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格差と不平等を乗り越える 教育事始 外川 正明(著) - 解放出版社
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格差と不平等を乗り越える 教育事始

発行:解放出版社
四六判
縦188mm 横128mm 厚さ15mm
重さ 296g
256ページ
並製
定価 1,600円+税
ISBN
978-4-7592-2040-7
Cコード
C0037
一般 単行本 教育
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2019年7月10日
書店発売日
登録日
2019年5月31日
最終更新日
2019年7月8日
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紹介

格差と差別を生みだす不平等社会で、子どもたちの間に生まれる教育格差をいかに乗り越えるか? 教員がなすべきことは何か? 教育の原点に立ち戻るとは? 京都の小学校で解放教育を積み重ねてきた著者が、若い教師たちに送るメッセージ。

目次

はじめに

Part1 お兄ちゃん先生と呼ばれてー新採教員の教育実践
 新採二日目に知ったランドセルのなか
 勉強に負けない子どもを
 「学力」のとらえ方に悩む日々
 しんどい子どもに焦点をあてる授業とは―初めての公開授業
 「先生、メイシンってなに?」
 荒れていく子どもたちの心のなかは
 「非行は宝」の意味
 父と娘の小学校三年生の詩
 生活背景を知ることで生まれる授業の工夫

Part2 この町のこと、もっと知りたいー子どもたちと学んだ地域教材
 教師が毅然とした姿勢をしめすとき
 本当の思いを掲載できなかった「学級通信」
 寄り添うとはなんなのか―チエさんとの再会から
 「お兄ちゃんと呼ばれて照れくさかったけど……」
 「なんで、うちらの町内だけ……」
 鹿の子絞りでひしゃげた爪
 日雇いでしか雇われなかったのはなぜ
 竹田の子守唄との再会
 竹田の子守唄に込められた思い
 竹田の子守唄を教材に

Part3 本当の思いを伝えたいーみずからの立ち位置を問われて
 初めての全同教報告で突きつけられた言葉
 「うちらの町内の人、みんなのことやろ!」
 「なんでお姉ちゃんがこんな目に……」
 思いを語り、思いを返す「生き方宣言」
 ともに差別をなくす仲間として
 「私が悔しかったのは……」
 出会いは残念なことから始まったけれど
 「無知」を克服し、未来への一歩を

Part4 学力格差をどう乗り越えるか
 学力格差の背景にあったもの
 学力格差を乗り越える道すじ
 点数に一喜一憂するのではなく
 格差を乗り越えるための家庭学習
 家庭に条件はあるのか
 学習の自立をめざして
 家庭学習のための5W1H
 学習課題の設定
 残るW・HともうひとつのW

Part5 道徳教育と人権教育―あなたの実践はどっち?
 「道徳科」がいじめを解決するのか
 国語の授業と道徳の学習
 道徳と人権学習の根本的ちがい
 「修身」と酷似する「私たちの道徳」
 同和教育の先駆者の方々の思い
 タテマエを乗り越える力のある教材
 教材を深く理解する視点
 私たちがなすべきことは……

Part6 「いま」「ここ」にある部落問題にむきあう教育とは
 部落差別とはなにか
 「名乗ること」と「暴くこと」
 ネットで広がる差別の実態
 行政が部落を指定したから?
 名乗る生き方を選択した人々
 身元調査の原簿となった戸籍
 だれも疑問に思わなかった就職差別
 統一応募用紙の闘い
 差別を商う「部落地名総鑑」
 「部落差別解消推進法」と私たち

あとがきにかえて
 教職四〇年を終えて

前書きなど

 「起き上がり小法師」という玩具をご存じと思います。福島県会津地方の郷土玩具で、転んでも転んでも再び体を起こすことから、「七転八起」の縁起物として有名です。聞くところによると、藩財政の悪化で役を与えられず、禄(報酬)もないため、生活に困窮した下級武士たちに、会津藩主が内職としてつくらせ販売させたのが、始まりとされています。
 国連NGO横浜国際人権センター機関紙「語る・かたる・トーク」編集部より、本書のもととなる連載の機会を与えられたのは二〇一二年、東日本大震災からまもなく一年が経とうとするときでした。尊い生命と財産と生活と思い出と……、すべてを奪い去った筆舌に尽くしがたいあの大震災から、郷土の「起き上がり小法師」のように、復興へと進んでこられた被災者おひとりおひとりの一年は、いかほどだったろうと思いをはせていました。
 しかし、あれからまもなく一〇年が経とうというのに、起きあがろうにも頭を押さえつけられ、身動きできない人たち、とくに福島原発が引き起こした事態は、立ち上がろうとする人々を右へ左へと振り回しつづけて、今日にいたっています。
 「人の命」を守るために私たちは何をすべきか、根底に戻って考えることが求められています。なぜなら、大震災が起こったとき、原発事故が発生したとき、何よりも真っ先にとりくむべき「人権の視点」を、この社会はもう三〇年近く前から失ってきたのではないかと思うからです。

