版元ドットコム

探せる、使える、本の情報

文芸 新書 社会一般 資格・試験 ビジネス スポーツ・健康 趣味・実用 ゲーム 芸能・タレント テレビ・映画化 芸術 哲学・宗教 歴史・地理 社会科学 教育 自然科学 医学 工業・工学 コンピュータ 語学・辞事典 学参 児童図書 ヤングアダルト 全集 文庫 コミック文庫 コミックス(欠番扱) コミックス(雑誌扱) コミックス(書籍) コミックス(廉価版) ムック 雑誌 増刊 別冊
ルポ 宗教と子ども 毎日新聞取材班(編) - 明石書店
.
【利用可】

書店員向け情報 HELP

書店注文情報

注文サイト:

在庫ステータス

在庫あり

取引情報

直接取引:なし

出版社への相談

店頭での販促・拡材・イベントのご相談がありましたらお気軽にご連絡ください。

ルポ 宗教と子ども (ルポシュウキョウトコドモ) 見過ごされてきた児童虐待 (ミスゴサレテキタジドウギャクタイ)

このエントリーをはてなブックマークに追加
発行:明石書店
四六判
216ページ
並製
価格 2,000円+税
ISBN
978-4-7503-5724-9   COPY
ISBN 13
9784750357249   COPY
ISBN 10h
4-7503-5724-3   COPY
ISBN 10
4750357243   COPY
出版者記号
7503   COPY
Cコード
C0036  
0:一般 0:単行本 36:社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2024年3月10日
書店発売日
登録日
2024年1月25日
最終更新日
2024年3月11日
このエントリーをはてなブックマークに追加

紹介

安倍元首相銃撃事件を機に社会で注目されるようになった「宗教二世」問題。家族と宗教という二重のブラックボックスの中で「見えない存在」にされてきた一人一人の苦難を丁寧に聞き取ると同時に、国や自治体、医療機関が過去にどう対応してきたかを検証する満身のルポ。

目次

 はじめに

序章 二発の銃声から
 「彼」は近くにいた
 自由民主党との蜜月

第一章 深く残る傷痕
 「神の子」のアイデンティティー――チュソンの場合
 異国で破れた「祝福結婚」――貴子の場合
 教義にむしばまれて――愛美の場合
 養子という迷宮
 帰る場所を奪われ――はなの場合
 むち打ちの罠
 便箋につづったざんげ――マリコの場合
 全て神様のおかげ?――郁子の場合

第二章 教義と虐待
 苦悩する児童相談所
 信教の自由とは何か
 逃げる場所があれば――エマの場合
 虐待と気づかなかった――小雪の場合
 子を打つ手の痛み――良子の場合
 それでも信仰を受け継ぐ――信二の場合
 銃撃事件に重ねた思い

第三章 誰が輸血を拒むのか
 ある男児の失血死
 震える手で同意書――大地の場合
 輸血拒否の論理
 両親の反対で手術できず――遥の場合
 子の意思か、親の意思か
 願った母の延命――関口誠人の場合
 医療現場のジレンマ
 親権停止という選択肢
 「無輸血」の教義と命のやりとり
  ○傷ついた患者に寄り添う[遠藤清]
  ○ガイドラインは万能ではない[松永正訓]

第四章 オウムの教訓はどこへ
 透明な存在だった――咲の場合
 息子を引きずり込んで――恵美子の場合
 殺人を正当化する教義
 これって誘拐?――ドキュメント「オウムの子」㊤
 過酷な修行――ドキュメント「オウムの子」㊥
 消せない記憶――ドキュメント「オウムの子」㊦
 共有されぬ公的記録
 生かされなかった「警鐘」
  ○宗教的虐待を防ぐ新法を[紀藤正樹]

 おわりに

前書きなど

はじめに

 宗教は何のためにあるんだろう。
 あの事件が起きてから、何度もその問いが頭の中を巡っている。
 救いのため、善き人生のため、己や世界の成り立ちを知るため。さまざまな答えがありうるだろう。
 ただ、それは自らの意思で信じるという行為を前提にしている。誰かに強制されるものを信仰と呼べるのだろうか。
 二〇二二年七月八日、安倍晋三元首相(当時六七歳)が参院選の応援演説中に銃撃されて死亡した。事件は私たちの社会を大きく揺るがし、今も多くの課題が未解決のままだ。
 民主主義の基盤である言論に対する暴力。とりわけ、ローンオフェンダーと呼ばれる特定組織に属さない個人による犯罪は各地で相次ぎ、警察当局はその把握の難しさに直面している。
 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自由民主党を中心とする政治権力との癒着。その中枢にいた安倍元首相が犠牲になったことも影響し、半世紀以上続く根深い関係の解明は不十分なままだ。
 旧統一教会の信者による高額献金問題をきっかけに、国会では事件後、宗教法人に対する不当な寄付の勧誘を規制する法律が成立した。さらに、政府は教団への調査や被害者からのヒアリングを経て、宗教法人法に基づく解散命令を裁判所に請求したが、教団側は全面的に争う姿勢を示している。
 数々の問題が浮上する中で、私たちが着目したのは宗教による家族の断絶だ。
 殺人罪などで起訴された山上徹也被告の母親は旧統一教会の熱心な信者で、教団に一億円を献金して自己破産した。
 山上被告は奈良県内でも有数の進学校とされる県立高校を卒業したが、生活苦から大学への進学を諦めた。海上自衛隊に入隊後、自殺未遂を起こして退職し、以降は職を転々としていた。
 〈オレが憎むのは統一教会だけだ〉〈統一教会のおぞましさに比べれば多少の政治的逸脱など可愛いものだ〉
 山上被告が「silent hill 333」というアカウント名でツイッター(現在のX、以下同)に投稿した内容は、教団への憎悪に満ちている。その半面、家族への複雑な感情もうかがえる。〈オレは作り物だった。父に愛されるため、母に愛されるため、祖父に愛されるため〉〈オレは努力した。母の為に〉─。
 宗教二世という言葉がある。親の信仰の影響を受けて育った人たちのことだ。
 山上被告が、宗教二世といえるのかどうかは分からない。山上被告自身は、旧統一教会の信者ではなかった。山上被告の成育環境が、殺人という行為の免罪符になるわけでもない。
 ただ、事件が宗教二世の存在、その苦しみをあぶり出したのは紛れもない事実だ。
 私たちは事件後、毎日新聞大阪本社を拠点に「カルト・宗教取材班」を作り、宗教二世たちが人知れず味わってきた苦難を聞き取り、「声を聞いて―宗教二世―」という連載を始めた。同時に、国や自治体、医療機関などが宗教二世にどう対応してきたか、社会の課題を検証する取材にも取り組み、「宗教と子ども」キャンペーンとしてウェブや紙面で展開した。
 本書はそれらの記事をベースに、取材に関わった記者たちの思いや取材の経緯、宗教を巡る社会の動き、用語解説などを大幅に加筆して再構成したものである。年齢や肩書は原則として取材時点のものにし、敬称は省略した。
 取材の過程で浮かんできたのは、多くの宗教二世たちが幼少時から心身両面に深い傷を負いながら、救いの手が差し伸べられず、社会の中で「見えない存在」になっていたことだ。
 宗教を背景にした児童虐待はなぜ見過ごされてきたのか。どうすれば救いの手は届くのか。本書がその考察を深める一助になることを願っている。

上記内容は本書刊行時のものです。