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戦後日本の開発経験 佐藤 寛(編著) - 明石書店
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戦後日本の開発経験 (センゴニホンノカイハツケイケン) 高度成長の礎となった「炭鉱・農村・公衆衛生」 (コウドセイチョウノイシズエトナッタタンコウノウソンコウシュウエイセイ)

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発行:明石書店
A5
152ページ
上製
価格 2,800円+税
ISBN
978-4-7503-5591-7   COPY
ISBN 13
9784750355917   COPY
ISBN 10h
4-7503-5591-7   COPY
ISBN 10
4750355917   COPY
出版者記号
7503   COPY
Cコード
C0036  
0:一般 0:単行本 36:社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2023年5月5日
書店発売日
登録日
2023年5月11日
最終更新日
2023年6月23日
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紹介

日本の戦後高度経済成長期を現在途上国が経験している「開発」すなわち他者からの援助を利用した近代化の過程の先駆として捉え、農村、炭鉱、公衆衛生の三つの分野について、とりわけ女性の働きに焦点を当て、高度成長がどのように準備されたのかを振り返る。

目次

はじめに 開発社会学の視点から戦後を語る意味

第1章 高度成長を用意したもの――映画『家族』の風景を理解する[佐藤寛]
 1.高度経済成長真っただ中の日本列島を縦断する「家族」
 2.映画の背景にある高度成長の日本で起きていたこと
 3.近代化の奔流
 4.高度成長の主人公としての「家族」

第一部 途上国としての戦後日本

第2章 開発社会学の視点で見る戦後の石炭産業[佐野麻由子・滝村卓司]
 1.はじめに
 2.開発社会学の視点
 3.石炭政策を開発プロセスとして見る
 4.GHQによる石炭開発政策
 5.独立後の日本の石炭開発
 6.石炭産業の盛衰に見る戦後(1945~1962年)の日本の開発経験とは
 7.開発経験として通時的に石炭産業の盛衰を見ることの意味

第3章 協同農業普及事業導入時における“適応・再編成”――戦後日本における外部介入型の農村開発[辰己佳寿子]
 1.終戦直後の日本における外部介入型の農村開発
 2.協同農業普及事業導入による日本政府の対応
 3.普及員を介して適応・再編成されていく普及事業
 4.戦後日本における“適応・再編成”型の農村開発

第4章 日本の公衆衛生におけるGHQの介入と変化[坂本真理子]
 1.はじめに
 2.戦後占領政策の中で公衆衛生対策が強化された背景
 3.GHQが行った公衆衛生分野での介入――保健所の整備
 4.GHQが行った公衆衛生分野での介入――地域に合わせた対応の多様性
 5.戦後公衆衛生の担い手(リーダーの発掘・人材開発)――保健婦に焦点を当てて
 6.衛生指標に見る改善
 7.GHQ撤退後の公衆衛生の変化

第二部 高度成長を準備したローカルな状況

第5章 資源エネルギー開発としての炭鉱――旧産炭地田川から見た日本の「発展」と「開発」経験[佐野麻由子]
 1.はじめに
 2.旧産炭地域における筑豊地域の位置づけ
 3.日本の近代化過程における産炭地の礎の形成
 4.戦後復興期の石炭をめぐる開発・発展プロジェクト
 5.石炭産業から見えた日本の発展経験、開発経験

第6章 外部介入型の農村開発から内発的な農村発展への転換過程――山口県における生活改善の変遷を通して[辰己佳寿子]
 1.傍流に位置づけられる生活改善
 2.山口県における初期の生活改善普及事業(昭和20年代)
 3.山口県の生活改善普及事業の特徴(昭和30-40年代)
 4.生活改善普及事業からむらづくり運動への転換(昭和50年代から平成初期)
 5.条件不利地で展開するむらづくり運動

第7章 人づくり 外発と内発の中で創られていった保健婦[坂本真理子]
 1.はじめに
 2.歴史的な連続性の中で創られていった保健婦という職業――二つの外発的機会
 3.地域密着型の活動と行政組織の中での特異的な立ち位置の中で創られていった保健婦の特性
 4.保健婦たちの活動へのモチベーションを支え、職業観を培った学習活動
 5.職業としての定着の後に問われるもの

