは、医師全体に占める女医の比率(7割超)と教育機関における女性管理職の比率(8割超)で、OECD(経済協力開発機構)加盟国中でもトップの座にある。この物語の核をなす母親もまた、産婦人科医として生命の誕生に携わる現場に身をおいている。
ソビエト体制下の閉塞感に追い詰められていく母親は、出産直後の娘に乳を与えなかった。その傍らで祖父母は孫娘を養育しながら、密かに語り聞かせる――「かつてラトヴィアという国があったのだよ」
「母」と「娘」という、名前の与えられていない二人の語り手は、交互にリレーをしながら繊細にたゆたう関係を紡ぎあい、それぞれの葛藤をひもといていく。そこにわずかに登場する男たちの存在感は、断片的なものにすぎない。そもそも生命と記憶は、母から娘へと継承されるものだというかのように。
物語にインパクトを与えるのが、キリストを思わせるイェセと正教会の聖人セラフィムにちなんだ名をもつ人物であり、いわばオーウェル『一九八四年』のウィンストン・スミスである。ソビエト時代の人々はまた、アメリカのカウンターカルチャー、ブレジネフの死、チェルノブイリの原発事故、そしてベルリンの壁崩壊という、20世紀後半をガタガタと揺るがした出来事を肌身で切実に感じとっていた。物語は極めて個人的な母娘の関係を軸としながら、「人生は生まれた時代と場所で決まる」という普遍性を兼ね備え、同時にラトヴィアの森や暮らしの匂いも漂わせる。
本作は、“We, Latvia, 20th century”をテーマに現代作家たちが取りかかった小説シリーズの一作である。2015年に出版されて本国で記録的なベストセラーとなった。著者は本作を、女医であった実の母に捧げるものであるとともに、もし自分が出産を経験していたならばこれを書くことはなかっただろうとも述べている。原題M?tes piensの直訳は、すばり『母乳』。(くろさわ・あゆみ 翻訳家)
上記内容は本書刊行時のものです。