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碁の理論と実践
お雇いドイツ人がみた囲碁の世界
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2018年12月24日
- 書店発売日
- 2018年12月20日
- 登録日
- 2018年11月20日
- 最終更新日
- 2018年12月12日
前書きなど
監修者まえがき
本書は、明治期の日本で「お雇い外国人」として活躍したオスカー・コルシェルト(Oskar Korschelt、一八五三~一九四〇)によるDas japanisch-chinesische Spiel
「お雇い外国人」とは、明治政府などが、国民に西洋の技術・学芸を学ばせるために雇い入れた欧米諸国出身者のことで、コルシェルトは一八七六年から八四年まで日本に滞在し、東京大学や国営の地質調査所などで化学や数学の講師、分析官として働き、日本人を指導しました。そして、そうした本業のかたわらで、囲碁と出会い、当時、日本一の碁打ちだった村瀬秀甫(一八世本因坊、一八三八~八六)の教えを受けます。
本書は、明治期におけるトップクラスの囲碁に触れたコルシェルトが、このゲームの面白さと奥深さを同国人に伝えるために書いたものであり、「明治時代のドイツ人が書いた囲碁の本」という唯一無二の書籍です。明治時代の囲碁の世界(理論や練習方法)を囲碁に親しんできた日本人の目線から語る書籍は、すでにあるでしょうし、これからも書かれることでしょう。しかし、「先進国」から「未開の」日本にやってきたチェス好きの西洋人が接した囲碁の世界を伝えられるのは、この書籍をおいて他にはありません。
また、本書には村瀬秀甫自身による棋譜の解説があり、その一部は日本語になるのが初めてです。彼が入門者のために書いた(しかし、骨のある)解説を読みながら棋譜を並べることは、囲碁ファン、特に古碁ファンにとって価値あるものとなるでしょう。ただし、この本は、コルシェルトの意に反して、囲碁の入門者に最適なものとはなっていません。現代の観点からみると(そして、当時のドイツ人にとっても)、詰碁やヨセの部分は初心者に親切とは言えません。この点には注意していただきたいと思います。
翻訳にあたっては、「一九世紀末を生きたドイツ人が同国人に囲碁を紹介する」という原書の雰囲気を重視して、可能なかぎりコルシェルト自身が選んだことば(しばしばチェスの用語で碁を紹介している)に忠実に訳しましたが、読みやすさに配慮して、小見出しをつけ、改行箇所や図の位置を変更し、棋譜および固有名詞、年代の明らかな誤りを訂正しました。そのさい、英語版(Korschelt, O.(1966): The Theory and Practice of Go)も参考にしました。また、解説が必要と思われる箇所では、[ ]内に注記しています。
囲碁史やヨーロッパ人による日本理解、村瀬秀甫による布石の理論など、本書には様々な興味ぶかい側面があります。ご自身の関心にしたがって、お好きな章から読んでいただければ幸いです。
それでは、お楽しみください。
版元から一言
訳者あとがき
コルシェルトは、当時最高の棋士だった村瀬秀甫の直弟子であり、初段の腕前だったそうです。これは、彼自身のことばを借りれば、「碁を職業にできるほどの腕前」ということになります。一方で、彼の著書を日本の読者に紹介しようと思った細川自身はといえば、『ゆかり先生のやさしい囲碁』(主婦と生活社)を卒業したばかり、という体たらく。おそらく、囲碁関係の本を出版した人物のなかでは、史上もっとも低い棋力ではないでしょうか。
そんな訳者が本書を企画したのは、二〇一七年に、まったく別の三つの点から出た線がコルシェルトの著作で交わったからです。
一本目の線は、とある大学の授業で異文化接触の歴史について話すために、「お雇い外国人」について調査していたこと。二本目の線は、日本でも「ドイツゲーム」に注目が集まりつつあり、ドイツにおけるゲーム史やゲーム事情についてなにか書けないかとネタを集めていたこと。
とはいえ、ようやく石の生き死にが分かりかけたていどの人間では、いくらドイツ語ができたところで、崇高な本因坊の理論を訳せるわけがありません。そこには三本目の線が交差する必要がありました。それが、監修と棋譜の作成を担当した高嶋秀明氏です。囲碁に詳しい彼がいなければ、本書の企画はありませんでした。
また、書籍制作にあたっては、ワードスプリング社の蒲田正樹氏に大変お世話になりました。ここに記して感謝申し上げます。
まえがきにもあるように、本書は、「明治時代のドイツ人が書いた囲碁の本」という唯一無二の書籍です。読者のみなさまが、「文明開化」の時代に日本から西洋に出ていった囲碁に触れることで、囲碁文化だけでなく、近代の日本文化全般や日欧交流史にも関心をもっていただけたなら、幸甚のいたりです。
上記内容は本書刊行時のものです。