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台湾山地を愛した女 小笠原 淳(著) - 明石書店
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台湾山地を愛した女 (タイワンサンチヲアイシタヒト) 坂口䙥子の生涯と創作 (サカグチレイコノショウガイトソウサク)

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発行:明石書店
四六判
280ページ
並製
価格 3,000 円+税   3,300 円(税込)
ISBN
978-4-7503-6073-7   COPY
ISBN 13
9784750360737   COPY
ISBN 10h
4-7503-6073-2   COPY
ISBN 10
4750360732   COPY
出版者記号
7503   COPY
Cコード
C0095  
0:一般 0:単行本 95:日本文学、評論、随筆、その他
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2026年2月20日
書店発売日
登録日
2026年2月5日
最終更新日
2026年4月1日
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紹介

1938年に台湾へ渡り、日本統治期台湾で女性作家として稀有な足跡を残した坂口䙥子。霧社事件と深く関わる台湾山地での疎開体験と原住民女性たちとの交流、戦後日本で芥川賞候補作を生んだ創作の歩みを、未発表資料とともに描く初の本格評伝。

目次

第1部 球磨川の流れる町――八代時代

第1章 䙥子の少女時代
 1 生い立ち
 2 父慶太郎
 3 母マキの平等主義
 4 文学の萌芽
 5 少女小説「こはれた時計」
 6 霧社事件を知る
 7 熊本女子師範学校時代
 8 妹足子の死
 9 『龍燈』への参加
 10 坂口貴敏と『龍燈』
 11 板橋源との出会い
 12 初恋
 13 台湾渡航の動機

第2部 文壇への扉――台湾時代

第2章 台湾への旅立ち
 1 台湾の光と影
 2 北斗尋常高等小学校教師時代
 3 霧社事件
 4 霧社への研修旅行
 5 受難の花「時計草」
 6 下山一との邂逅
 7 奇妙な約束
 8 貴敏との縁談
 9 兄稔に届いた召集令状

第3章 台湾文壇の扉
 1 結婚
 2 日月潭への新婚旅行
 3 『台湾新聞』という創作の場
 4 異郷のなかの「故郷」――台中農業移民を描く
 5 「春秋」と『台湾時報』
 6 皇民化と「鄭一家」
 7 リアリズムかロマンティシズムか

第4章 受難の花「時計草」
 1 「時計草」発禁の理由
 2 「時計草」の改編
 3 「時計草」のモデルとモチーフ
 4 下山一の苦悩
 5 タイヤル族のアイデンティティをめぐる葛藤
 6 楊逵との出会い
 7 母とならば
 8 銃後の心に吹く風――「灯」
 9 台湾文学賞の風波
 10 連夜の夢

第5章 蕃地中原への疎開
 1 疎開の決断
 2 奇妙な送別会
 3 蕃地へ
 4 中原での生活
 5 大石フミとの出逢い
 6 中原の女たち
 7 霧社事件の証言
 8 サツキの話
 9 中原神社とウットフ
 10 蕃地のロマンス
 11 終戦
 12 引き揚げ

第3部 蕃地をめぐる戦後創作――熊本時代

第6章 中央文壇への挑戦
 1 引き揚げ者の葛藤
 2 「『蕃地』に関するノート」の発見
 3 丹羽文雄との接触
 4 「ビッキの話」と「虹」
 5 小説「蕃地」
 6 新潮社文学賞と「蕃地」批評
 7 ルポルタージュか、オートフィクションか
 8 大洪水の記録「泥流」
 9 ルピとテワス――「蕃地の女」にみる女性観

第7章 「樹霊」と「蕃婦ロポウの話」
 1 貴敏の死
 2 悲しみの谷
 3 「樹霊」――霧社事件の相剋
 4 湖畔の静かな家
 5 「蕃婦ロポウの話」
 6 蕃地の〈ラブロマンス〉の話型
 7 芥川賞を争う
 8 蕃地小説の系譜
 9 戦後台湾における映像表象
 10 誰もが「あまりに野蛮」である可能性
 11 罪の意識
 12 「猫のいる風景」

第4部 上京後の彷徨と郷愁――東京時代

第8章 生と死のさまよい
 1 上京の決意
 2 重苦しい日々
 3 生と死のさまよい
 4 「風葬」
 5 「盲目の樹」
 6 新たな生活
 7 25年ぶりの里帰り
 8 再会と再見
 9 内なるふるさと
 10 別れの「白き路」

 結
 あとがき
 謝辞
 主要な引用・参考文献

 資料
  【資料1】未発表小説原稿「樹霊」
  【資料2】坂口䙥子年譜
  【資料3】坂口䙥子「蕃婦ロポウの話」の生成過程
  【資料4】坂口䙥子の移動
  【資料5】日本統治期台湾の原住民分布図
  【資料6】坂口䙥子の移動と創作

