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医療専門職のための生涯キャリアヒストリー法
働く人生を振り返り、展望する
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年3月20日
- 書店発売日
- 2023年3月9日
- 登録日
- 2023年2月1日
- 最終更新日
- 2023年4月3日
紹介
編者らが開発した「生涯キャリアヒストリー法」は、働く人が自らのキャリアヒストリーを言語化・視覚化し、今後のキャリアと人生の展望を築くメソッド。本書は、医師・看護師をはじめとする医療専門職のために、この理論と実践をまとめたものである。
目次
はじめに[渡邊洋子]
主な出典
「生涯キャリアヒストリー法研究会」について
読者のみなさまへ
第1部 理論編
第1章 専門職のキャリアをめぐる現代的課題Ⅰ――医師とジェンダー[渡邊洋子]
1.専門職としての医師
2.「女性参入型」専門職としての医師世界
3.医師のプロフェッショナリズムの現段階
4.医師におけるキャリアの現状
5.直面する現代的課題
第2章 専門職のキャリアをめぐる現代的課題Ⅱ――看護職の場合[池田雅則]
1.女性全体の就労状況の変化
2.看護職の働き方と自己認識
3.COVID-19が迫る看護職のキャリアの紡ぎ方
4.キャリアの振り返りを求められる看護職
5.看護職のキャリア形成に関わる実践と研究の特徴
第3章 生涯にわたるキャリアヒストリーという考え方[渡邊洋子]
1.本研究に関わる先行研究の動向
2.「生涯キャリア」という発想
3.生涯キャリアヒストリーに関わる概念的検討
第4章 生涯キャリアヒストリー法における省察と省察ツール[渡邊洋子]
1.生涯キャリアヒストリー法の文脈における省察とは
2.生成される省察プロセスと支援可能性――省察ツール「生涯キャリアヒストリー法フォーマット」
3.生涯キャリアヒストリー法における「省察」支援への示唆
第5章 生涯キャリアヒストリー法の理念と見取り図[池田雅則]
1.生涯キャリアヒストリー法に込めた願い
2.生涯キャリアヒストリー法の実践的な特徴
3.生涯キャリアヒストリー法の見取り図
4.「ライフ」ではなく「キャリア」「ストーリー」ではなく「ヒストリー」
第2部 実践編
第6章 ライフラインチャートを用いた方法の構築――女性医療専門職を対象に[種村文孝]
1.ライフラインチャートを活用したキャリア研究方法の開発
2.ライフラインチャートを活用したキャリア研究方法
3.研究方法としての課題
第7章 生涯キャリアヒストリー法フォーマットの記入方法――個人ワークによる省察[種村文孝]
1.生涯キャリアヒストリー法フォーマットを用いた個人ワークの目的
2.キャリアに関するキーワードの抽出
3.「私の歩み」(my biography)シートの記入
4.生涯キャリアヒストリーの把握による自己との対話
第8章 「生涯キャリアヒストリーを聴き合う・語り合う」実践方法――グループワークによる対話と省察[種村文孝]
1.生涯キャリアヒストリー法を用いたワークショップの目的
2.ワークショップの概要
3.ワークショップの導入パート
4.講義
5.個人ワーク「生涯キャリアヒストリー法フォーマットの記入」
6.グループワーク「キャリアヒストリーを聴き合う・語り合う」
7.ワークショップのまとめパート
第9章 フォーカスグループインタビューの実践と考察[池田雅則・池田法子]
1.実施までの経緯
2.キャリア初期のFGI参加者に応じた工夫
3.フォーカスグループインタビューの概要
4.考察
第10章 生涯キャリアヒストリー法の実践の取組経緯[柏木睦月]
1.はじめに
2.学会ワークショップ「キャリアヒストリーで仕事(work)と人生(life)を振り返る」
3.参加者公募型セミナー「医療者のための生涯キャリアヒストリー法――医療者としての『これまで』を振り返り、これからを築く」
4.ワークショップ「生涯キャリアヒストリーとは LIFELONG CAREER HISTORY METHOD――女性医師の課題点と医療人キャリア教育に向けて」
5.おわりに
第11章 生涯キャリアヒストリー法の実践から見えてきたこと――参加者公募型のオンライン・ワークショップ[犬塚典子]
1.参加者公募型セミナーの開催プロセス
2.セミナー申込者・参加者の内訳とニーズ
3.ワークショップ参加者による気づき
4.生涯キャリアヒストリー法の課題と可能性
おわりに
参考文献
付録――生涯キャリアヒストリー法フォーマット
索引
コラム
①英国における医師のキャリアに関する動向[池田法子]
②男性看護師のキャリアに関する研究動向[柏木睦月]
③19世紀英国の女性医師・女性看護師[渡邊洋子・池田法子]
④カナダ女性医師協会[犬塚典子]
⑤日本にもアテナ・スワンを[犬塚典子]
前書きなど
はじめに
本書は、医師・看護師をはじめとする医療専門職における、省察ツールとしての生涯キャリアヒストリー法の理論・実践・研究経緯をまとめたものである。生涯キャリアヒストリー法とは、働く人が自らのキャリアヒストリーを言語化・視覚化し、それを個人あるいは集団で振り返ることにより、今後のキャリアと人生の展望を築く方法を指す。本書は、筆者らによる「生涯キャリアヒストリー法研究会」の研究成果である。
