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外国人生徒と共に歩む大阪の高校
学校文化の変容と卒業生のライフコース
- 出版社在庫情報
- 不明
- 初版年月日
- 2023年6月1日
- 書店発売日
- 2023年5月26日
- 登録日
- 2023年5月10日
- 最終更新日
- 2023年5月23日
紹介
全国的に外国人生徒の高校進学率は上昇したものの、中退率は高止まりする等、いまだ学校現場での課題は多い。本書は大阪の「枠校」の調査・分析結果を整理することから高校における外国人生徒を受け入れるための論点を洗い出し、日本の目指すべき方向を模索する。
目次
序章 外国人生徒の高校進学と適格者主義
コラム1 自己発見――高校に進み、学ぶことの意味
コラム2 公教育が大事にすべきもの
序章補論 本書の研究上のスタンスと用語について
第1部 大阪府における枠校はどのようにしてつくりあげられているのか
第1章 大阪府における枠校のコンテクスト
第2章 教育行政から見る「枠校」配置の経緯
第3章 枠校の教育システムと教員による支援
第2部 枠校の学校現場から――枠校の実践
第4章 枠校の授業・言語教育
Part1 八尾北高校
Part2 門真なみはや高校
第5章 枠校における外国人生徒の居場所
Part1 成美高校
Part2 福井高校
第6章 枠校におけるキャリア教育
Part1 長吉高校
Part2 布施北高校
第7章 新しく「枠校」をつくる
Part1 東淀川高校
Part2 大阪わかば高校
第3部 枠校を卒業した生徒のいま
第8章 枠校卒業生の生活史
第9章 枠校と大学進学・就職――枠校卒業生の母語とアイデンティティに注目して
第10章 枠校における進路指導と大学進学
教育の現場から
大阪の渡日生教育と特別枠
日本語以外の多言語が飛び交う高校
「枠校」――特別枠のある「学校」
教育委員会からみた枠校
大阪にあって神奈川にないもの
「枠校」勤務で感じたこと
「特別入試枠」の意義とは何か――ネイティブ教員の立場から
「ピアにほんご」事業とおおさかこども多文化センターの成立
外国人生徒をエンパワーするおおさかこども多文化センター
大阪府立学校在日外国人教育研究会(府立外教)の取り組み
ひとりひとりを大切に
Aとの出会い
「多文化クラブ」によるエンパワーメント
「出会い」と「つながり」を大切に
一人ひとりに寄り添う――進路指導の取り組み
彼女のまなざし
くろーばぁに込めた4つの思い
わかば日本語モデルへの思い
適格者主義と学校文化
「枠校」の20年とこれから
抽出授業での多言語使用
足場かけの先にあるもの
第4部 枠校のこれからを考える
第11章 「特別扱いする学校文化」の維持とその変容
第12章 外国人生徒を承認する枠校の取り組み
第13章 トランスランゲージング空間をつくる――外国人生徒が力を発揮するために
第14章 キャリアにつなげる足場かけ――枠校で培われた文化的資源とネットワーク
終章 「外国人生徒と高校教育」の未来
あとがき
インタビュー調査・フィールドワークに関して
参考文献
前書きなど
序章 外国人生徒の高校進学と適格者主義
本書は2008年に出版された『高校を生きるニューカマー─大阪府立高校にみる教育支援』(志水編2008)の続編として企画された。私たちのこれまでの研究を紹介することで、本書の問題意識と位置づけを明らかにしておきたい。
前著をまとめたのは、大阪大学の志水宏吉である。志水は東京大学の教員であった2001年に『ニューカマーと教育─学校文化とエスニシティの葛藤をめぐって』(志水・清水編2001)を著した。学校での長期的な参与観察調査によって、外国人の子ども・保護者と学校の関係を描き出した労作である。
本書に関わる論点はいくつもあるが、私たちが引き継ぐ問題意識は2つある。第1の問題意識は、外国人生徒固有の支援ニーズがあるにもかかわらず、日本人生徒と外国人生徒を同じく扱う「特別扱いしない学校文化」である。
第2の問題意識は、高校教育における「適格者主義」である。「入試をくぐりぬけ、適切な学力を有する生徒のみが高校に入学できる」という考え方は、「適格者主義」と呼ばれてきた。この「適格者主義」は、外国人生徒にとって大きな壁として立ちはだかってきた。日本での教育年数が短い外国人生徒が、日本人と同じように高校入学試験を突破することは困難である。これはすべての教育関係者にとって自明であろう。それでもなお、日本人生徒と外国人生徒を同じく扱うことが高校入試の常識であった。
志水が大阪大学に着任し、大阪の外国人教育に携わることで見いだしたのは外国人生徒を「特別扱いする学校文化」であった。大阪府立高校では、「日本語指導が必要な帰国生徒・外国人生徒入学者選抜」試験が実施されてきた。実施校は外国人を受け入れる「枠」をもつことから「枠校」と呼ばれる。そして在学中には母語教育や日本語教育、居場所づくりといった実践が取り組まれている。こうした枠校の教育を取りまとめたのが『高校を生きるニューカマー』である。
約10年が経過した今、外国人の高校進学率は十分ではないにしても一定程度は高まっている。次節で示すように、外国人児童・生徒を対象とした教育環境の是正策も模索されている。外国人教育はもはやニッチな領域ではなくなった。
『高校を生きるニューカマー』に関わった当時の大学院生を中心に、大阪の枠校の研究は継続されてきた。調査対象者を後追い調査した『大阪府立高校の外国人支援に関する教育社会学的研究─特別枠校における取り組みとその変容』(山本2017)、そして本書のもととなる、『ニューカマー外国人の教育における編入様式の研究』(榎井2021)である。
これらの研究・調査から見えてきたことが、遅々として改善が進まない高校教育の実情であった。例えば、多くの自治体では外国人生徒の存在を認知し、高校入試における配慮は必要と考えているが、入学後は「入学試験を突破した者」として、日本人生徒と同じく扱う。つまり、外国人生徒の存在が認知され、入試における「適格者主義」について是正策が検討されつつあるが、「入学後の適格者主義」については未着手の状態に近い。
『ニューカマーと教育』そして『高校を生きるニューカマー』は志水の言葉を借りれば姉妹本である。いずれも日本の学校教育における外国人生徒の「課題」を示すものであった。前者では、外国人生徒と学校文化の関係、そして適格者主義の課題を示し、後者では入試制度の改善にフォーカスをあて、「入り口」の議論が中心であった。対して、本書は入学後の「在学中」「出口」にフォーカスをあてる。本書は大阪府において外国人生徒を積極的に受け入れる8つの「枠校」を対象とするワン・イシュー本である。長女・次女と比べればスケール感が小さくなっていることは否めないが、いままさに全国で問われている高校における外国人教育の改善に向けた試金石となることを目指すものである。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。