一五〇年、一〇〇年、そして二〇年
 私は、小学校教員として、また教育行政に携わる一員として、さらに大学での教職課程の教員として、教育実践にとりくんできました。その原点は、学生時代の被差別部落の人々との出逢いにあります。今日までその方々とつながりつづけながら教えていただいた「解放教育」を、「教育の立場」の人間として少しでも実践することができたらと思い、またそれを検証軸に考え、行動してきたつもりでした。
 そんな私の教職人生も、ひと区切りです。「被差別の立場におかれた方たちから教えていただいたこと」「子どもたちから厳しい指摘を含めて教えてもらったこと」「手ひどい失敗のなかから私自身が学んだこと」を語ることで、私があこがれ、指針としてきた「解放教育」が提起してきたものを、次世代の方々に少しでも継承していただく努力をすべきでは、と思うようになりました。
 「賤民廃止令」(解放令)から一五〇年が経ち、そして二〇二二年は「全国水平社創立」から一〇〇年です。一五〇年経っても、一〇〇年経っても、いまだに「部落差別が現存する」ことを痛切にふり返らなければなりません。とりわけ、二〇〇二年の「同和対策事業の打ち切り」と密接にかかわって進行したこの二〇年が、教育をどのように変節させてしまったのか、当事者として厳しく総括しなければならないと感じています。

小法師が引き受けたもの
 さて、冒頭に紹介した「起き上がり小法師」は、正月の縁起物であるため、一年間神棚に飾ったあと、お札と同じく年末にお炊き上げし、新年に新しいものを購入するのが習わしです。それが毎年の需要を生み出すことになり、収入のなかった下級武士に生活の糧を与えました。つまり、「困窮者支援」のシステムでもあったのです。しかし、なぜ「小法師」という呼び名がつけられたのでしょうか。
 「小法師」のもともとの意味は、若い僧侶を指す言葉ですが、中世から近世にかけては、禁裏(御所)の掃除役として、庭園の清掃、植樹や庭木の手入れを中心に、生じたケガレに対するキヨメ役を担わされた「御庭者」や「河原者」とも呼ばれた被差別身分の人々をしめして用いられていました。
 神棚に供えられた「起き上がり小法師」は、その家に起こった一年間の災いをすべて引き受けてくれて、年末に去っていく、そんな存在だったのではないかと私は思います。
 引き起こした事態の責任をすべて引き受けることなど到底できませんが、二〇一二年から七年間、八〇回にわたり綴らせていただいた連載を、本書にまとめて刊行する機会を与えられたことを、あらためて自身の「教職人生」の総括として受け止めさせていただきたいと思います。科学を学ぶことの大切さを知らしめた杉田玄白の著作には遠く及びませんが、私の拙文が、諸先輩が築いてこられた「教育の営み」を次世代の方々に少しでも継承し、発展させていただくきっかけにでもなればという思いで、表記のタイトルとしました。忌憚ないご意見、ご批判をいただければ幸いです。

著者プロフィール

外川 正明  (トガワ マサアキ)  (

京都市生まれ。京都市の小学校教員として同和教育に取り組み、京都市総合教育センター、京都教育大学。公立鳥取環境大学に勤務。現在、京都教育大学ならびに公立鳥取環境大学の名誉教授、世界人権問題研究センター登録研究員など。

主な著書
『部落史に学ぶ―新たな見方・考え方にたった学習の展開―』解放出版社 2001
『教育不平等―同和教育から問う「教育改革」―』解放出版社 2002
『部落史に学ぶ2―歴史と出会い未来を語る多様な学習プランー』解放出版社 2006
『元気のもとはつながる仲間―解放教育の再生をめざして―』解放出版社 2009
共著『人権教育総合年表』明石書店 2013 他

上記内容は本書刊行時のものです。