書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
外国につながる若者とつくる多文化共生の未来
協働によるエンパワメントとアドボカシー
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年4月20日
- 書店発売日
- 2023年4月4日
- 登録日
- 2023年1月27日
- 最終更新日
- 2023年5月2日
紹介
外国につながる若者が多く在籍する都内の定時制高校を拠点に、高校・NPO・大学の三者連携の枠組みで、居場所づくりやアクションリサーチを通したエンパワメントと具体的な政策提言などの実践を紹介すると同時に、関わってきた若者たちや取り巻く大人とコミュニティがどのように変容してきたのかを考察する。
外国につながる若者の「問題」に目を向けるのではなく、「強み」を引き出すというアプローチから、未来の社会を担う若者たちと共によりインクルーシブで公正な学校や社会づくりを実現するための一助となる一冊。
目次
はじめに
序章 外国につながる若者を取り巻く状況とエンパワメント[徳永智子]
第Ⅰ部 学校編 部活動と授業による居場所づくりと多文化共生の取り組み
第1章 多文化共生社会をつくる定時制高校での部活動の実践――外国につながる生徒たちとの居場所づくり[角田仁]
コラム1 若者の声「私にとってのONE WORLD」
やさしい大人になるために[山中麻里奈]
ONE WORLDに入ったから、今の自分がある[曽根樹理亜]
自分自身が成長することができた[シャ・アルジュン]
この活動にエンパワーされた[マチャド・ダ・シルバ・イザベル]
コラム2 外国出身の生徒たちの人間関係を広げる活動[小林佳朗]
コラム3 大学生と高校生の異文化交流――越境する教育実践[徳永智子]
第2章 高校・NPO・市民の三者が協働したシティズンシップ教育――対話と参加を通した多文化共生の授業実践の試み[角田仁、宮城千恵子、渡邉慎也、澁谷優子、木村さおりサブリナバルトロ]
第3章 座談会――当事者が考える「移民」という呼び方[木村さおりサブリナバルトロ、栗秋マリアン、セレスタ・プラギャン、澁谷優子(聞き手:海老原周子、徳永智子、角田仁)]
第Ⅱ部 学校外編 インターンシップとアクションリサーチによるエンパワメント
第4章 外国ルーツの若者を育てるインターンシップ・プログラム[海老原周子]
コラム4 移民の若者のストレングスとアートの力[オクイ・ララ]
第5章 コロナ禍を生きる外国につながる若者とのアクションリサーチ――YPARの試み[徳永智子]
コラム5 YPARのユニークな特徴――ニ人の視点から[ディネス・ジョシ、田畑智子]
コラム6 ユースの今に期待するということ――YPARにおける大人の変容が与えるインパクト[渡邉慎也]
コラム7 YPARプロジェクトに参加して――ユースリサーチャーの視点から[パオロ、シャ・アルジュン]
第Ⅲ部 実践からアドボカシーへ
第6章 定時制高校での外国ルーツの生徒支援から政策提言へ[海老原周子]
コラム8 対談 支援のネットワークづくりとアドボカシー活動[角田仁、海老原周子]
第7章 学校をアップデートする――若者と共に考える教育の未来[徳永智子、角田仁、海老原周子、パオロ、シャ・アルジュン、曽根樹理亜、山中麻里奈]
おわりに――ONE WORLDとこれから
前書きなど
はじめに
私たちの地域で育ち、学ぶ、外国につながる子ども・若者たちが増えている。特に高校に通う外国につながる生徒たちは、十分な支援を受けることができず、学校を卒業するのも、進学や就職するのも厳しい状況である。近年、全国規模の高校段階における外国人生徒教育の調査がなされ、支援の制度化の動きも見られ始めている。2023年度からは高校でも日本語指導を「特別の教育課程」として位置づけ、卒業単位として認められることになった。これを機に、全国各地の高校で日本語指導やキャリア支援、居場所づくりをはじめとしたさまざまな取り組みが充実することを願ってやまない。
今後さらなる高校段階の支援の充実化が求められるなか、本書では、東京都の定時制高校を舞台とした高校・NPO・大学の三者協働の取り組みを、関わった多様な人々の「声」と共に紹介する。学校現場では、外国につながる生徒を支援する上でどのような課題を抱え、どのような取り組みを実践しているのだろうか。支援団体や大学はどのように学校と協働し、支援に関わることができるのだろうか。当事者の若者は学校や地域に何を求めているのだろうか。現場から見えてきたことを、どのように教育行政の人々に伝えることができるのだろうか。多様なステークホルダーとどうつながり、社会に働きかけていけるのだろうか。
私たちは2015年から、外国につながる生徒が多く在籍する東京都立一橋高校定時制において、高校・NPO・大学との三者協働を深めてきた。多言語交流部(ONE WORLD)の部活動やシティズンシップ授業を通した居場所づくりや多文化共生の試み、インターンシップやアクションリサーチを通したエンパワメント、実践から見えてきた課題を政策提言につなげるなど、さまざまな実践や活動を積み重ねてきた。外国につながる子ども・若者は、低い日本語力や学力などが「問題」としてネガティブに語られることが多いが、多様性が尊重される多文化共生社会をつくる仲間である。彼らの「問題」に目を向けるのではなく、強みを引き出すというストレングス・アプローチから、未来の社会を担う若者たちと共に、彼らが活躍できる社会をつくっていきたい。
本書のタイトルは「外国につながる若者とつくる多文化共生の未来」である。近年、多文化化の進展に伴い、多文化共生や外国人支援に関する本が多く出版されている。本書もその分野の一冊として位置づきながらも、外国につながる子ども・若者を一方的に支援するという視点ではなく、共通の目標に向かって共に支え合い、変容し合い、エンパワーし合うスタンスで書かれている。子ども・若者との関わりを通して、支援者が知り得なかった世界に出会ったり、自らの考えを改めたり、大きな気づきにつながることもあるだろう。本書のタイトルには、子ども・若者との関係性をゆるやかに組みかえ、つながりの輪を広げていくことで、共に多文化共生の未来をつくっていきたい、という私たちの思いが込められている。
研究者や支援者によって書かれた本が多いなか、本書は当事者の若者、高校教員、NPOスタッフ、大学教員、学生、留学生、アーティストなどさまざまな立場の人が本づくりに参加し、多様な「声」が響き合う本にすることを目指した。編者を中心に話し合いの場を頻繁に持ち、本の構成や内容、形式などアイデアを出し合いながら、協働して進めた。座談会への参加、執筆から編集まで、多様なルーツを持つ若者たちにも積極的に関わってもらった。さまざまな文体や言葉が混ざり合い、読みにくく感じる読者もいるかもしれない。しかし、そのようななじみのない言葉やさまざまな日本語が響き合うことこそに、これからの多文化共生の未来をつくっていくヒントが隠れているのではないだろうか。
本書は、現場で日々子どもたちと向かい合っている小・中・高校の教員や支援者(NPO職員、日本語支援者、国際交流協会の職員、ソーシャルワーカー、スクールカウンセラー、コーディネーターなど)に読んでいただきたい。また、多文化共生や外国人支援、多様なステークホルダーとの協働に関心のある国や県、市町村の教育行政に携わる方々、研究者、企業、当事者、大学生・大学院生など、広くこのテーマに関心のある方々にも手に取ってもらいたい。本書を契機に、学校、支援団体、専門家、大学、企業、行政などとつながり、外国につながる子ども・若者を支援する輪がさらに広がっていけば幸いである。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。