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社会心理学・再入門
ブレークスルーを生んだ12の研究
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2017年9月
- 書店発売日
- 2017年9月20日
- 登録日
- 2017年8月31日
- 最終更新日
- 2017年9月22日
紹介
◆人間の本質に迫る古典的研究を精選!
「スタンフォード監獄実験」など、今日でも私たちの人間理解に大きな影響を与え続けている社会心理学の古典的研究は、多くの教科書に取り上げられ、広く知られている一方で、近年、それらの研究の再現可能性や倫理的な問題が議論されています。本書は、こうした重要な研究が生まれた社会的背景や研究の実際、その後の批判と展開、社会に与えたインパクトまで、詳しく、誰でも興味深く読めるよう解説しています。普通の教科書では学べない、社会心理学研究の価値と魅力を改めて発見する、再入門への誘いの書です。
目次
社会心理学・再入門 目次
■はじめに─社会心理学の古典から学ぶ
古典的研究の要素
古典的研究・再入門
各章の構成
本書の目的と構成
1 社会的促進と社会的手抜き
トリプレットの競争研究・再入門
背景
社会心理学の夜明け
競争研究
トリプレットの研究の影響
結論─社会心理学へのトリプレットの遺産
2 態度と行動
ラピエールのホスピタリティ研究・再入門
背景
ホスピタリティ研究
方法と結果
ホスピタリティ研究の影響
ホスピタリティ研究を超えて
結論
3 認知的不協和
フェスティンガーの「世界の終わり」研究・再入門
背景
第一の不協和研究─『予言がはずれるとき』
『予言がはずれるとき』の影響
第二の不協和研究─強制承諾の心理
認知的不協和研究がもたらした影響
2つの古典的研究を超えて─不協和の概念の発展
結論
4 規範形成
シェリフの光点の自動運動研究・再入門
背景
自動運動効果(Autokinetic Illusion: AKI)研究
理論的意義
後続研究
自動運動効果研究を超えて─別の説明と知見
自動運動効果研究の影響
自動運動効果研究を超えて─規範形成への新しいアプローチ
結論
5 同調
アッシュの線分判断研究・再入門
背景
線分判断実験
後続研究
線分判断研究の影響
アッシュの研究を超えて
結論
6 少数派の影響
モスコビッチの青―緑残像実験・再入門
背景
青―緑残像研究
研究の影響
研究に対する批判─代替説明と方法論的問題
結論
7 服従
ミルグラムの衝撃的な実験・再入門
背景
スタンレー・ミルグラムの服従研究
アーレントとミルグラムがもたらした影響
服従に関する諸研究
服従研究を越えて
検証と影響
結論
8 暴政
ジンバルドーのスタンフォード監獄実験・再入門
背景
スタンフォード監獄実験
スタンフォード監獄実験の影響─特性主義への挑戦
スタンフォード監獄実験を越えて
─状況主義への挑戦と相互作用主義の進歩
スタンフォード監獄実験への疑問
─何が「自然」「新奇」「正常」だったのか
スタンフォード監獄実験を拡張する
─社会的アイデンティティとリーダーシップの役割
結論
9 集団間関係と葛藤
シェリフのサマーキャンプ実験・再入門
背景
サマーキャンプ実験
サマーキャンプ実験の影響
サマーキャンプ実験への批判
サマーキャンプ実験を超えて
結論
10 差別
タジフェルによる最小条件集団実験・再入門
背景
最小条件集団研究
最小条件集団研究の影響
最小条件集団研究を超えて─批判と別の説明
結論
11 ステレオタイプと偏見
ハミルトンとギフォードの錯誤相関研究・再入門
背景
錯誤相関研究
錯誤相関研究の影響
錯誤相関研究を超えて─別の解釈と知見
結論
12 緊急時の援助行動
ラタネとダーリーの傍観者研究・再入門
背景
傍観者研究
傍観者効果を超えて
結論
訳者あとがき
人名索引
事項索引
装幀=新曜社デザイン室
前書きなど
社会心理学・再入門 訳者あとがき
本書は、Smith, J. R. & Haslam, S. A.(2012)Social Psychology: Revisiting the Classic Studies, SAGEの全訳である。
