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麻疹が流行する国で新型インフルエンザは防げるのか 岩田 健太郎(著/文) - 亜紀書房
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麻疹が流行する国で新型インフルエンザは防げるのか (ハシカガリュウコウスルクニデシンガタインフルエンザハフセゲルノカ)

社会一般
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発行:亜紀書房
四六判
224ページ
並製
定価 1,500円+税
ISBN
978-4-7505-0907-5   COPY
ISBN 13
9784750509075   COPY
ISBN 10h
4-7505-0907-8   COPY
ISBN 10
4750509078   COPY
出版者記号
7505   COPY
Cコード
C0036  
0:一般 0:単行本 36:社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2009年2月
書店発売日
登録日
2010年2月18日
最終更新日
2023年3月15日
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重版情報

3刷 出来予定日: 2020-04-07
2刷 出来予定日: 2009-10-31
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紹介

毎年麻疹が流行し、先進国で唯一エイズが増え、結核が減らない国。
ワクチン行政が世界標準より20年遅れている国。
なぜこんな状態になってしまったのか!?
日本の医療、行政、マスコミ、製薬会社、そしてわれわれ国民のなかにある“盲点”をさぐる。

目次

Chapter1 感染症大国 七つの盲点
 1「いまここにある感染症」が見えていない
 2風邪に抗生剤──医療のリスクが見えていない
 3世界標準から二十年遅れのワクチン行政
 4新型インフルエンザの対策は万全か
 5真剣味が足りないエイズ対策
 6薬は誰のものか
 7感染症のプロが育たない

Chapter2 抗生剤と薬 四つの盲点
 1耐性菌とのイタチごっこ
 2ないないづくしの抗生剤
 3まちがいだらけの使い方
 4薬価と添付文書への疑問

Intermission 身近な感染症対策

Chapter3 不幸な共犯関係を終わらせよう
 1予防医療が重要
 2医療は朝令暮改でいい
 3ノイズの多い情報に振り回されずに薬を選ぶ
 4メディアと医療界の関係改善
 5医者任せでは「負け組」になる
 6医療の自由化を進める──シェアード・デシジョン・メイキング

