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高等教育改革の政治経済学
なぜ日本の改革は成功しないのか
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2024年3月22日
- 書店発売日
- 2024年4月4日
- 登録日
- 2024年2月29日
- 最終更新日
- 2024年5月27日
紹介
知識基盤社会における高度人材の育成とイノベーション創出に応えられる高等教育改革とはどのようなものか。諸外国と日本の大学改革の成果と課題を政治経済学的な視点から比較評価し、日本の改革の失敗の本質を見定め、異なる改革の方向性と具体策を明らかにする。
目次
はしがき
序章 本書の目的と分析の枠組み[田中秀明]
第1節 背景
第2節 枠組み
第3節 構成と各章の概要
第Ⅰ部 高等教育改革の軌跡
第1章 イギリス――自律から新たな自律へ[大森不二雄]
第1節 はじめに
第2節 高等教育システムの現状と特徴
第3節 高等教育改革の経緯と内容
第4節 高等教育改革の特徴と評価
第5節 おわりに
第2章 オーストラリア――連邦政府主導による市場化と国際化[杉本和弘]
第1節 はじめに
第2節 高等教育システムの現状と特徴
第3節 高等教育改革の経緯と内容
第4節 高等教育改革の特徴と評価
第5節 おわりに
第3章 オランダ――ハイブリッド・モデルへ[田中秀明]
第1節 はじめに
第2節 高等教育システムの現状と特徴
第3節 高等教育改革の経緯と内容
第4節 高等教育改革の特徴と評価
第5節 おわりに
第4章 ドイツ――抑制された舵取りモデルへ[田中秀明]
第1節 はじめに
第2節 高等教育システムの現状と特徴
第3節 高等教育改革の経緯と内容
第4節 高等教育改革の特徴と評価
第5節 おわりに
第5章 フランス――全構成員自治からの漸進的変化[大場淳]
第1節 はじめに
第2節 高等教育システムの現状と特徴
第3節 高等教育改革の経緯と内容
第4節 高等教育改革の特徴と評価
第5節 おわりに
第6章 日本――自律性の挫折から政府統制の強化へ[大森不二雄]
第1節 はじめに
第2節 高等教育システムの現状と特徴
第3節 高等教育改革の経緯と内容
第4節 高等教育改革の特徴と評価
第5節 おわりに
第Ⅱ部 高等教育の政策過程
第7章 イギリス――政権交代を超えた改革[大森不二雄]
第1節 はじめに
第2節 統治構造
第3節 政策過程
第4節 政権交代時に引き継がれた高等教育財政改革
第5節 改革の政策過程から見える政策パラダイムの共有
第6節 おわりに
第8章 オーストラリア――実験的改革の試行と転換[杉本和弘]
第1節 はじめに
第2節 統治構造
第3節 政策過程
第4節 業績連動型配分システムの経緯・仕組み・評価
第5節 需要駆動型財政配分システムの経緯・仕組み・評価
第6節 おわりに
第9章 オランダ――科学的な分析と合意形成[田中秀明]
第1節 はじめに
第2節 統治構造
第3節 政策過程
第4節 業績協定と品質協定の経緯と仕組み
第5節 業績協定の評価
第6節 高等教育改革の政策過程の特徴と問題
第7節 おわりに
第10章 ドイツ――合意形成と相互牽制[田中秀明]
第1節 はじめに
第2節 統治構造
第3節 政策過程
第4節 卓越構想と卓越戦略の経緯と仕組み
第5節 卓越構想と卓越戦略の評価
第6節 高等教育改革の政策過程の特徴と問題
第7節 おわりに
第11章 フランス――中央集権制度と参加による合意形成[大場淳]
第1節 はじめに
第2節 統治構造
第3節 政策過程
第4節 高等教育改革の事例の政策・実施過程分析
第5節 おわりに
別紙 委員会等による調査活動
第12章 日本――検証なきトップダウン[田中秀明]
第1節 はじめに
第2節 統治構造
第3節 政策過程
第4節 業績連動型交付金の経緯
第5節 業績連動型交付金の問題点
第6節 高等教育改革の政策過程の特徴と問題
第7節 おわりに
第Ⅲ部 高等教育改革の比較分析
第13章 高等教育改革の国際比較――改革の内容と成果[大森不二雄]
第1節 はじめに
第2節 改革の内容の比較
第3節 大学の自律性の比較
第4節 改革の成果の比較
第5節 改革の特徴と成果から何が言えるか
第6節 おわりに――日本の高等教育改革は失敗している
第14章 高等教育改革の政策過程――政策形成能力の比較[田中秀明]
第1節 はじめに
第2節 分析の枠組み
第3節 改革の背景・契機
第4節 政治・行政システムと政策形成過程の特徴
第5節 高等教育改革の政策過程
第6節 おわりに
終章 日本の高等教育は立ち直れるか[大森不二雄]
第1節 はじめに
第2節 日本の高等教育改革の失敗の本質
第3節 これまでの政策を全面的に見直し、異なる改革の方向を示す
第4節 おわりに――大学関係者は声を上げ、変革の意思を示すべき