本書で取り上げられている研究は、いずれも社会心理学の教科書に頻繁に取り上げられる有名な研究ばかりであるし、中にはテレビ番組などで取り上げられることのある研究もある。したがって、社会心理学者はもとより、心理学を学ぶ学生や一般の人にも馴染みの深い研究であると言えるだろう。
しかしこれらの古典について、原典をきっちり精読したことのある読者はどれくらいいるだろうか。もしかしたら、それほど多くはないかもしれない。これらの古典について講義をしている社会心理学者の中でも、もしかしたら原典を読んだことがない人もいるかもしれない。恥ずかしながら私も、いくつかの研究については数年前まで原典を精読したことがなかった。
それはなぜかと考えてみると、まさにこれらの研究が“古典”だからであろう。古典だからこそ多くの教科書で紹介されており、その解説により研究の中心的な結論は理解できてしまう。例えば監獄実験(8章参照)であれば、“人は与えられた役割に沿うように行動が変化するのだ”という結論は多くの人が知るところである。数多くの優れた教科書が出版されている現在、古典を精読する必要性を感じていない人も多いかもしれない。
しかし、監獄実験の参加者24名が、75名の中から1人1人に対するインタビューによって選出されたことはどれくらいの人が知っているだろうか。当たり前のことではあるが、多くの教科書に記載されている内容は、原典のまとめであり要約である。他の研究知見との関連性を踏まえて体系的に学ぶことができるという絶対的な利点が教科書にはあるものの、研究そのものを深く正確に知るためには、原典に当たる以上のやり方はないのである。
一方で本書は、教科書とはまったく異なる別の鮮やかな切り口で、古典研究そのものをより深く理解することを可能にしている。古典研究そのものの詳細な説明に加え、それが生まれた背景や、古典が生み出し活性化した研究領域全体について詳細に解説している。これによって、私たち読者はまさに古典を入り口として、その研究領域に再入門することが可能になっている。古典とされた研究の中には再現に失敗したものも含まれるが、それでもなお、大きく重要な研究領域を生み出したがゆえに、古典は古典としての価値を持つのである。
また本書のスタンスは、近年注目を集めている“社会心理学の再現可能性”問題にとっても重要な意味を持つ。物理学者の中谷宇吉郎がその著書『科学の方法』(1958)で述べているように、「科学は再現の可能な問題に適用範囲が限られる」のであり、社会心理学が科学を標榜するのであれば、その再現可能性を検討することは重要な課題である。しかし、すべての研究の再現性をよってたかって検討することが効率的な良い方法であるとは考えにくい。であれば、どの研究の再現性を確認することが重要なのか、言い換えればどの研究が“乗るべき巨人の肩なのか”を把握した上で、それが乗っても大丈夫な巨人の肩なのか、あるいは幻に過ぎない虚人の肩なのかを判断する必要があるだろう。再現性を確認すべき重要な課題なのかそうではないのか、巨人なのか虚人なのか、古典足りうる研究なのかそうではないのか。この判断のために有効な一つのやり方が、本書で示されているようなプロセス、すなわちある研究とそれが生み出した発展領域とを精密に検討することであろう。
現在、共同監訳者である藤島喜嗣氏と私とは、ともに「社会心理学研究の再現可能性検証のための日本拠点構築」という科研費プロジェクトのメンバーであり、同じくメンバーの三浦麻子氏(7章・8章訳者、関西学院大学)、平石界氏(慶應義塾大学)、池田功毅氏(中京大学)との議論が本書の翻訳の後押しをしてくれた。ここに記して感謝申し上げたい。社会心理学が信頼に足る学問であることに対してこの翻訳書が何らかの形で資することができれば、それは望外の喜びである。
また、本書の翻訳を提案してくれた北海道大学の加藤弘通氏にもお礼申し上げたい。大学入学時のオリエンテーションキャンプで同室になった時からの友人でもある彼が本書と同シリーズの『発達心理学・再入門―ブレークスルーを生んだ14の研究』の監訳者であったことは私にとって僥倖であった。不思議な縁に感謝したい。
最後に新曜社の塩浦暲さんには企画段階から校正まで全般にわたり、また大谷裕子さんには最後の大急ぎでの校正の段階において、それぞれきわめて丁寧かつ迅速な対応をいただいた。訳者を代表してお礼申し上げます。ありがとうございました。
監訳者を代表して
樋口匡貴
上記内容は本書刊行時のものです。