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被差別部落女性の主体性形成に関する研究 熊本 理抄(著) - 解放出版社
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被差別部落女性の主体性形成に関する研究

発行:解放出版社
A5判
縦217mm 横155mm 厚さ30mm
重さ 770g
468ページ
上製
定価 5,000円+税
ISBN
978-4-7592-0122-2
Cコード
C3036
専門 単行本 社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2020年3月31日
書店発売日
登録日
2020年4月10日
最終更新日
2020年6月11日
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紹介

 本書は、日本の被差別部落女性の主体性形成に焦点をあて、その形成過程を明らかにするなかで、部落女性が直面する諸問題を考察し、部落女性による運動の今後の課題と展望を提示する。部落女性の主体性はいかなる過程をたどって形成されるのか。部落女性の主体性形成に部落差別からの解放をめざす組織はどのような支援体制を採ったのか。部落女性はそうした体制のなかでどのように主体性形成を追究したのか。「複合差別」概念は主体性形成追究に有用か。これらの問いに答えを出すことが本書の目的である。
 部落差別撤廃を最優先課題として設定した差別のとらえ方と政策対応では、その集団内における他の差別抑圧に関心を払わないという矛盾をきたす。そのため部落女性の状況を考察するにあたっては、従来部落解放運動で使われてきた差別論には限界があり、これまでの差別論を再考する必要がある。なぜならば部落女性は、被差別部落民であり、女性であり、多くが不就学低学歴であり、低賃金不安定非熟練労働者である、といったいずれも逃れがたい条件の絡み合いのなかで生きているからである。
 部落女性の存在や声はこれまで、「同じ部落民」あるいは「同じ女性」とひとくくりにされるか、「部落差別の対象」あるいは「女性差別の対象」という一元的カテゴリーに押し込められ、優先順位がつけられるかで、不可視化あるいは序列化されてきた。「部落差別が解決すれば部落コミュニティのなかの女性差別も解決する」という部落解放運動と、「女性の地位が向上すればマイノリティ女性の地位も向上する」という女性解放運動のいずれもが、部落女性の課題を取り扱ってはこなかった。
 部落女性の経験を明らかにするためには、部落差別を受けさらに女性差別を受けるといった「加算的」(additive)分析では、差別相互の関係性、それらを生み出す構造を理解できないばかりか、ある人たちの経験を固定化し、それに「さらなる」差別を受けていると「加算」することは、「異なる」経験を見えなくする。部落差別や性差別を固定的なものとしてとらえてしまいかねず、差別に序列化を持ちこむ問題もはらんでいる。差別のとらえ方のみならず、主体性論の視点からも「加算的」分析には課題が多い。男性を部落解放の「主体」とする部落解放運動、部落女性を不在とするフェミニズムを足せば、部落女性は解放されるという問題ではない。
 本書は、ブラック・フェミニズムとクリティカル・レイス・フェミニズムの知見に学びながら、部落女性の闘いに導入された「複合差別」という日本語概念を再考し、部落解放運動が展開してきた差別認識と解放理論を問い直す。それは主体性論の問い直しを求めるものである。なぜならば、いくつもの条件の絡み合いのなかに逃れがたく位置づけられている部落女性は、部落男性とは異なる解放のありようを展望しているはずだからだ。本書は部落女性の語りから、部落解放運動が展開してきた差別論と主体性論を問い直し、その再構築への足がかりとすることをめざすものである。

目次

第一章 問題の所在
 第一節 研究の目的
 第二節 研究対象と研究方法
 第三節 分析枠組みとした概念と先行研究
  第一項 「複合差別」
  第二項 「主体性」
 第四節 論文構成

第二章 部落民であることー被差別部落女性の聞き取りから
 第一節 他者規定による自己認識
  第一項 他者からの名指し
  第二項 差別の内面化
  第三項 関係性の不安と回避
 第二節 自己教育運動がもたらす認識の変化
  第一項 意識化と組織化
  第二項 他者規定と自己卑下からの解放
 第三節 自己を規定する歴史とコミュニティ
  第一項 経験の共有
  第二項 歴史の共有
  第三項 伝承の役割
  第四項 コミュニティの紐帯
 第四節 部落解放運動への関与
  第一項 部落解放運動の継承
  第二項 日常的抵抗実践
  第三項 コミュニティ内外の関係性構築
 第五節 共同性および部落解放運動と主体性の相互的形成

第三章 女性であることー被差別部落女性の聞き取りから
 第一節 部落解放運動のジェンダー体制
 第二節 私的領域のジェンダー体制
 第三節 生育家族のジェンダー体制
 第四節 被差別部落女性にとっての結婚
 第五節 被差別部落のジェンダー体制と女性の主体性形成

第四章 被差別部落女性の主体性形成における運動の役割ー部落解放全国婦人/女性集会の資料分析から
 第一節 一九五〇年代から一九六〇年代の部落解放全国婦人集会
  第一項 部落解放運動の組織拡大
  第二項 被差別部落女性による組織の矛盾追及
  第三項 日本母親大会との齟齬
 第二節 一九七〇年代の部落解放全国婦人集会
  第一項 部落解放運動のジェンダー体制
  第二項 国際女性年と女性の権利の意識化
  第三項 女性解放運動との齟齬
  第四項 部落差別解決の優先
 第三節 一九八〇年代以降の部落解放全国婦人集会および部落解放全国女性集会
  第一項 被差別部落女性の実態を踏まえた運動の展開
  第二項 女性共闘に見る問題性
  第三項 女性差別撤廃条約と「エンパワメント」概念
  第四項 女性差別撤廃条約と「複合差別」概念
 第四節 部落解放運動への関与と主体性の遂行的形成

第五章 国際人権言説とブラック・フェミニズムの「交差性」概念
 第一節 国際人権言説となった「交差性」概念
  第一項 反人種主義世界会議と「交差性」概念
  第二項 人種差別撤廃アプローチと女性差別撤廃アプローチ
  第三項 「ジェンダー主流化」が内包する問題
 第二節 ブラック・フェミニズムの言説
  第一項 ブラック・フェミニズムと「交差性」概念
  第二項 「加算的」分析への批判
  第三項 構造としての差別認識
  第四項 ブラック・フェミニズムと主体性形成
 第三節 被差別部落女性と「複合差別」概念
  第一項 部落コミュニティと部落解放運動に対する批判
  第二項 被差別部落女性がとらえた「複合差別」概念
 第四節 主体性形成と「交差性」概念

第六章 被差別部落女性の主体性形成における「複合差別」概念の有用性と課題
 第一節 各章の考察で得られた知見
 第二節 部落女性の主体性形成追究と「複合差別」
 第三節 結論と今後の課題

著者プロフィール

熊本 理抄  (クマモト リサ)  (

1972年福岡県生まれ。近畿大学人権問題研究所教員。博士(人間科学)。
留学先で先住民族や性的少数者の人権運動に出会ったことをきっかけに、大学卒業後、反差別国際運動日本委員会(IMADR-JC)事務局に専従職員としてかかわる。同会事務局長を経て、2002年より現職。
共著に、『講座 人権論の再定位 第4巻 人権の実現』(法律文化社、2011年)、『現代の「女人禁制」ー性差別の根源を探る』(解放出版社、2011年)、『沈黙する人権』(法律文化社、2012年)、『家族写真をめぐる私たちの歴史ー在日朝鮮人、被差別部落、アイヌ、沖縄、外国人女性』(御茶の水書房、2016年)ほか。

上記内容は本書刊行時のものです。