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描画にみる統合失調症のこころ
アートとエビデンス
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2018年9月
- 書店発売日
- 2018年9月1日
- 登録日
- 2018年8月7日
- 最終更新日
- 2018年9月6日
紹介
患者さんの描く絵に共通する特徴とは
統合失調症は、全人口の約100人中1人が発症する、比較的頻度の高い精神障害です。その症状の経過や退院時期などの見極めを、描画法の心理検査を用いてどう行えるのでしょうか。本書では患者さんが実際に描いた約80点の描画を収載し、個別の解釈(アート)と描画特徴の統計的な分析(エビデンス)という両側面から、それらのユニークな心象風景および障害の全体像の解明を試みました。あわせて、筆者らが考案した「草むらテスト」という描画テストを紹介し、心理臨床で用いる際の手引書となるように内容を構成しています。
目次
描画にみる統合失調症のこころ 目次
まえがき
第1章 統合失調症について
はじめに
統合失調症とは
患者さんの体験・症状生起
私の出会った患者さんの話
第2章 草むらテスト
実施手続き・描画課題
風景構成法ではどうなるか
統合型HTP法ではどうなるか
教示方法の工夫
描画例健常者の場合
描画例統合失調症患者の場合
描画特徴の比較
●特徴の出現数 ●500円の描き方
統一的視点の設定困難
●視点のちがい ●個別の解釈
患者さんの描画と解釈の例
●東大一直線 ●風景構成法の患者さん ●家の象徴
●金属探知機での探索 ●自動販売機
●断片化の著しい描画 ●目玉棒人間
●身体から木が生える描画 ●I love youの描画
●クローン人間の描画
第3章 樹木画と病棟認知地図
患者さんの描画例
●47歳男性 ●28歳男性
描画特徴の相違点と共通点
病棟認知地図の三つのタイプ
樹木画の描画特徴
第4章 視点変換課題
健常者の描画例
患者さんの描画例
●横一列 ●同構図 ●その他のパターン
●正変換できたケース
描画特徴の出現率
第5章 コーヒーカップ課題
患者さんの描画例
●カップと受け皿の分離 ●二重写しと包含 ●接合
●視点の統一が三次元的にとられている例 ●まとめ
描画特徴の出現率
第6章 描画課題間の特徴の比較
「分離」の出現率の比較
草むらテストの課題設定の特異性
描画特徴の空間的布置
第7章 描画の全体的印象
全体的印象の因子分析
第1因子静態性
第2因子写実性
第3因子非整合性
第8章 長期経過と描画の特徴
退院の予測
描画特徴の5年経過
●多変量解析 ●経過の予測モデル
第9章 症例検討Ⅰ
症例A 男性(入院時30歳~)
●第1期(30歳~34歳) ●第2期(35歳~39歳)
●第3期(40歳以降)
描画の変遷
●第1期の描画 ●第2期の描画 ●第3期の描画
状態と描画の関連
草むらテストの縦断的分析
第10章 症例検討Ⅱ
症例B 女性(入院時34歳~退院時57歳)
●第1期(34歳~47歳) ●第2期(48歳~52歳)
●第3期(53歳~57歳)
描画の変遷
●第1期の描画 ●第2期の描画 ●第3期の描画
状態と描画の関連
あとがき
前書きなど
描画にみる統合失調症のこころ まえがき
本書は、統合失調症の患者さんたちが実際に描いたさまざまな描画を通じて、統合失調症という精神障害の全体像や心象風景、患者さんそれぞれの人となりを垣間見るとともに、私たちのグループが考案した「草むらテスト」というオリジナルの描画テストについて、その実践手続きや、これまでに積み重ねられた実践や研究を解説した本です。
副題には「アートとエビデンス」と掲げました。
本年は、臨床心理を専門の仕事とする人たちにとって待望されていた国家資格の「公認心理師」がいよいよ誕生する節目の年ですが、国家資格となることで、公認心理師には自らの実践の根拠に関する説明責任が社会に向けて一層求められるようになることでしょう。現に、一般財団法人日本心理研究センターの監修による『公認心理師現任者講習会テキスト』(2018年度版)においても、「公認心理師には、臨床場面でクライエントについて理解してゆく過程の心理アセスメントにおいて明確なエビデンスに基づくことが必要である」と述べられていました。
しかし「アート」でもある描画法の心理アセスメントにおいて、最初から実証されているものはあり得ません。実践でそれが用いられる中、最初はさまざまな疑問が生じ、その疑問に答えるような形でデータが集められ、分析され、だんだんと検証されてゆくのではないでしょうか。そうした疑問、検証の繰り返しの過程を経て、一定のエビデンスが積み重なってゆくものだと思います。
草むらテストは、学術誌への最初の公表から30年以上の時間を経て、いまや数多くの知見を蓄積することができ、他の描画法の心理検査では得られなかった発見もありました。それらをここで一度まとめ、公表することには、描画法のエビデンスベイスト・アプローチの実践例を紹介するという意味合いにおいても意義があると考えました。それが本書の出版を企図したことの大きな理由です。
もうひとつ、別の理由もあります。
ひとりの臨床心理の専門家が、統合失調症の心の不思議に魅せられ、その有様を明らかにするために悪戦苦闘した様子を開示することで、臨床心理に馴染みのない一般の人たちにも、臨床心理学の専門家がどのように考えを進めてゆくのかについての理解が得られるのではないかと期待しているのです。そうした共通理解に基づく対話の成り立ちによって、専門家である私たちの技量はより精緻なものになり、安定し、患者さんへの心理臨床の実践にとってもさらに役立つものへと成長することでしょう。
本書への描画の収載にあたっては、個人が特定される情報を割愛しました。また、本書の描画は、草むらテストを始めたころのものが中心で、患者さんの中にはすでに亡くなられた方もいらっしゃり、病院との関係が切れている方もいらっしゃいます。描画の使用を含めた症例報告は、退職された複数の主治医のかかわった古いカルテや、患者さんに日常的にかかわった多くの看護師の古い看護記録も参照し、病院の倫理委員会の承認を受けて行っています。さまざまな描画テストに臨んでくださった患者さんをはじめとして、多くの病院スタッフの膨大な時間を費やした記録を背景にしてこの本が成り立っています。
本書が、公認心理師をはじめとする心理臨床の専門家や、精神科臨床に携わるスタッフ、そして統合失調症の患者さんとご家族の方々にとって有益なものとなりますことを、心から願っています。
2018年 8月
横田正夫
上記内容は本書刊行時のものです。