前書きなど

 女性(男性)はどこか謎めいたところがあるほうがいい、とたいていの男(女)は思います。少なくとも、私はそう思う。ミステリアスなものに惹かれるのは、人間の性なのか、私が感染症医になったのも、そのわかりにくさに惹かれたからです。感染症には得体の知れないところがあって、付き合うほどに深入りするようになりました。
 何故、感染症は得体が知れないのでしょうか。まず、感染症の原因である微生物(ばい菌とか、です)は目に見えません。目に見えないから、どこから入ってきたのかもよく分からない。微生物は体の中から突然出現したりはしません。どこかからやってくるのです。これを最初に発見したのは、微生物学の開祖のひとり、フランスのパスツールという学者でした。肺炎を起こす微生物は突然肺に出現(発生)することはなく、大抵は鼻とか口から入っていくのです。梅毒菌はセックスの際にペニスから膣へ、あるいはその逆へと入っていきます。足にキズがあったりすると、そこから怖いばい菌、たとえば破傷風菌が入っていきます。破傷風は、こんなふうにしてキズのある人に起きる病気なのです。
 たとえ、微生物が体に入っても病気になるとは限りません。はしかになったことのない人がはしかのウイルスを吸い込むと、ほぼ全例はしかという病気になってしまいます。でも、同じように結核菌を吸い込んでも、9割方の方は何も病気を起こさないのです。なんて不公平なのでしょう、感染症の世の中は。
 感染する経路も感染力もばらばら、症状が出る場所もさまざま、症状の強さもばらばら。同じ病原菌でも、悪さをする場所によって、引き起こす病気がちがいます。その人の免疫力(抵抗力)も大事です。抵抗力が弱ってくると、普段はかからない感染症になったりするのです。
「病原(微生物)に触れたからといって、必ずしも感染しない」
「感染したとしても、必ずしも発症しない」
という点は重要です。なんとなく分かりにくい、はっきりしない、 すっきりしない。これが感染症という病気の特徴です。ともかく、相当にあいまいで、ファジーなのです。ま、だからこそおもしろいのですが。
 これだけあいまいな存在な感染症。それは診療の難しさともつながっています。病原体を見つけるだけでは治療ができないのです。
 逆に、症状があっても病原体が見つからないこともあります。この症状に苦しんでいるこの人はいったい何の病気なのか。いったい感染症なのか。たとえ感染症だとしても、その原因の病原体は何なのか。その原因微生物を殺し、治療するためにどのような薬があるのか、どのような方法がいいのか……。同じ病気でも治療法は患者
によって多種多様なのです。感染症のマニュアル本もたくさんあるのですが、マニュアルだけでは通用しないのです。
 なんか、訳分からなくなってきました。病気がはっきりしないのなら、治療も適当でいいんじゃない?と言われそうです。ここだけの話、多くの医者は適当に感染症をあしらっています。病名も、病原体もはっきりしないんだけど、まあ抗生物質でも出しておこうか、というように。
 本当にそれでいいのでしょうか。
 救いがあるとすれば、感染症の世界にもちゃーんと原理、原則、基本は存在するのです。そして、その基本を徹底的に押さえておけば、大抵の感染症には対峙できるのです。極端な言い方をすれば、風邪をちゃんと、原理原則に則って治せる医者ならば、エイズにも新型インフルエンザにも対応できるのです。新型インフルエンザ対
策、なんていいますが、あれは風邪をまっとうに診療する医療行為の延長線上にしかありません。
 意外に知られていないことですが、いま日本は不名誉なことに国際的に「感染症大国」と呼ばれています。悪口です。どこを指して「大国」と言っているのかは本文に譲るとして、幸いにも(?)、この恥ずべき事実はニュースとして取り上げられることはありません。
 私が長年、感染症専門の医者として見てきたかぎりでは、日本の医療、行政、マスコミ、企業、そして国民のなかに、感染症についての“盲点”があるように思います。なにか、大事なものが見過ごされています。それがために“感染症大国”という汚名を返上できずにいるように感じられるのです。
 感染症は終わった、と1970年代の偉い先生はいいました。
そんなことはありません。なにしろ、感染症は長寿社会になればなるほど無視できない厄介な問題です。年を取ると感染症にかかりやすくなるからです。今や日本人の死因の第1位はガンですが、ガンになると感染症にかかりやすくなります。医療が進歩し、ひとびとが長生きをすると、それが原因で感染症になるのです。なんだかおかしいですね。
 感染症の世界を覗いてみましょう。それは、あなたの人生と決して無関係な世界ではありません。「ちゃんとした」内科の教科書を開くと、一番多くのページを割いているのは心臓の病気でも脳の病気でもなく、感染症なのです。それくらい重要な領域なのです、感染症って。
 このどうしようもなく広くて複雑であいまいで、しかし愛らしい感染症の世界の少しでも、みなさんと共有できたらこの本の目的は達成できたと思います。

著者プロフィール

岩田 健太郎  (イワタ ケンタロウ)  (著/文

神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。
島根県生まれ。1997年、島根医科大学(現・島根大学)卒業。沖縄県立中部病院、コロンビア大学セントルークス・ルーズベルト病院内科などで研修を受けたのち、アメリカ、中国で医師として働く。2004年、帰国し、亀田総合病院(千葉県)に勤務。感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任し、現職にいたる。
『バイオテロと医師たち』(最上丈二[ペンネーム]/集英社新書)、 『悪魔の味方──米国医療の現場から』(克誠堂)、『感染症外来の事件簿』(医学書院)、『思考としての感染症 思想としての感染症』(中外医学社)など、著書多数。

上記内容は本書刊行時のものです。