補章 大学ファンド――失敗に学ばず、更なる統制強化へ[大森不二雄]
第1節 はじめに
第2節 トップダウン型ガバナンスを求めた国際卓越研究大学の選定
第3節 政府介入の常態化と垂直統制のためのガバナンス構造
第4節 内閣府等による文部科学省を通じた間接統治
第5節 国際卓越研究大学制度はエビデンスに基づいた政策か
第6節 おわりに
前書きなど
はしがき
本書は、国際比較によって、日本の高等教育改革が成功しているのか、失敗しているのか、さらには、その要因を探ろうという大胆な試みである。学術的な厳密性を大切にしながら、同時に、学術書にありがちな「各国間の比較評価は難しい」「様々な見方がある」「更なる研究が必要である」といった逃げを打たず、全力を尽くして結論に至ることを目指した。その前提として、各国の改革そのものの分析・考察を徹底して行うこととし、かつそのフォーマットを統一した。
各国の高等教育に関する紹介は珍しくないが、比較評価の試みは、日本ではほとんど例を見ないであろう。また、これまで日本の高等教育研究があまり採り入れてこなかった政治学・行政学等の理論・知見に注目し、各国の政治・行政システムや政策形成過程を分析対象に取り込んだ。
以上のように、本書は類書にない特徴を持っている、と自負している。
他方で、自虐的なことを述べれば、高等教育改革は、国民にとって、あまり関心の高いテーマとは言えないであろう。最近話題の高等教育無償化は、教育政策というよりも、家計支援・少子化対策に眼目がある。元来、多くの人々にとって、大学は、入試による選抜機関としての認識はあっても、教育機関としての重要性の認識は薄い。各界の成功者からは、「私は大学では全然勉強しない学生でしたが」といった決まり文句もよく耳にするところである。さらに、大学のもうひとつの機能である研究となると、特に文系の場合、無関係だった大卒者が多い。まして、教育・研究を支える大学制度・高等教育システムとなると、一般の認識は曖昧模糊としたものとなろう。そして、高等教育改革とは、この制度・システムを変えようとするものであり、国民の多くにとってわかりやすいとは言えない。
そうしたなか、大学に関心を有する一部の政治家・経済人等が官僚の尻を叩き、あるいは官僚がそうした人達を使って、大学改革・高等教育改革を継続させてきた。国民的な議論の対象になることがないので、政策立案に関わる一部の関係者の思いどおりになってきた面がある。こうした傾向は、今世紀に入って以降、特に顕著になっている。
問題は、それで大学が良くなったか、つまり、教育や研究の成果が向上しているのかである。本書が迫ろうとするのは、まさにこの問いであり、同じ問いを他の5か国(英、豪、独、蘭、仏)についても適用することで、一定の根拠を持った答えを求めている。本書の著者4人は、執筆前も執筆中も、互いに議論を繰り返し、コメントし合うことにより、分析・考察の精度を高める努力を行ってきた。各章の文責は、あくまで当該章の担当者にあるが、学術論文の査読に準じるプロセスを経たとも言えよう。
そうしたプロセスを経て、著者一同が一定程度共有するに至った認識のひとつは、どの国の高等教育改革も、成果と課題を分析・考察すれば、完璧な成功例と言えるものはないが、成功・失敗の程度には国ごとの差があるという点である。そして、そこには、大学制度・高等教育システムに固有の要因に加え、政治・行政ステムや政策形成過程に関する各国の差異が反映されていることである。また、高等教育研究において改革の潮流は「新自由主義」「ネオリベラル」といった言葉で一括りにされがちであるが、各国で実施された改革の軌跡を仔細に見ると、改革の方向性を含む差異が小さくないことがわかる。
そして、本書は、到達点として、日本の改革には大きな問題があることを論じる(何が問題なのかを知るには、本書をお読みいただく必要がある)。しかし、我々大学人の「好きにやらせてくれ」と言わんばかりに、改革が不要だと主張するものではなく、異なる改革の選択肢を示すものである。本書の批判的分析の対象は政府による高等教育改革であるが、自己変革に積極的であったとは言えない大学の在り方に対しても批判的な視点を持っている。
そういう意味では、昨今のSNS等ネット社会で一層顕著になっている「敵と味方」という図式で、大学改革論者と改革批判論者を敵と味方に見立てて、「わかりやすい」改革批判の書で留飲を下げたいという方はがっかりされるかもしれない。我々の採る立場は、高等教育改革が知識基盤社会における高度人材の育成とイノベーション創出に大きな役割を果たす大学の教育・研究の質・水準を向上させるものでなければならないというものである。その一点を基準として、各国の改革の成果と課題を比較評価し、日本の改革の失敗の本質を見定め、異なる改革の方向性と具体策を論じる。本書をお読みいただいて、こうした政策批判の特徴をつかんでいただければ幸いである。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。