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生きづらさの民俗学
日常の中の差別・排除を捉える
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年10月15日
- 書店発売日
- 2023年10月31日
- 登録日
- 2023年9月29日
- 最終更新日
- 2023年11月8日
紹介
柳田國男の問い「何故に農民は貧なりや」から始まった自己内省の学は、今日あらたに問いをたてなおし、とにもかくにも〈しんどい〉現代社会への探求の扉をふたたび開く。
「何故我々は生きづらいのか?」
本書は、民俗学に初めて触れる読者を想定した「入門書」である。わたしたちの社会のいたるところにみられる差別や排除、「生きづらさ」というテーマを民俗学はどう考えることができるか、そしてそこに立ちあらわれる民俗学とは何か。
目次
まえがき 本書の読み方[及川祥平・川松あかり・辻本侑生]
◆第Ⅰ部 生きづらさと民俗学
第1章 生きづらさと差別[川松あかり]
第2章 民俗学と生きづらさ[及川祥平]
第3章 生きづらさとインターセクショナリティ[辻本侑生]
◆第Ⅱ部 生きづらさを民俗学する
第1章 選べない出自と阻まれる職業選択[岡田伊代]
第2章 「多文化共生社会」の中の生きづらさ[川松あかり]
コラム1 学歴と格差・地域差[辻本侑生]
第3章 ジェンダーとセクシュアリティ[辻本侑生]
第4章 エイジズム[及川祥平]
コラム2 自己実現をせまる社会における推し活[藤崎綾香]
第5章 病気と差別[今野大輔]
第6章 差別に対する患者たちの抵抗と紐帯[桜木真理子]
コラム3 都市の見えづらい分断[岡田伊代]
コラム4 ラジオ番組に集う視覚障害者たち[奈良場春輝]
第7章 暮らしと障害[入山頌]
第8章 ケガレ[今野大輔]
第9章 災害と生きづらさ[及川祥平]
◆第Ⅲ部 生きづらさにせまる
第1章 話者と見つける研究視点[岡田伊代]
第2章 わからなさと交差点[桜木真理子]
コラム5 セクシュアリティ研究の難しさと意義[三上真央]
第3章 旧産炭地へのフィールドワーク[川松あかり]
第4章 被災地のフィールドワーク[辻本侑生・及川祥平]
コラム6 地域コミュニティを取り巻く生きづらさ[藤崎綾香]
第5章 生きづらさへ資料からアプローチする[辻本侑生]
第6章 民俗資料から生きづらさにせまる[今野大輔]
あとがき
索引
執筆者紹介
前書きなど
まえがき 本書の読み方
本書は、民俗学に初めて触れる読者を想定した「入門書」であると同時に、「生きづらさ」というテーマを民俗学の立場から考えるための「手引き」である。わたしたちの社会には、いたるところに差別や排除がみられ、日々、様々なかたちで衝突や軋轢が生じている。読者のなかには、程度やかたちは様々であっても、権利の侵害に直面している人、文化的・社会的な抑圧を感じている人、それに起因する不自由さ、生きづらさを抱えながら暮らしている人も少なくないと思う。この世界で、怒ったり、悲しんだり、憎んだり、恨んだりすることなく暮らすことは、なかなか難しい。悔しい思い、後味の悪い思いを抱えながら、日々を暮らさざるを得ない。本書では、そのようなわたしたちの日常の中にある生きづらさを考えるための、一つの手がかりを提示したいと考えている。
「生きづらさ」のような現代的な課題を「民俗学」の視点から考えると聞くと、首をかしげる人もいるだろう。民俗学は文化財などの伝統文化や、前近代の生活習慣を明らかにする分野であると捉えている人は、今日もなお多い。しかし、日本における民俗学の組織者の一人である柳田國男は、人びとの貧困問題を解決する手段として民俗学を構想していた。「自己内省」の学とも称された民俗学を人びと自身が実践することで、それぞれが生活のなかの諸問題に向き合い、より良い生活、より良い社会の実現に貢献することを理想としていたのである。実は民俗学は、わたしたちの生活や人生を苦しめる社会や文化に、わたしたち自身が立ち向かう社会変革の可能性を有している。そして、そのような社会や文化に拘束されているわたしたち自身の価値観を突き崩す自己変革の可能性をも秘めているのである。本書の目的は、こうした社会変革・自己変革の可能性を有する民俗学的実践への入り口を読者に開くことである。言い換えるなら、本書は、この社会/この時代をともに生きるわたしたちが、わたしたち自身の「弱さ」や「苦しさ」から問いを立てるための、起点となる「道具」なのである。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。