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利己的細胞 帯刀 益夫(著) - 新曜社
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利己的細胞 (リコテキサイボウ) 遺伝子と細胞の闘争と進化 (イデンシトサイボウノトウソウトシンカ)

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発行:新曜社
四六判
288ページ
並製
価格 2,600円+税
ISBN
978-4-7885-1577-2   COPY
ISBN 13
9784788515772   COPY
ISBN 10h
4-7885-1577-6   COPY
ISBN 10
4788515776   COPY
出版者記号
7885   COPY
Cコード
C1040  
1:教養 0:単行本 40:自然科学総記
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2018年4月
書店発売日
登録日
2018年3月8日
最終更新日
2018年4月3日
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紹介

利己的なのは、遺伝子を操る細胞だった!
 著者は、小社刊『遺伝子と文化選択』 で「ヒト」という種が「人間」になるためには「自然選択」による遺伝子の進化だけでなく「文化選択」が必要であったことを提唱し、生命科学や心理学に新たな視点をもたらしました。本書は、35億年前の始原細胞から細菌、植物、動物、そしてヒトに至る生物進化を細胞の変遷の歴史としてたどり、ドーキンスの『利己的遺伝子』に言うように「遺伝子が乗り物を操る」というより、「乗り物としての細胞が遺伝子を操る」のであり、「利己的なのは細胞である」という結論に至ります。遺伝子と細胞の進化を新しい視点から捉えた、一般読者にも興味尽きない一冊です。

目次

利己的細胞 目次

はじめに

第1章 利己的遺伝子と乗り物の戦い
 「遺伝子」と「細胞」とは
 「利己的遺伝子」と「乗り物」とは
 典型的な利己的遺伝子としての多剤耐性因子
 プラスミドは利己的遺伝子として振る舞う
 バクテリオファージは利己的遺伝子として振る舞う
 細菌の兵器となってゆく利己的遺伝子
 細菌の防衛型兵器
 細菌の資源争いの平和的解決
 栄養不足が決める細菌の運命

第2章 利己的遺伝子が進めた細菌の遺伝子進化
 細菌の進化の歴史
 遺伝子進化の全貌から見た、細菌の進化を進めた要因
 遺伝子の水平伝搬が細菌のゲノム進化の推進力
 「赤の女王」仮説にしたがう海洋細菌とファージの共進化
 腸内での細菌と、ファージの集団的な互恵関係
 細菌世界の進化のまとめ

第3章 真核細胞の出現
 真核細胞の特徴
 真核細胞出現のシナリオ
 ミトコンドリアがもたらした、真核生物のエネルギー革命
 染色体と核の成立
 Ⅱ型イントロンが導いた真核細胞の成立
 利己的遺伝子が誘導した、真核細胞成立のシナリオ
 まだ続いている、利己的遺伝子と真核細胞との戦い
 多細胞体系への進化

第4章 真核細胞の寿命と死
 個体発生における細胞の増殖のしくみ
 「細胞の競争」という細胞間の利己的争い
 体細胞には細胞寿命がある
 アポトーシスは、動物細胞の「自殺」
 細胞死の誘導のしくみ
 動物ウイルスも宿主細胞の自殺装置を利用する
 なぜ、ミトコンドリアはアポトーシスとかかわりがあるのか
 真核細胞と細菌の自殺装置はよく似ている
 自殺装置の進化は「葉隠」の精神に通じる

第5章 動物細胞の利己性
 永遠に生きる生殖細胞は利己的か
 生殖細胞と体細胞は互換性がある
 精子の利己的選択
 脳(神経)細胞は利己的か
 がん細胞は利己的か
 利己的細胞として永遠に生きる伝染性がん細胞
 人間が作りだした利己的細胞たち

第6章 人間が「利己的遺伝子」を操る時代
 「ゲノム編集」という新たな武器
 マラリアを撲滅する計画
 人間は、「利己的遺伝子」は作れるが、「乗り物」は作れない

第7章 始原細胞はどのようにして創られたか
 始原細胞は設計図なしに創られた
 始原細胞は「遺伝子」と「乗り物」だけで自立増殖を始めた
 始原的「乗り物」は、それ自体で成長と分裂をくりかえす
 始原的な遺伝子はRNAだった
 始原細胞誕生のシナリオ
 始原細胞の遺伝子数は、どれくらい必要だったのか

