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子どもアドボカシー
つながり・声・リソースをつくるインケアユースの物語
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年3月10日
- 書店発売日
- 2023年3月9日
- 登録日
- 2023年1月27日
- 最終更新日
- 2023年4月3日
紹介
子どもと大人がパートナーとなって一緒に問題解決を図る子どもアドボカシー。その活動基準は、子どもたち自身にどのようなインパクトを与え、行動変容が生まれるかにある。本書は、カナダから学び日本で行動を起こした実践の記録と具体的な方法論をあわせて紹介する。
目次
はじめに[畑千鶴乃]
第1部 未来を拓く子どもアドボカシー[菊池幸工]
第1章 システミックアドボカシーで社会を変える
第1節 カナダでの当事者ユースによるセルフアドボカシーの実践
1 Our Voice Our Turn Projectによる制度改革の実践活動
2 アドボカシー事務所閉鎖後のユースによるアドボカシー活動
3 日本への提案
第2節 子どもやユースとの関わり方
1 二人の少女の物語
2 子どもは権利をもったひとりの人間
3 多くの子どもは危険にさらされている
4 児童保護制度に関わるとはどんな経験なのか
5 私たちはどうすればいいのか
6 ケイトリンの原則とは
7 子どもが声を出せる安全な場を確保
8 常に子どもの側に――あなたは私を見ていた
第3節 システミックアドボカシーの実践原理
1 システミックアドボカシーとは何か
2 子どもやユースのコミュニティを構築
3 コミュニティディベロップメントアドバイザー(CDA)の役割
4 個別の権利アドボカシーからコミュニティディベロップメントへ――未来への希望
第2章 ユースのセルフアドボカシーを支える法的枠組み
第1節 ユースとのパートナーシップを促進するオンタリオ州の法規定
第2節 ユースのセルフアドボカシーを促進するBC州の法的枠組み
1 当事者のセルフアドボカシーを支援する規定
2 BC州におけるアドボカシー活動のガイドライン
コラム カナダから日本にわたったユースによるアドボカシーの萌芽
第2部 コミュニティディベロップメントアドボカシーへの模索[藤野謙一]
第1章 高校生トロント交流会――カナダ・オンタリオ州議事堂での模擬公聴会
第1節 高校生トロント交流会の取りくみ
1 全国養護施設高校生交流会の歩み
2 高校生トロント交流会――カナダ・オンタリオ州アドボカシー事務所で子どもアドボカシーを学ぶ
3 高校生トロント交流会の評価
第2節 オンタリオ州議事堂で高校生主導の模擬公聴会
第3節 模擬公聴会に参加した意義
第2章 全国インケアユースの集いへの発展――日本での模擬公聴会(意見交換会)
第1節 全国インケアユースの集いの取りくみ
1 趣意書・企画・要項
2 参加者募集
3 準備(前日準備含む)
4 当日プログラム
第2節 ユース主導の意見交換会
1 意見交換会の準備
2 意見交換会
第3節 全国インケアユースの課題と今後の展望
第3章 当事者グループHope&Home(H&H)――鳥取県社会的養護意思決定者へのユース主導公聴会
第1節 当事者グループHope&Home(H&H)の発足
1 H&Hとは
2 H&H発足と活動までの経緯
3 H&Hの目的――発足時事業計画
4 ユースが意見を考える、意見を言うときのガイド方法
5 大人がユースの意見を聴くときのスタンス
6 H&Hユースリーダー・スタッフ会議
第2節 H&Hの子どもアドボカシー合宿
1 合宿に向けてのユースリーダー・スタッフ会議
2 プログラム
3 H&Hユース主導の施設職員への意見表明会
4 合宿に対するユースの評価
第3節 H&H鳥取県社会的養護意思決定者への提言検討会
1 目的
2 プログラム
3 H&Hユースの提言まとめと職員の話し合いの結果
第4節 H&H鳥取県社会的養護意思決定者へのユース主導公聴会
1 公聴会の準備
2 ユース主導公聴会
3 公聴会その後
第5節 H&Hユースによる大人の会議への参加――鳥取県版子どもの意見表明をサポートする仕組み(鳥取県版アドボカシー)の構築についての検討会
1 大人の会議へユースが参加
