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戦後の部落解放運動
その検証と再考
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年3月15日
- 書店発売日
- 2023年3月17日
- 登録日
- 2023年1月16日
- 最終更新日
- 2023年3月9日
紹介
戦後の部落解放運動の歴史を、その第一線で活躍してきた著者が、時系列で追いながら、経験をふまえた運動論的な分析を加え、それが差別の撤廃と人権社会の確立に果たした社会的な役割を明らかにし、今後の運動の展望を示す。
目次
はじめに
第1章●戦後部落解放運動の再建と水平社運動の継承― 統一と生活権擁護を希求した部落解放全国委員会の再建活動
第2章●戦後民主改革をめぐる保革の激闘
1 戦後民主改革をめぐる「松本治一郎」と「吉田茂」との熾烈な闘い
2 戦後の民主的改革に対する反動的転換
第3章●日本国憲法と差別問題の位相
1 日本国憲法と差別問題の位相
2 厚生省「同和事業に関する件」通達と戦前の融和行政の問題点
第4章●行政闘争方式の確立と「オール・ロマンス事件」の再考
1 個人的責任から社会的責任追及への糾弾闘争の方針転換
2 戦後の三大差別事件
3 オール・ロマンス事件・闘争の再考
第5章●糾弾闘争・行政闘争の今日的な意義と社会的責任論
1 差別糾弾闘争の論理と今日的意義
2 行政闘争の論理と今日的意義
3 「社会的責任の追及」にかかわる論点整理
第6章●国策樹立運動の本格化と同対審設置法の制定
1 再軍備化へのサンフランシスコ体制の始動
2 部落解放同盟への改称と大衆運動路線
3 国策樹立運動の本格的始動と推進原動力
4 60年安保闘争と「同対審」設置法
第7章●教科書無償化闘争の教訓と「同対審」答申の意義と課題
1 「同対審」答申に先立つ教科書無償化の取り組みと教訓
2 「同対審」答申の意義と基本精神
3 「同対審」答申評価論争と第20回全国大会での路線転換
第8章●1960年代諸論争と「同対審」答申具体化への立法論争
1 今日につながる1960年代の諸論争の様相
2 奈良本・井上論争の意味に関する再考
3 「同対審」答申具体化への「立法措置」をめぐる闘い
第9章●同和対策事業特別措置法制定の意義と同和行政をめぐる闘い
1 1968年「差別と屈辱の明治100年」糾弾闘争
2 「同和対策事業特別措置法」制定の意義と問題点
3 「三つの命題」が牽引した行政闘争の威力
第10章●1970年代― 部落解放運動の疾風怒濤の時代
1 躍動する部落解放運動
2 狭山闘争の本格化が部落解放運動の質的向上を促進
3 日本社会変改への社会運動の現実的可能性の萌芽
第11章●部落解放運動が胎蔵していた社会変革への可能性と限界
1 「窓口一本化」をめぐる日本共産党との激突
2 「糾弾」をめぐる司法権力との攻防
3 糾弾闘争による共同闘争の拡大
4 高度経済成長路線の枠組み内における同和行政と部落解放運動の位置
5 同和事業をめぐる利害対立と組織問題の頻発
第12章●「特措法」の限界と「部落解放基本法」制定運動の展開
1 みえてきた「同対法」の限界
2 北九州市土地疑惑事件の衝撃と組織問題への向き合い方
3 「部落解放基本法」制定運動の開始とその意義
第13章●反差別国際運動の結成と第三期部落解放運動の提唱
1 反差別国際運動(IMADR)の結成
2 第三期部落解放運動の提唱
第14章●歴史的な激変をみせる国内外情勢と部落解放運動
1 東西冷戦構造の崩壊と世界的な政治経済の地殻変動
2 連立政権時代の到来と「55年体制」の崩壊
3 奮闘し苦悩する部落解放運動
第15章●同盟組織の若干の混乱と人権政策の着実な前進
1 新たな時代の到来のもとでの政治路線をめぐる混乱
2 与党プロジェクトの「中間意見」と「三項目合意事項」
3 部落解放基本法闘争の「時間差をもった分割制定」への戦術転換
第16章●「地対財特法」失効にともなう混迷と新たな運動への転換
