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冬枯れの光景
巻次:下
部落解放運動への黙示的考察
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2017年7月
- 書店発売日
- 2017年7月31日
- 登録日
- 2017年7月10日
- 最終更新日
- 2020年1月29日
重版情報
2刷 | 出来予定日: 2020-01-20 |
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紹介
長年、部落解放運動の第一線で活躍してきた著者が自らの歩みをふまえ、運動を歴史的に総括し、今後の方向性を理論的に提起。部落差別実態認識論、部落解放運動論(上巻)、同和行政・人権行政論、部落解放論(下巻)の4部構成。
目次
第三部●同対審答申と「特別措置法」時代への考察〔同和行政・人権行政論〕
第一章…同対審答申にいたるまでの時代背景
第二章…同和対策審議会答申の基本精神とは何か
第三章…同対審答申具体化のための取り組み
第四章…「特別措置法」時代三三年間の同和行政の功罪
第五章…「特別措置法」失効後の同和行政の混乱とその原因
第六章…同和・人権行政の基本方向と今日的課題
第七章…「福祉と人権のまちづくり」の拠点としての隣保館活動
第八章…同和教育の歴史的経緯と人権教育の今日的課題
第九章…「部落差別解消推進法」制定の意義と課題
第四部●部落解放理論の創造的発展への考察〔部落解放論〕
第一章…根源的民主主義論からの部落解放運動の再構築
第二章…「部落解放を実現する」組織のあり方
第三章…部落問題認識にかかわる論点整理と問題意識
補遺二稿●
第一章…戸籍の歴史と家制度の仕組みに関する考察
第二章…部落差別意識と歴史的な差別思想に関する考察
おわりに 「全国水平社一〇〇年への思い」
前書きなど
はじめに 〈冬枯れの光景〉によせて
「冬枯れ」ということばは、色も臭いもなく寒風にさらされる黄土色以外に何もない寂寥感ただよう風景を連想させる。だが、美しいのである。限りない魅力を秘めた美しさがある。実りの饗宴の時期も過ぎ去り、華やかで鮮やかな色彩も失せ、一切の虚飾が剥ぎ取られた単色の光景が広がる。
肉眼に映るこの単色の光景は、一見寂漠とした荒涼感が漂うように見えているが、春に向けての再びの輝きの命と息吹のすべてを静かに包み込んでいるのだ。心眼がそれを感じ取るとき、冬枯れの光景はどうしようもなく愛おしいほどに美しい。
私の常なる心象風景としての「冬枯れの光景」は、生まれ育った故郷への捨て去りがたい郷愁の念と、自らの生涯をかけて没頭した部落解放運動への深い愛着の念に重なり合っていく。
現在の部落解放運動の状況をみるとき、あたかも「冬枯れの光景」の観を呈しているかのようである。
水平社時代の苦難に満ちた闘い、戦後の国策樹立を求めた闘い、同対審答申・「特別措置法」時代の破竹の勢いをみせた闘い、多くの歴史的成果を結実させながらも、運動的にも組織的にも困難な状況に立ち至っている今日の闘い。それは「冬枯れの光景」である。
だが、九〇年余にわたる長い闘いの歴史のなかで、多くの人たちの血と汗と涙によって耕されてきた部落解放運動の土壌は、再生への力強い種子を豊富に内蔵しており、芽吹きの時季を辛抱強く待っている肥沃な土壌である。それが「冬枯れの光景」である。
部落解放運動は、「人間の血を涸らさぬ」運動である。それが九〇年余の運動を継続させてきた力の源泉である。考えてみると、自分自身がこの長い部落解放運動の歴史の半分以上にわたって、第一線に身を置いて歴史を刻んできたことになる。
その自覚と責任において、自分が歩んできた部落解放運動の道程を振り返り、その「苦さと甘さ」も含めた教訓を同時代の人たちと共有し、若い世代に継承していくことは、自らの任務であるように思われる。ただ、「真理は全体である」ということばがあるように、私の経験や知見は限定的であり、限界があることも承知している。それゆえに、大上段に構えた「提言」などではなく、一人の人間として沈思黙考を重ねた本稿が部落解放運動のこれからのあり方にかかわった議論に何らかの一助になればという思いである。それが、「黙示的考察」の所以である。恥を忍んで一筆を啓上した次第である。
上記内容は本書刊行時のものです。