第8章 「利己的遺伝子」仮説から「利己的細胞」仮説へ
 これまでのまとめ
 「利己的遺伝子」の科学的実体
 増殖機械を規定する利己的遺伝子の実体を解明する研究
 「細胞」は「利己的遺伝子」を乗せた「増殖機械」
 「利己的遺伝子」と「統合進化学説」
 遺伝子型と表現型の対応関係
 「ブリコラージュ」と「エンジニアリング」
 生物進化における選択圧は、生き物のどの水準ではたらくか
 利己的なのは遺伝子ではなくて、細胞である

エピローグ
 今、地球上の生き物たちは
 そして、われわれは

あとがき
用語解説
参考文献

装幀=新曜社デザイン室

前書きなど

利己的細胞 あとがき

  宇宙論では、「我々がここにいて観測できるように世界は微調整されている」という仮説を「人間原理」と呼んでいます。最近の宇宙論では、ユニバースだけでなく、マルチバース、つまりたくさんの宇宙が並行して存在し、その中に、知能を持つ「生命体」が生まれたことで観測ができるようになった宇宙が、ユニバースとしてその実在が確認されるという説もあります。このような宇宙論の暫定的定義によれば、「生命体」なるものは、「ダーウィン進化が可能な化学システム」ということになるといいます。

 我々人間は、この「生命体」の1つの姿としてこの宇宙に存在しています。リチャード・ドーキンスは、『利己的遺伝子』( The Selfish Gene )の冒頭で、「ある惑星上で知的な生物が成熟したといえるのは、その生物が自己の存在理由をはじめてみいだしたときである」と述べ、地球外生物と邂逅できるようになった時、お互いに問い合うのは「進化ということを知っているか」になるだろうと述べています。

 実際、地球上の生物は、30億年ものあいだ、自分たちがなぜ存在するかを知ることもなく生き続けてきたのですが、ダーウィンの進化論によって、我々の存在理由について筋の通った説明が可能になったのです。ダーウィンの進化学説の現代的理解では、地球上のすべての生物種は単純なものから始まり、自然選択を受けて進化してきた、それは、どの種の中でも、ある個体が他の個体より生存能力の高い子孫を残したものが自然選択を受けて、より次世代の子孫を増殖させる、そして、その原因をなすものが「遺伝子」である、ということになります。

 『利己的遺伝子』は1976年に出版されると、「生物界を操る利己的遺伝子の真相に迫る天才的生物学者の洞察が世界の思想界を震憾させる」として、世界各国で翻訳され、大ベストセラーとなりました。ここで遺伝子に「利己的」という言葉を使う論理的根拠ですが、ドーキンスは、進化の決定的な論理によって自然選択がはたらいて、その結果として「必然的に利己的となる実体」は、生命の階層構造のレベルのうち「遺伝子」でなければならないと結論し、ダーウィニズムのメッセージは、「利己的遺伝子」という概念でより簡潔に説明できるのだとしています。

 ドーキンスは、「利己的」の意味を、遺伝子が親から子供へと連綿と伝わってゆく「本性」のことだと定義した上で、「連綿と生きつづけていくのは遺伝子であって、個人や個体はその遺伝子の乗りもの(vehicle)であり、遺伝子に操られたロボットにすぎない」と主張しました。

 ドーキンスは「利己的遺伝子」を「比喩的」に用いているのですが、そうすることによって一般の読者に、現代の進化学説としての「統合進化学説」(ダーウィンの進化論とメンデルの遺伝学を統合した理論)のエッセンスを理解させることに貢献しました。しかし一方でドーキンスは、現代の分子遺伝学の理論に基づくと、一般の人びとの理解と遺伝子の実体とのあいだに混乱を招いてしまっていることも事実です。

 現代の「統合進化学説」では、生物種の集団中に偶然に遺伝子変異が起きて、その中から、ある環境において、生存に有利な変異遺伝子を持つ個体だけが選択を受けて生き残り、子孫を増やすのだと説明しています。実際、21世紀初頭のヒトゲノム解読をはじめとして、これまでたくさんの生物種のゲノムが解読され、こうしたゲノムの分析から、個々の遺伝子が自然選択を受けたことを示す証拠がいくつか報告されるようになりました(ゲノムとは、遺伝情報の全体を指す言葉です)。