終章 占領政策を開発援助として見る[佐藤寛]
 1.復興政策としての民主化と経済成長
 2.米日援助関係からの教訓
 3.経済開発と社会開発
 4.被援助国からドナーへ

 あとがき

前書きなど

はじめに 開発社会学の視点から戦後を語る意味

 今から約半世紀前の1970(昭和45)年。第二次世界大戦終戦後25年を経て日本列島は「豊かさ」という果実を誰もがそれなりに実感できる一つのピークを迎えていた。本書は、この1970(昭和45)年という年の日本は、世界の開発史の中にどのように位置づけられるか、をメインテーマとしている。
 第二次世界大戦後の日本の社会史は、「敗戦」(1945=昭和20年)と都市の壊滅という極限状態に始まり、飢えと社会的混乱からの「復興」過程(昭和20年代)を経て、「高度成長」(昭和30年代半ばから昭和40年代半ば)に至る一連の事象として記述することができる。
 本書で我々が主に注目しているのは、昭和20年から昭和40年代にかけてのこの「戦後」期である。この時期の西暦と和暦の位取りは5年ズレているので西暦では1940年代半ばから1970年代半ばに当たる。執筆時点(2020年代・令和一桁年代)から見ても、敗戦は75年以上前、高度経済成長のピークを刻するように開催された1970(昭和45)年の大阪万博も50年以上前という歴史上の出来事である。そればかりではなく、既に多くの研究者や文筆家が「戦後」期についての記述を蓄積している。その時期にいまさら注目しても、何か新たな知見を加えることができるのかという疑問は当然湧いてくるだろう。
 我々があえてこの時期に注目する意図は、日本人にとっては自分たちに固有な極めて「特殊」な経験として記憶されている「敗戦~復興~高度成長」という一連の出来事を、今日の途上国が経験している「開発」=「他者からの援助を利用した近代化過程」と同じ種類の出来事として振り返ってみたいからである。これは、日本の歴史を戦後世界史を形成した数多くのピースの一つとして相対化する試みでもある。
 日本は「高度経済成長」に成功した最初の途上国だったが、その後20世紀後半以降多くの途上国が近代化を目指した政策を取り入れ、NIES(新興工業国)と呼ばれた、韓国、台湾、シンガポール、香港、先発アセアン諸国(マレーシア、フィリピン、インドネシア、タイ)などは開発に一定程度成功して「高度経済成長」の時期を経て「中進国」とも呼ばれるようになった。21世紀に入りこれに中国も続き、インドも「高度成長」を経験している。どの国も、経済成長が急激であればあるほど、それに伴ってさまざまな社会的課題にも直面することになるのだが、これもまた、日本が高度経済成長期にくぐり抜けた課題群と共通している。
 本書では、高度経済成長期それ自身よりも、日本がこの華々しい社会変化に突入する準備を整えていた時期の社会の変化を、炭鉱、農村、公衆衛生という三つの視点から捉えなおそうとしている。そして、開発政策とそれに対する人々の反応の相互作用の蓄積が社会の変化として結実する、と捉える開発社会学の視点から整理することで、語り尽くされたかに見える戦後日本の経験に新たな意味を見出してみたいのである。

著者プロフィール

佐藤 寛  (サトウ カン)  (編著

開発社会学舎主宰(アジア経済研究所名誉研究員)
〈主な著書・論文〉
『コンビニからアジアを覗く』(編著)日本評論社、2021/『開発援助と人類学』(編著)明石書店、2011/『開発援助の社会学』(単著)世界思想社、2005/「戦後日本の生活改善運動」『開発学を学ぶ人のために』(菊池京子編)pp.144-163、世界思想社、2001/「日本のODAの存在意義」『国際開発研究』第7巻第2号、pp.9-25、国際開発学会、1998
〈自分にとっての「戦後研究」の意味〉
大学の卒論で『開発社会学序説』を書いた時から「内発的発展論」は私の中で未解決な問題として残っています。そして途上国の発展と開発援助を考える際に、日本の発展の軌跡をどう捉えるか、明治維新と戦後復興を開発の文脈でどう相対化するか、がこの内発的発展論問題を解く鍵を提供してくれるのではないかと思っています。その意味で戦後研究は私の開発社会学研究にとっての「宝の山」なのです。

上記内容は本書刊行時のものです。