2 実践することにより見えてきた課題
第6節 H&Hの新たな挑戦
第4章 コミュニティディベロップメントアドバイザー(CDA)の役割と条件
第1節 CDAの役割
1 CDAとは何か
2 CDAとユースリーダー(アンプリファイアー)、ユースアドバイザリーグループの関係
3 CDAは安心・安全な環境づくりが最重要
4 長期的な視点での活動
5 ユースや社会的養護関係者、鳥取県市民へ「子どもの権利」の普及
6 社会的養護意思決定者とユースのコミュニティづくり
7 CDAはユースリーダーの人生のサポートもする
第2節 CDAの条件
コラム1 児童養護施設等の「自治会」から「コミュニティディベロップメントアドボカシー」へ
コラム2 児童養護施設等の個別の権利アドボカシーへの応用
第3部 人間発達の原理をもつアドボカシー[畑千鶴乃]
第1章 オンタリオ州子どもとユースアドボカシー事務所が追求したアドボカシーの実践原理
第1節 オンタリオ州子どもとユースアドボカシー事務所が開発したアドボカシー4層構造
1 個別の権利アドボカシー
2 システミックアドボカシー
3 コミュニティディベロップメントアドボカシー
4 検証・調査
5 アドボカシーが重層的であることの子どもにとっての意味
第2節 コミュニティディベロップメントアドボカシーへ発展した人間と人間とのパートナーシップ
第2章 当事者であるユースがセルフアドボカシー活動をするために欠かせないもの
第1節 ユースが主体になってアドボカシーを立ち上げた出発点
1 コミュニティディベロップメントの立ち上げ
2 コミュニティディベロップメントアドボカシーの担い手となるアンプリファイアー
第2節 コミュニティディベロップメントアドボカシーの幅広い活動
1 権利に根差した文化の創造へ
2 「独立性」とは子どもの声が独立すること
第3節 日本のこれからに向けて私たちが提案できること
1 子どもアドボカシーを子どもと大人が一緒につくるのは何のため?
2 つながり・声・リソースを創造する
3 人間発達としての子どもアドボカシー
4 地域で始まっているアドボカシー試行事業
5 制度がなくともアドボカシーがある子どもの権利文化の創造へ
コラム 子どもと大人とが共に学び合う子どものアドボカシー講座に不可欠なアクティビティとエクササイズ
補論 カナダ各州の子どもアドボカシー機関にみる「検証・調査」と「アドボカシー」――二つの活動によって子どもの声を増幅させる互恵性[畑千鶴乃]
おわりに[菊池幸工]
前書きなど
はじめに
本書は、カナダから学んで、子どもと大人がパートナーとなって子どもの声を表に出しながら一緒に問題解決を図ってきた子どもアドボカシーを、ユース自身にまず紹介したいという思いから生まれました。そしてこれだったら自分と大人とが一緒になってできるなと具体的なイメージがわく、この形のままで使える本にしようと考えました。カナダのユースや大人と交流するなかで日本のユースや大人がとても励まされて、日本に戻ってからすぐに行動を起こした物語として描くことで、アドボカシーは難しいことじゃない、自分が大人とパートナーとなって行動を起こし変えていくことなんだと、肌感覚で分かってもらいたいと伝えたかったからです。
ただマニュアル本にすると読んでいて面白みがないので、子どもと大人が共に行動を起こすときのわくわくとした躍動感が、カナダの文化的背景も含んで伝わるように写真も多く用いて、そのとき、その場の臨場感を表現できるように工夫してみました。
本書の第1部とあとがきの執筆者である菊池幸工氏が紹介していますが、私たちがカナダから学んだ子どもアドボカシーは「子どもたちにどのようなインパクトを与えたのか?」これにつきます。つまり「子どもが自信をもち、自分の権利に関する知識をもち、人の助けを借りずに自分で自分をアドボケイトし、自分には社会を変える力があると実感がもてるようになったのか」。このカナダオンタリオ州子どもとユースアドボカシー事務所の活動基準を私たちの子どもアドボカシーの活動指針とおき、子どもと大人が共に無我夢中で模索してきました。この模索はこれからも続きますが、いったんこの時点で私たちが歩んできた道を振り返り、自分たちも行動を起こしてみたいと願う子どもやユースと彼らを支援しようとする方々にお届けできたらと思います。