前書きなど



 熊本県八代郡(現八代市)に生まれた坂口䙥子(旧姓山本、1914~2007)は、日本統治期(1895~1945)の台湾文壇で活躍した女性作家であり、日本と台湾山地とをヒューマニズムの視点から強く結びつけたきわめて重要な人物である。
 日本と台湾の文学を繫いだ先駆者(パイオニア)であるにもかかわらず、現在、その名を知る人はほとんどいない。本書は、この“忘れ去られた”作家の存在を改めて掘り起こし、その文学が切り拓いた地平を紹介することで、少しでも多くの読者にこの作家を知ってほしいという願いを込めて執筆したものである。

 (…中略…)

 䙥子は、1940年代、日本統治期台湾の新聞や文芸雑誌に小説や随筆を精力的に発表し、人気作家として台湾の文壇でその名を知られていた。太平洋戦争の終結後、台湾から引き揚げた後は、台湾の原住民が暮らす山地で取材した経験を活かして「蕃地」ものに取り組み、戦後文学に新風をもたらす期待の新人として注目を集めた。丹羽文雄(1904~2005)や舟橋聖一(1904~1976)らに実力を認められ芥川賞候補にも挙がったが受賞にはいたらず、1960年以降になるとその名は次第に忘れ去られていく。夫を亡くした後は、貧しい暮らしから抜け出せず、思うように執筆を続けられなかったという苦しい事情もあった。
 作家・坂口䙥子の大きな特徴は、日本統治期の台湾と戦後の日本双方で創作歴をもつ点にある。台湾の学界では今もなお、西川滿(1908~1999)、濱田隼雄(1909~1973)、新垣宏一(1913~2002)らと並ぶ統治期の日本人作家の一人として知られ、盛んに研究が進められている。
 日本では1960年代に尾崎秀樹が「決戦下の台湾文学」でいち早く論及し、1970年代には河原功が霧社事件の文脈から坂口を重要な作家として紹介したが、その後しばらくの間、議論の俎上に載ることはなかった。1990年代に入ると、脱植民地主義研究の流れのなかでふたたび注目が集まり、「外地の日本語文学」として台湾時代の作品が取り上げられるようになった。垂水千恵や中島利郎は作品紹介や年譜の作成に加え、作家本人にインタビューを行うなど先駆的な研究を展開した。とりわけ台湾時代を中心とした紹介と年譜は充実しており、後進にとって重要な参照軸となっている。
 このように、台湾時代の先行研究は厚みを増してきたが、戦前と戦後を貫いて生涯と創作を一つの連続した経験としてとらえた単著はいまだ見られない。
 筆者は研究を進める過程で、䙥子の少女時代の短歌を多数発掘するとともに遺稿のなかから未発表原稿を発見し、その歩みをより全体的に照射できる状況を得た。先行研究の成果を踏まえつつ、こうした新資料を積極的に活用することで、従来十分に見えていなかった作家像に迫ることができると考えている。
 本書は、伝記的事実を追って彼女の生涯をたどりながら、テクストの精読を通じて坂口䙥子の文学の内的葛藤を可視化する試みである。「第1部 球磨川の流れる町――八代時代」では、ふるさと八代での生い立ちと少女時代を『龍燈』の短歌を通して探り、「第2部 文壇への扉――台湾時代」では台湾渡航と台湾文壇での活動を俯瞰し、蕃地への疎開経験とタイヤル女性との交友を軸に戦後作品への影響を考察する。「第3部 蕃地をめぐる戦後創作――熊本時代」では、引き揚げ後に疎開経験を活かした蕃地テクストが生み出され、中央文壇に認められていくプロセスを新発見の原稿をもとに検証する。「第4部 上京後の彷徨と郷愁――東京時代」では、これまで明らかになっていなかった東京時代を追い、熊本を題材とする三部作や台湾再訪の記録を通して、戦中と戦後の連続性を描き出す。

 (…後略…)

著者プロフィール

小笠原 淳  (オガサワラ ジュン)  (

熊本学園大学外国語学部東アジア学科教授。熊本県八代生まれ。北京語言学院に語学留学、台湾大学中国文学系及びパリ政治学院への研究留学を経て、神戸大学にて文学博士を取得。
研究領域は華語圈の現代文学。日本語の主な論文に、「死者と母の郷土表象――舞鶴「拾骨」論」『野草』(2012年)、「白先勇『孽子』と台北――移ろいゆく都市の記憶」『アジア・ディアスポラと植民地近代』(2013年)、「詩に浄化される身体――余秀華という現象とその詩」『中国21』(2015年)、「坂口䙥子の台湾蕃地小説とその系譜」『日本台湾学会報』(2015年)、「楊牧と洛夫――記憶の風景、流木の美学」『現代詩手帖』(2020年)、「文学テクストにおける中国女性の身体――蕭紅と余秀華のエクリチュールを中心に」『現代中国』(2024年)等がある。
小説の翻訳に、白先勇「シカゴの死」、劉慈欣「西洋」『華語文学の新しい風』(白水社、2022年)、蒋一談「酒楼にて」、陳楸帆「巴鱗」『灯火 新しい中国文学』(外文出版社)等多数ある。ライブハウス等で自作詩の朗読活動を展開し、詩のボクシング大阪チャンピオンでもある。

上記内容は本書刊行時のものです。