 細菌のような単細胞生物は、1個の細胞が1個の命として生きています。そこで、ドーキンスのいう「乗り物」とは、「細胞」のことだと解釈できます。我々人間の個体は、およそ60兆個の細胞でできていて、「利己的遺伝子」を乗せた「細胞」の集合体です。したがって、「細胞は利己的遺伝子に操られたロボットだ」ということになります。細胞生物学や分子生物学の研究に携わってきた私は、この考え方に疑問を抱きました。そこで、本当に「細胞は利己的遺伝子に操られたロボット」として進化してきたのかを、現代の細胞生物学や分子遺伝学の研究成果をもとに、再検討してみようと考えました。

 というのも、「生き物」がどのように自然の選択圧という外圧を克服して進化を遂げてきたかを考えると、そこには、選択圧に抗するために、「利己的遺伝子」と「細胞」が対立し、相克しあう戦いがあり、それが「細胞」の内部矛盾となり、この矛盾を解決して初めて、「生き物」として安定に、しかも持続的に繁栄できるように進化してきたと考えることができるからです。

 具体例として、もっとも単純な「利己的遺伝子」と「乗り物」であると想定できるプラスミドDNAやバクテリオファージ(ウイルス)を「利己的遺伝子」、細菌を「乗り物」と見立てて、その関係に注目してみましょう。すると、「利己的遺伝子」は確かに「乗り物」を操り、子孫の拡大を図ることに成功しますが、「乗り物」としての細菌は、「利己的遺伝子」を、その生存を守るための道具として「操り」、最終的に細菌の進化に貢献させることがわかりました。

 ヒトをはじめとする多細胞生物は真核細胞という細胞の集団ですが、真核細胞は、偶然生じた2つの細菌の融合によるゲノム闘争によって生じた歴史があります。真核細胞の成立の進化過程を覗いてみると、細菌間のゲノム闘争という利己的争いの中で、お互いのゲノムの利害の調整を図り、ミトコンドリアなどの細胞内オルガネラ(細胞内部の機能的構造体)の発達やゲノムの増量、染色体の形成などを起こし、現在の真核細胞を出現させたことがわかりました。

 こうした細胞進化の歴史をたどると、ゲノムを生存システムとして操作した「細胞という乗り物」が、自然選択を乗り越えたことがわかりました。そして、細胞の進化の本質は、後で詳しく述べますが、細菌から真核細胞に至るまで、その基本原則は、細胞が利己的遺伝子の「他殺装置」を「自殺装置」に変えるための「抑制装置」の改善にあったとみることができます。それは、「葉隠」の「武士道とは死ぬことと見つけたり」という精神と共鳴するものであり、「死を賭して生きる」ことが、生き物の真の姿だとも言えるのです。

 そして「利己的遺伝子」の本性を知った人間は、「遺伝子操作」や「ゲノム編集」、ES細胞やiPSと細胞という細胞操作などの技術を生み出して「利己的遺伝子」を操り、他の生物種の品種改良はもとより、自己の改善も具体化できる時代となりました。

 このように、「利己的遺伝子」と「乗り物」としての細胞の闘争という見方をすると、我々が今ある姿の始まりとなった始原細胞がどのように誕生したかを含めた細胞進化の歴史の本質がクローズアップされてきます。細胞進化の歴史は、ゲノム進化によって支えられていますが、一連の出来事の解釈は、「利己的遺伝子」が細胞を操るというより、細胞が利己的に遺伝子を操って、自然の選択圧を乗り越えてきたという見方のほうが正しいと思えてきたのです。

 そこで私は、「必然的に利己的となる実体」とは、「遺伝子」よりも「細胞」の方が妥当だという結論に達しました。こうした「利己的細胞」の考え方に立つと、20世紀の遺伝学の主流である「統合進化仮説」には、現代のゲノム科学や細胞生物学の成果を取り入れた修正が必要であることもわかりました。

 そして、「利己的遺伝子」と乗り物としての「細胞」とのあいだで繰り広げられた絶え間ない軍拡競争の歴史の結果として、今我々が宇宙の一員として存在することを考えたとき、偶然から必然になった生物進化の歴史を経た結果としての自分の存在が、いかにかけがえのないものであるかに気づかされます。

上記内容は本書刊行時のものです。