2018年夏、医学部不正入試の発覚を発端に、「入口」段階での女子差別が社会問題化した。この件は、それまで明確に認識されなかった女性医師のキャリアの困難さが、社会に一定程度共有される契機ともなった。だが、その背景には、性別にかかわらず、最先端の医療専門職が直面している医療現場の、ワークライフバランスとは程遠い厳しい労働の現実がある。医師のみならず看護師、他の医療職でも、人員不足による過重労働やバーンアウトなど、生涯働き続ける上での問題は山積している。
働き方改革が叫ばれながらも状況が簡単には改善されない中、COVID-19の世界的蔓延(パンデミック)が世界を席巻し、感染症治療の最先端にいる医療専門職の日々のワーク(業務・仕事)を激変させた。それはまた、医療者個人の、あるいは家庭・社会におけるライフ(生活・生き方)に対し、さらには、医療者自身の生涯にわたるキャリアの見通しや設計にも、多大な影響を及ぼしてきたといえる。同時にこのことは、日本の医療政策や医療人材育成策に大きく関わる問題でもある。
世界的にCOVID-19の状況は収束方向とはいえ、未だに先の見通しが持ちにくい時代であることは変わらない。時代の波に翻弄され続けることなく、専門職として自分らしく自己実現し、個人としても活き活きと生き抜いていくには、生涯的視野に立ち、自らのキャリアとライフを切り離さずにトータルに省察する機会が必要となる。医療専門職が自らの「今」と「ここ」を確認するには、「これまで」のキャリアとライフを振り返りながら「過去-現在」の道筋を跡づけ、また「これから」のキャリアとライフを中長期的に展望しながら、「現在-未来」の時間軸の起点として「今」「ここ」を位置づけることが、「次の一歩」のために重要であると考える。
本書は、このような問題意識と課題認識をもとに、医療専門職が「働く当事者」として自らのキャリアを省察するアプローチの方法(メソッド)として著者らが開発した「生涯キャリアヒストリー法」について、理論・実践の両面から論じたものである。基盤となる研究は、京都大学・医の倫理委員会(2016年度R0350)および新潟大学倫理審査委員会(2020-0293)から研究倫理審査を受けている。
本書は、理論編(第1~5章)と実践編(第6~11章)で構成される。どちらのパートから読み始めることも可能であるが、マニュアル的・対処療法的な利用を避けるため、可能な限り、両方を合わせて読まれたい。
理論編ではまず、医療専門職を代表するものとして、医師・看護師の現状と課題に焦点を当てる。第1章では、専門職である医師が、「女性参入型」専門職として成立した医師世界においてプロフェッショナリズムとキャリアの間で直面する現代的課題を、COVID-19の影響も含めて概観する。第2章では、看護師の働き方と自己認識の現段階について、女性全体の就労状況と対比しつつ大規模調査から明らかにし、COVID-19が看護職のキャリアに及ぼした影響とキャリアの振り返りを求められる現実を解説する。続く2つの章では、本研究で「生涯にわたるキャリアヒストリーという考え方」に至った経緯を示し、「生涯キャリアヒストリー法」における省察と省察ツールの理論的検討を行う。第3章では、先行研究の動向を整理し、2つの鍵概念(「生涯キャリア」「キャリアヒストリー」)の意味と独自性を明らかにする。第4章では、「生涯キャリアヒストリー法」の文脈における省察とは何かを、3人の論者の省察概念から検討し、筆者らが開発した省察ツール「キャリアヒストリーチャート」の特徴と省察プロセス、学習支援者の役割から、「省察」支援への示唆を提起する。第5章では、改めて実践の文脈に生涯キャリアヒストリー法を位置づける。同法に込めた筆者らの「願い」を示し、メソッドとしての見取り図を解説した後、実践の文脈でも、本メソッドが「ライフ」「ストーリー」でなく「キャリア」「ヒストリー」である意義を確認する。
実践編ではまず、第6章で生涯キャリアヒストリー法の実践方法の組み立てを明示すべく、それがどのようなプロセスで構築されたかを述べる。続く2つの章では、生涯キャリアヒストリー法の実践方法を具体的に解説する。第7章では個人レベルの実践方法について、個人でライフラインチャートを作成し、それをもとに「自己との対話」という形で省察を行う方法とプロセスを明示する。第8章は、グループワークを用いた実践方法について、ワークショップの目的、プロセス(ワークショップの導入-講義-個人ワーク-グループワーク-まとめ)と方法を示す。第9章では、実践研究の方法としての3つのフォーカスグループインタビューの実践経緯と考察内容を報告する。第10章では、コロナ禍後の本研究会での生涯キャリアヒストリー法実践への取り組みの経緯として、2021年度にオンラインで実施した3つの取り組みの経過と結果について、詳細を報告する。第11章では、それらのうち、参加者一般公募型セミナーとして実施したオンライン・ワークショップの開催プロセス、参加者の構成とニーズ、参加者の気づき、生涯キャリアヒストリー法の課題と可能性について報告を行う。これを通して、生涯キャリアヒストリー法の実践を通して見えてきたことについて、現時点での私たちなりのまとめを示す。さらに、英国における医師の動向、男性看護師のキャリア、19世紀英国の女性医療専門職、カナダ女性医師会、医学教育改革に関わるコラムも掲載している。
(…中略…)
以上のような各章やコラムの総体を通して、医療専門職にとっての生涯キャリアヒストリー法の理論的位置づけと実践の形態、具体的方法について提起したい。本書を通して、すべての医療専門職が性別にかかわらず、生涯キャリアの視点を持ち、プロフェッショナリズムとキャリア・ライフを調和的に追求できるような、ともに活き活きと働きやすく住み心地の良い社会に向けて、少しでも社会的使命を果たせたら幸いである。
上記内容は本書刊行時のものです。