子どもたちと共にアドボカシーを起こそうとする人たちのことをカナダではAlly(アライ・同志、同胞、味方の意味)と呼んでいます。子どもやユース当事者と一緒に歩んでいく同志や同胞が一つのコミュニティとなって変化を起こしていこうとする営みが、コミュニティディベロップメントアドボカシーです。その意味において私たちは、コミュニティディベロップメントアドボカシーを日本の各地で起こせるのではないかと願っています。それこそが日本が目指す子どもアドボカシーであると確信しているからです。大人は子どもやユースの話を聞いた以上は行動を起こさなければならない責任があります。つまり「子どもやユースから話を聞いてAllyとなって子どもと共に動き切る」を実践できるかです。子どもの話を聞くだけにとどまらない、逆境に直面している子どもやユースの日常を豊かにし、法制度、仕組み、人々の慣習や意識を改善するために、子どもと共に行動し切る大人の責任と覚悟を求める子どもアドボカシーを本書は描きました。
本書は3つの部で構成しています。まず第1部では、カナダオンタリオ州トロントに40年近く暮らし、オンタリオ州子どもとユースアドボカシー事務所の活動へAllyとして支え続け、その後、日本とカナダ双方のユースの交流をきっかけに、アドボカシー事務所へ日本のユースと大人が訪問して交流したり学んだりできる道をつくった菊池幸工氏が、アドボカシー事務所のサポートを得てオンタリオ州のユースがどのように自分たちの人生を自らの手で切り拓いていったのか、その姿を学んで日本のユースが帰国後どのような変化を自らの手で起こしていったのかまとめています。日本とカナダのユース国際交流の第一人者として、この国際交流の活動が子どもやユースの未来を拓くアドボカシー活動の一環であると確信し、今後も継続するその重要性を訴えています。
第2部では、第1部を受けて藤野謙一氏が菊池氏による国際交流の支援を得ながら、実際に日本の社会的養護各施設で暮らす高校生とそこに勤めるスタッフと共に、日本とカナダオンタリオ州との国際交流のプログラムを自ら開発し、実際にユースを連れてスタッフも一緒にカナダオンタリオ州で過ごした充実した日々と、オンタリオ州子どもとユースアドボカシー事務所でアドボカシーを得ることで、子どもも大人も日本に帰ってからすぐに変革に向けて行動を起こしていった躍動的な模索を描いています。またこの国際交流のプログラムを基に、国内でもできる1泊2日や2泊3日の子どもアドボカシー合宿も開発し、日本でも子どもたちと施設の職員が一緒に起こせる子どもアドボカシーの過程を詳細に解説しており、「子どもやユースから話を聞いてAllyとなって子どもと共に動き切る」を自ら体現してみせた、極めて萌芽的かつ貴重な実践記録です。
第3部では、畑千鶴乃が第1部と第2部を振り返り、結論としてカナダオンタリオ州から学んだ子どもアドボカシーの原理を再度紹介しています。オンタリオ州が目指した子どもアドボカシーは、抑圧している者と抑圧されている者の対立構造を超えていこうとするところに神髄があります。子どもたちが直面する民族的な歴史や現在にも受け継がれている問題を語るなかで、本質的にこの矛盾した関係を克服し、人間と人間との対等で新たなパートナーシップを目指す、周囲から抑圧されることなく言論、表現、思想などを表明できることや、痛みや苦しみ、差別、貧困などから解放された真の自由を獲得することに実践原理をおくことの意味を詳細に解説しています。そしてそこから日本が学ぶべき子どもアドボカシーの視点を提案するものです。
ユースの皆さん、「大人は話を聞くだけで何も変えようとしない、言ったってむだ、聞くだけ聞いて何もしてくれない」を一緒に変えていきませんか。大人もユースの皆さんと何かできないだろうかと思いながらも、方法をもっていないときもあります。そこで本書はユースと大人とが一緒につくった子どもアドボカシーの方法を中心に載せましたので、これらの方法で一緒に変える道を模索してみませんか。子どもやユースのサポートをされておられる皆さん、私たちの力だけではもう変えていくことが難しい、でも子どもに聞いて一緒に変えていきたいと思っておられるその方々に向けてまとめたのが本書でもあります。本書がそのお役に立てたならばとてもうれしいです。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。