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EUの世界戦略と「リベラル国際秩序」のゆくえ
ブレグジット、ウクライナ戦争の衝撃
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年5月15日
- 書店発売日
- 2023年5月16日
- 登録日
- 2023年4月25日
- 最終更新日
- 2023年5月23日
紹介
EUがめざしてきたリベラルな国際秩序の構築は近年、内外からの大きな挑戦を受け、再検討を迫られている。その現状と課題を1989年ベルリンの壁崩壊以後という中長期的な時間軸から分析。欧州にとどまらず今後の世界政治の展望にもつながる視座を提示する。
目次
序章 「リベラル国際秩序」とヨーロッパ統合――ブレグジットとウクライナ戦争の影響[中村英俊]
はじめに――「リベラル国際秩序(LIO)」とヨーロッパ統合
第1節 「国際秩序」をめぐる論争――LIOに対する挑戦と異議申し立て
第2節 EUの「安全保障」――ヨーロッパ統合とEUの歴史的・理論的意義
第3節 EU拡大――「安全保障共同体」も拡大したのか
第4節 「民生パワー」による「脱安全保障化」の限界
第Ⅰ部 英独仏と「リベラル国際秩序」
第1章 リベラル国際秩序の危機とブレグジット――変わったもの、変わらないもの[池本大輔]
第1節 リベラル国際秩序の危機とブレグジット
第2節 イギリスとリベラル国際秩序
第3節 リベラル国際秩序の綻び
第4節 ユーロ危機によるイギリスの孤立と国民投票への道
第5節 ブレグジット後のイギリス・EU関係
第6節 ブレグジットとロシア・ウクライナ戦争
第2章 ドイツとポスト1989リベラル国際秩序[岩間陽子]
第1節 冷戦期LIOの申し子としての戦後西ドイツ
第2節 LIOの拡大としてのドイツ統一過程
第3節 赤=緑政権第一期(1998~2002年)
第4節 赤=緑政権第二期(2002~2005年)
第5節 メルケル期(2005~2022年)
第6節 ショルツ政権とウクライナ戦争
第3章 「ヨーロッパ・パワー」の限界――マクロン時代のフランス[吉田徹]
第1節 オランドからマクロン大統領への転換
第2節 マクロンのEUイニシアティヴ
第3節 アテネ演説とソルボンヌ演説
第4節 EUをめぐる「ねじれ」の解消
第5節 連続する危機
第6節 道半ばの「ヨーロッパ・パワー」
第7節 LIOの中のフランス
第Ⅱ部 EUの「リベラル国際秩序」
第4章 EUがリベラルな存在であるための条件[武田健]
第1節 リベラルな時とそうではない時
第2節 経済的に苦しむ者たちを助けようとするか
第3節 難民を受け入れるかどうか
第4節 その場面で「私たち」という意識を持っているのか
第5章 ブレグジット後の欧州安全保障――大国間競争時代への適合か[小林正英]
第1節 ブレグジットの影響は軽微
第2節 ブレグジットの影響の現状
第3節 欧州安全保障における二国間協力への注目
第4節 EUの枠組みでの各国間協力
第5節 リベラル国際秩序のゆらぎの中の欧州安全保障
第6節 コソボとウクライナ
第7節 欧州主権言説
第6章 複合危機下のEU資本市場政策――ブレグジット/新型コロナウイルス危機への対応[神江沙蘭]
第1節 EU市場・通貨統合とユーロ危機――銀行同盟の創設とその限界
第2節 ブレグジットとEU資本市場政策
第3節 資本市場同盟と「次世代EU」
第4節 EUでの危機対応と経済政策協調
終章 リベラル国際秩序のためのEU世界戦略――ポストナショナル・アプローチの可能性と限界[臼井陽一郎]
第1節 EU世界戦略の構成
第2節 EU世界戦略の特徴
第3節 EU世界戦略の課題――リベラルと非リベラルのせめぎ合い
おわりに
索引
前書きなど
序章 「リベラル国際秩序」とヨーロッパ統合――ブレグジットとウクライナ戦争の影響(中村英俊)
冷戦が終焉し始めた時、冷戦を「長い平和」と見る歴史観に従って、ヨーロッパ統合も終焉を迎えるだろうという悲観論が台頭した)。しかし暫くの間、ヨーロッパ統合は進化して「西側のリベラルな秩序」もグローバルに拡大する勢いを見せた。アイケンベリー(John Ikenberry)は、冷戦後に「リベラル国際秩序(Liberal International Order: LIO)」が新たなフェーズに入っていると確信した)。
ところが私たちは、2016年6月23日にイギリス国民投票におけるEU離脱派の勝利(ブレグジット)、および、2022年2月24日にロシアによるウクライナへの軍事侵攻(ウクライナ戦争)を経験した。これらは、冷戦後のLIOが内と外から挑戦を受けた事象である。このように、現在、LIOもヨーロッパ統合も様々な挑戦に晒され、異議申し立てを受けている。パングロスにならずに)、LIOの現実を多角的に捉えて、ヨーロッパ統合の本質を捉えなおす理論的視座
が必要とされている。
本章は第1に、国際政治学界における「国際秩序」をめぐるリアリズムとリベラリズムの論争を整理する。この節では、変化する国際システムにおけるEU(諸国)の地位を確認する一方で、LIOの本質を捉えるためのリベラル理論の視座を理解する。このような理解は、冷戦後LIOの拡大や維持という観点からEU(加盟諸国)がどのような役割を果たしてきたかを考察する前提となる。
第2に、ヨーロッパ統合の進化を通してEU自体がウェストファリア秩序を修正して新しい秩序原理を作り出してきたこと、つまり、冷戦後LIOの拡大・推進や維持・強化を担う役割を演じ、EU・ヨーロッパ統合それ自体がLIOの先端事例たりうることに留意する。ここでは、EUの「安全保障」という観点からヨーロッパ統合を考察する歴史的・理論的視座の整理を試みる。
第3に、ヨーロッパの北欧・西欧・南欧諸国間で醸成された「共同体意識」が、EUの東方拡大によって東欧諸国にも広がったか否かを検討する。EUに加盟した東欧諸国は、重要な加盟条件である本格的な「民主化」を着実に進めて、「共同体意識」を共有できるようになったのだろうか。
第4に、国際アクターとしてEUが、LIOの拡大や維持にどのような役割を果たしたかを考察する理論的視座の整理を試みる。ヨーロッパ統合を推進するうえで重要な位置を占めていたリベラルな価値・規範について、それをEUはヨーロッパの非加盟国や域外の国々に伝播しようと試みてきた。ソ連を構成していた東欧の近隣諸国に対するEUのリベラル規範伝播の試みは、ロシアにとってどのような含意を持ったのか。グローバルなLIOが流動化する現状に鑑みて、それを考察する理論的視座の提示を試みる。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。