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続・アーカイブズ論
原書: Archives: Recordkeeping in Society
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年2月20日
- 書店発売日
- 2023年3月17日
- 登録日
- 2023年2月1日
- 最終更新日
- 2023年4月3日
紹介
現用文書から非現用文書へという直線的なライフサイクル論に代わる、レコード・コンティニュアム論とは――生まれると同時に多層的な性格を備える今日の情報社会における記録と、社会全体の記憶との関係を議論する。
目次
翻訳にあたって
日本語版に寄せて
第1章 ドキュメント
私たちはドキュメントの網の目のなかで生きている
ジャンルの概念
ドキュメント分析:遠いものと近いもの,となり合うもの
証拠としてのドキュメントと記録
ドキュメント,情報オブジェクトおよびメタデータ
ドキュメント・コンピューティング
結論
第2章 レコード
はじめに
レコードとドキュメント
信頼性あるレコードと不確定なオブジェクトとしてのレコード
レコード・システムのなかにドキュメントを位置づける
事例研究:登録システム
メタデータ
アクセス
評価選別
結論:静的オブジェクトあるいは動的オブジェクトとしてのレコード
第3章 アーカイブ
はじめに
アーカイブの観念
コンテクストのなかのアーカイブ:組織と業務活動
組織のニーズ
組織構造の変化とアーカイブ
業務管理の伝統と実務
レコード作成主体とレコード・マネジメントの方針
組織とレコードキーピング・システムとの関係
個人と家
アーカイブおよびアーカイビングの過程に関する視点
アーカイブのアイデンティティ:境界と意味
おわりに
第4章 アーカイブズ
アーカイブズのシステム,枠組み,規模の可変性
信頼されたシステムと多元化
記述
評価選別
保存
公共アクセスのための枠組み
これからのアーカイブズ・システム
結び
第5章 レコード・コンティニュアム
はじめに:活動ベースの情報の保存
時空の遠隔化と情報管理のプロセス
行為の証:フランス哲学を旅する
時空の遠隔化と膨張する宇宙
結論
第6章 アーカイブズと記憶
アーカイブズと記憶:疑いようのない関係
関係の誇張
より幅広く,より適格な表現
実際問題としての資質
忘却とアーカイブズの不在
結論
次の本について
Introduction to the Japanese Edition
事項索引
人名索引
著者紹介
監修者・訳者紹介
前書きなど
翻訳にあたって
(…前略…)
原著出版の意図については,編著者自身が記した文章を前巻で紹介したのでくり返さないが,一言でいえば,文化や組織や歴史など,人間社会のあらゆる場面でアーカイブズが果たす役割を,レコード・コンティニュアムという概念的な枠組みを使って考察し,アーカイブズを現代社会に活かす新しい指針を示そうとするものである,ということになろうか。
もともと1冊の体系的な論文集である原著を,やむをえず二つに分割し,しかも翻訳出版にこれほどの年数がかかったのは,ひとえに私たち訳者の力量不足によるものである。ただ,分冊にあたってはいちおう次のような方針を立て,原編著者の了解を得たうえで作業を進めた。
まず,上巻にあたる前巻には,総論的な意味合いをもつ第1章のあと,社会におけるアーカイブズ機関とアーカイブズ専門職の位置,レコードキーピングとアカウンタビリティ,法制度との関係など,アーカイブズが現代社会において果たす役割を正面から論じた六つの章を集めた。それに対して続巻にあたる本書には,レコード・コンティニュアム論にいう「ドキュメント」「レコード」「アーカイブ」「アーカイブズ」について順に論じた四つの章を中心に,レコード・コンティニュアム論そのものを解説した章と,アーカイブズと記憶の関係を論じつつ原著全体のまとめとしての性格をあわせもつ最終章を加え,全6章を収載した。
レコード・コンティニュアム論の最大の特徴は,従来のライフサイクル論のように,記録の一生を,現用文書→半現用文書→非現用文書,もしくはドキュメント→レコード→アーカイブズというように,時の経過とともに性格が段階的に変化していくものと考えるのではなく,記録が発生した瞬間に,生まれながらにして「ドキュメント」「レコード」「アーカイブ」「アーカイブズ」という四つの性格が同時的かつ多層的に備わる,とみるところにある。いいかえれば,「ドキュメント」「レコード」「アーカイブ」「アーカイブズ」の四つは,直線上の時系列的な流れではなく,中心点からまわりに向かって一瞬に広がる同心円状の四つの次元とみるのである。したがって,記録がどの性格を表出するかは,どの次元=観点から記録をとらえ,活用しようとするかによる。たとえば,どんなに古い過去の記録であっても,第1の発生次元の観点から,現場で進行中の業務に再利用しようとすれば,たちどころに現用の「ドキュメント」に戻るのだし,逆に発生したばかりの新しい記録であっても,第4の社会化の次元からその普遍的価値に着目し,社会全体の共有財産と位置づければ,その途端に「アーカイブズ」としての性格が立ち現れてくる,ということなのである。「ナノセカンド(10億分の1秒)でもミレニアム(千年紀)でも記録は記録」―レコード・コンティニュアム論の記録観を論者の一人が表現したことばだが,言い得て妙である。
レコード・コンティニュアム論の登場は,明らかにデジタル情報社会の広がりを契機としている。デジタル記録は紙資料のように段ボール箱に入れて書庫に移す必要がなく,時間の経過とともに劣化することもない。文字どおり「時空を超えた」存在であり,これまでの紙をベースとした記録管理論やアーカイブズ論だけでは,これを適切に管理し,必要な情報を未来に伝えることが困難になってきたのである。レコード・コンティニュアム論は,現在のところ,この課題に対処するもっとも先進的で実効性の高い理論だと考えられている。ただこの理論は,現代のデジタル情報だけを念頭に置いているのではなく,紙やフィルムなど伝統的な記録世界をも視野に入れていることを見逃してはならない。その意味で本書は,デジタル情報に関連ないしは関心のある読者だけでなく,行政,企業,学術,芸術など,あらゆる分野で新旧さまざまな媒体の記録を生み出し,これを未来に伝えようと努力しているすべての人々にとって,何らかの新しい示唆を与えてくれるはずである。なお,レコード・コンティニュアム論を理解するには,もちろん本書を通読していただくのがいちばんなのだが,初めての読者には,導入としてあらかじめ前巻『アーカイブズ論――記録のちからと現代社会』の「翻訳にあたって」に掲載した「レコード・コンティニュアムとは」(坂口貴弘執筆)に目を通すことをお勧めしたい。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。