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アポリアとしての和解と正義
歴史・理論・構想
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年3月31日
- 書店発売日
- 2023年5月12日
- 登録日
- 2023年4月11日
- 最終更新日
- 2023年5月23日
紹介
紛争と和解の積み重ねをその歴史の一部とする東アジアから創出された和解学は、哲学・歴史学・思想史・社会学など多様なジャンルを横断する学問的・実践的課題を担い、既存の学問の「常識」を変容させる。第2巻では和解学を多様な側面から論じるエチュードを集めた。
目次
『和解学叢書』刊行に寄せて[浅野豊美・梅森直之・劉傑・波多野澄雄・外村大・土屋礼子]
はしがき[梅森直之]
第Ⅰ部 和解と記憶
第1章 記憶の器としての〈私〉、歴史の器としての〈国家〉を超えて――和解学のための詩学とマイクロポリティクスへ[野尻英一]
はじめに
1 PHANTASY 現代日本という幻想空間
2 WITHDRAWING ひきこもりの国、日本
3 ELEMENT 記憶の生まれる場
4 MY PRECIOUS MEMORIES 私のアイデンティティの根拠としての記憶
5 COLLECTIVE MEMORIES 集合的記憶たち
6 THE DEBATE ON THE HISTORICAL SUBJECT 歴史主体論争
7 THE LIMIT OF CRITIQUE 批評の限界
8 POETICS AND MICRO-POLITICS FOR RECONCILIATION STUDIES 和解学のための詩学とマイクロポリティクス
おわりに――アジアの方へ TOWARD A CONCLUSION, TOWARD ASIA
第2章 和解学の教育手法――キャンパス・アジアENGAGEの教育実践からの考察[小山淑子]
はじめに
1 キャンパス・アジアENGAGEの教育手法アプローチ――アンドラゴジーと省察的実践
2 授業実践例
3 考察――キャンパス・アジアENGAGEの教育手法が和解学に示唆すること
おわりに
第Ⅱ部 和解と正義
第3章 和解の困難さについて――南アフリカから東南アジアへ、彷徨う移行期正義との関連で[土佐弘之]
はじめに
1 承認の政治における紛争と和解
2 正義なき和解?――南アフリカTRCモデルにおける理想と現実の間のギャップ
3 ミニマムからマキシマムな和解へ?――「物象化の政治」という深いクレバス
4 否認の政治――加害者側のアイデンティティ・ポリティクス
おわりに 矯正的正義の実現、そして許しを経て多元的共存へ
第4章 「想像の共同体」の和解をめぐる忘却と諦観――歴史の他者化と争点の伏流化[上杉勇司]
はじめに 東アジア発の和解学とは――本稿の射程
1 和解に対する紛争解決学のアプローチ
2 戦後処理――彗星の核
3 「想像の共同体」間の和解――彗星の尾
4 忘却と諦観の和解学――思うて詮なきことは思わず
5 和解の核と尾の総合
おわりに
第5章 動態的プロセスとしての和解――過去の不正への対応[齋藤純一]
はじめに
1 動態的プロセスとしての和解
2 和解と匡正的正義/分配的正義
3 和解と現在の不正の問い直し
おわりに
第Ⅲ部 和解と歴史
第6章 東アジアにおける歴史と正義――東アジアの歴史生産における似て非なるハビトゥス[澤井啓一]
はじめに
1 「正史」という歴史プラクティス
2 東アジアにおける「正史」の広がり
3 東アジアにおける「正義」の変化
4 「正義」を記述する歴史プラクティス
5 「正義」を記述するプラクティスの展開
おわりに
第7章 歴史認識と非認知的和解――戦後日韓関係に関する一解釈[小倉紀蔵]
1 歴史と尊厳
2 歴史記述の暴力性
3 非認知的和解・歴史記述・尊厳
4 歴史を生きる人間とは
第Ⅳ部 事例としての日韓関係
第8章 被害者意識の克服――未来志向の謝罪と相互的な非支配[郭峻赫]
はじめに
1 「謝罪疲れ」としての日本の被害者意識
2 相互的な非支配と歴史の和解
3 反恥のポリティクス
4 現実主義のポリティクス
5 相互的な非支配
6 相互的な非支配に基づく未来志向的な謝罪
結論
第9章 日韓関係に絡みつく感情を解きほぐすために――ある日本人外交官の問いを手がかりとして[小林聡明]
はじめに――未来を切り開いていくための実践にむけて
1 須之部提言の源流
2 駐韓大使としての最後の報告・提言(一九八〇年)
おわりに――日韓関係の未来図
第10章 「神なき」アジアにおける「神ある」和解の試み――戦後日韓キリスト教会間の「和解」運動再考[松谷基和]
1 日韓の教会関係の現在
2 戦後日本の教会と「戦争責任」
3 日本の教会における戦争責任問題
4 国際的ネットワークを通じた「和解」への促し
5 植民地支配に対する責任の自覚
6 米国のクリスチャンの介在の意味
7 日本の教会の日韓条約反対論
8 国交正常化後の日韓の教会交流
9 韓国教会との橋渡し
10 「対立」を回避した「和解」
11 結びに代えて
編者あとがき[梅森直之]
前書きなど
『和解学叢書』刊行に寄せて
本叢書は、「和解学」という新しい学問領域を拓く先駆けとなる。「紛争」が、社会生活をおくる人間の宿命であるかぎり、「和解」もまた人間の普遍的な営みの一部である。しかし和解はつねに、一定の歴史的・文化的刻印を帯びてあらわれる。紛争を生み出す社会の編制は多様であり、また歴史的に変化するものであるからである。冷戦終結後の不安定地域をめぐる民族宗教紛争が、「紛争解決学」という新しい学問分野の発展をうながしたとすれば、「和解学」は東アジアにおける固有の経験に内在しつつ、現在の世界各地の紛争に接近しようとするものである。この意味において和解学は、「東アジア発の紛争解決学」としての性格を有する。
こんにちの東アジアにおいて「紛争」は、主として歴史認識をめぐる国家間の対立としてあらわれている。これは冷戦後の世界的紛争が、ボスニアやソマリアの内戦(一九九二年)、イスラエル・パレスチナ合意の破綻(二〇〇〇年)、9・11事件とアフガン戦争(二〇〇一年)などに見られるように、国家以外のアクターによる直接的な暴力の発動を主な発端として顕在化してきたことと著しい対照をなしている。こんにちの東アジアにおける紛争が、国家間の「歴史認識問題」としてあらわれるのはなぜか。それは今日のグローバルな紛争状況のなかで、どのような意味をもち、またその解決にどのような貢献をなしうるのか。「東アジア発の紛争解決学」としての和解学に科せられた学問的使命は、こうした問いに解答を与えることである。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。