1 地域で培われた部落解放運動の底力と阪神淡路大震災復興支援活動
2 「地対財特法」の失効と「人権擁護法案」をめぐる闘い
3 「地対財特法」失効による社会的な混沌状況の現出
4 「人権擁護法案」の再提出時における自民党の混乱と反動勢力の台頭
5 問われる日本の人権政策・社会政策のあり方と社会運動
第17章●「2006年不祥事問題」と運動再生への必死の模索
1 激震が走った「2006年5月8日」
2 戦後最大の危機に対する必死の「点検改革」「再生改革」運動の展開
3 人権市民会議が「日本における人権の法制度に関する提言」を公表
4 提言委員会からの「部落解放運動への提言」を受領
5 再生・改革への懸命の努力の継続
第18章●2011年「綱領改正」と運動の新機軸
1 民主党連立政権の誕生と試練
2 民主党連立政権のもとでの部落解放・人権政策確立要求の闘い
3 2011年「綱領改正」と運動の新機軸
第19章●部落差別解消推進法の積極的活用と「誇りの戦略」
1 部落差別解消推進法制定の背景と評価
2 「法六条調査」報告書の課題と問題
3 「誇りの戦略」を貫く部落解放運動の正念場
第20章●水平社創立100年の地平からの「部落解放への展望」
1 継承すべき水平社宣言の基本精神
2 「太政官布告」以降150年の歴史のもとで闘いつづけた100年
3 部落解放運動の基本性格と基本方向
4 人間の尊厳(基本的価値)を重要視した「三つの保障」の実現
5 水平社100年を機にした闘いの「合言葉」と挑戦課題
本書を終えるにあたって
前書きなど
本書は、雑誌『部落解放』で2020年11月号から2年間23回にわたって連載された「春告鳥は地を這う―戦後部落解放運動史の検証と再考」を単行本化したものである。
連載をはじめたときの問題意識は、次のようなものであった。
第一に、「春告鳥は地を這う」の意味についてである。春告鳥とは、早春に「ホーホケキョ」と美しい声で鳴くウグイスのことである。警戒心が強く姿を見せることは滅多にないが、確かな存在感をもって春を告げてくれる。しかし、その姿や実態はよく知られておらず、誤解されていることが多い。薄黄緑を鶯色とも言うが、実際の鶯は薄褐色である。その実情が部落解放運動に重なる。
第二に、部落解放運動の真の姿を発信する大切さである。部落解放運動は、その実体を一般的には正確に知られていない部分が少なくない。部落問題がメディアに登場するときは、多くの場合、「差別されている実態」か「なんらかの運動的不祥事」についてである。したがって、多くの人びとは、部落解放運動が日常的にどんな活動をしているのか、日本の社会運動においてどのような歴史的位置をもっているのか、日本社会に対していかなる貢献をしているのか、などについて知ることはない。そのために、ある面では、すごい力をもった運動と過大に評価されたり、他面ではある種の強面の圧力団体として胡散臭さをともなう評価をされたりという現状がある。
しかし、部落解放運動は、1922(大正11)年の全国水平社創立以来、今日まで100年近い運動の歴史を刻むなかで、日本社会を差別を許さない人権社会に変革していく強力な原動力のひとつとして存在してきた。
第三に、若い活動家世代へのリレーである。戦後部落解放運動史の連載では、このような観点から、戦後の歩みを中心にして豊かな部落解放運動の土壌を掘り起こしながら、日本における社会運動のなかで果たしてきた重要な役割と今日的な部落解放運動の展望を明らかにしたいと考えた。
この拙文は、学術論的な文献史学にもとづく通史ではなく、運動論的な観点からの過去・現在・未来をつなぐ「問題史学」的なものであることを断っておきたい。したがって、過去の歴史を掘り起こしながら、常に現在へとつながる課題や問題を整理し問題提起をする記述方法をとっている。
とりわけ、これからの部落解放運動を担っていく若い活動家の世代や多くの人たちが議論できるような共通の場を提供できればと、切に願う。
上記内容は本書刊行時のものです。