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生活保護と外国人
「準用措置」「本国主義」の歴史とその限界
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年2月28日
- 書店発売日
- 2023年3月16日
- 登録日
- 2023年2月1日
- 最終更新日
- 2023年4月3日
紹介
日本在留の外国人には生活保護法に基づく保護は認められていないが、「準用措置」が一定範囲の外国人に対して行われている。本書は、とりわけ日韓会談における在日韓国・朝鮮人への生活保護適用の交渉過程を精査し、外国人保護の形成・展開について分析する。
目次
序論 問題意識
困窮化する外国人
「帰れない」「生きていけない」仮放免者
本国からも居住国からも保護を受けられない外国人
第1章 生活保護と外国人
1.外国人保護の現状
(1)外国人保護の運用と課題――通知に基づく準用措置による保護
(2)被保護外国人の現状
(3)外国人保護に関する判例
2.先行研究と研究目的
(1)法的観点による外国人に対する生活保護法の適用をめぐる議論
(2)本国主義と居住地主義
(3)研究課題の設定
(4)研究方法と資料
(5)定義
(6)章構成
第2章 生活保護法制定と外国人保護――1950年を中心に
1.はじめに
2.旧生活保護法と外国人
(1)旧生活保護法における外国人の取扱いと被保護外国人の状況
(2)被保護欧米人に対する優遇措置
(3)旧生活保護法と在日朝鮮人
3.生活保護法制定と外国人保護
(1)生活保護法制定
(2)1950年6月通知
(3)1950年11月通知
4.小括
第3章 日韓会談と外国人保護――1950年代~1960年代を中心に
1.はじめに
(1)研究目的
(2)日韓会談文書
(3)先行研究の検討
(4)構成
2.予備会談
(1)日韓会談の開催
(2)真っ向から対立する日韓の見解
(3)在日朝鮮人の置かれていた状況――帰国の困難
(4)小括
3.第一次日韓会談
(1)韓国側見解
(2)厚生省見解
(3)日本側妥協案と頓挫
(4)韓国側新提案
(5)退去強制・保護適用・帰国奨励金
(6)厚生省による外国人保護法案
(7)第一次日韓会談の結末
(8)小括
4.第二次・第三次日韓会談
(1)サンフランシスコ講和条約発効と外国人保護
(2)厚生省見解
(3)日韓見解
(4)日本側委員と厚生省による帰国奨励金の具体的検討
(5)第二次・第三次日韓会談の結末
(6)小括
5.日韓会談中断期・第四次日韓会談
(1)1954年通知の発出
(2)被保護朝鮮人「適正化」政策
(3)第四次日韓会談
(4)北朝鮮帰国事業
(5)小括
6.第五次日韓会談
(1)退去強制
(2)保護適用
(3)帰国奨励金
(4)小括
7.第六次・第七次日韓会談
(1)保護適用
(2)日韓法的地位協定と非協定永住者
(3)在日朝鮮人以外の外国人に対する対応
(4)小括
8.まとめ
第4章 国際人権規範・1990年口頭指示と外国人保護――1970年代後半以降を中心に
1.はじめに
2.国際人権規約・難民条約と外国人保護
(1)国際人権規約が外国人保護に与えた影響
(2)難民条約が外国人保護に与えた影響
3.1990年口頭指示以前の外国人保護――1980年代を中心に
(1)外国人の状況と入管法改正
(2)外国人保護の状況
4.1990年口頭指示とゴドウィン訴訟
(1)1990年口頭指示前の厚生省見解
(2)1990年口頭指示とゴドウィン訴訟における厚生省見解
(3)1990年口頭指示をめぐる厚生省と自治体の相違
(4)仮放免者に対する保護規定
(5)1990年口頭指示による困窮外国人への影響
(6)在り方委員会における厚生労働省の見解
(7)在留期間更新ガイドラインと被保護外国人
5.小括
第5章 通知に基づく準用措置による保護の限界――2000年地方自治法改正による影響の検討
1.はじめに
2.地方分権化と外国人保護
(1)地方分権一括法施行前後の状況
(2)旧地方自治法と外国人保護
(3)地方自治法と外国人保護
3.地方自治体と外国人保護
(1)排外主義運動と外国人保護
(2)住民監査請求・裁判の検討
4.通知に基づく準用措置を行い続けることの限界
終章 本国主義の困難と限界
1.本国主義の明示
2.本国主義の模索
(1)日韓会談による影響――54年通知に基づく準用措置の継続
(2)「単行法」の意味
3.国際人権規範による本国主義の抑制
4.本国主義への揺り戻し
(1)稼働能力活用を準用措置の判断軸とする法的妥当性
(2)本国主義に基づく準用措置対象者の制限
(3)厚生省・厚生労働省の広範な裁量
5.通知に基づく準用措置による保護の限界
6.おわりに
(1)本研究の課題
(2)今後の外国人保護の可能性
参考文献
資料一覧
お世話になった皆さまへ
著者紹介
前書きなど
序論 問題意識
(…前略…)
現在、外国人の困窮化が深刻になっている一方で、社会保障制度の対象外となり、困窮状態から脱することができず、命や健康の危機に瀕している外国人が存在している。命を失う人もいる。2022年11月2日、外国人支援団体らは国に対して困窮外国人の命と健康を取り留めるために、仮放免者をはじめとした困窮外国人に生活保護の適用拡大を行うことなどを求めた。この求めに対して、厚生労働省は「外国人に対する保護については、生存権保障の責任は第一義的にはその者の属する国家が負うべきである」と示し、法務省は「退去強制が確定した外国人(筆者注:仮放免者)は、速やかに日本から退去することが原則」であると示した。生存を守るという観点から考えた場合、本国に帰ることで、その人の生活や命が守られるなら帰国するということがひとつの選択肢になるかもしれない。しかし、現実には「帰れ」と言われても帰らない・帰れない人がいる。難民や庇護申請者、無国籍者、日本で生まれ育った子ども、日本にしか生活基盤がない者、ケガや病気によって急迫状態にあったり、本国で医療を受けることができない者などがそうであろう。これらの人たちは困窮化しても本国からも居住国である日本政府からも保護を受けることができない状況に置かれている。この問題は、困窮する外国人に「帰れ」と言ったり、「帰らないのは自己責任なのだからどのような状況になっても本人の問題であり何もする必要はない」ということで解決するような単純な問題ではない。帰らない・帰れない理由が何であれ、目の前で苦しみ続ける人がいなくなるということはないからである。
では、この問題をどのように考えることができるのだろうか。どのように対応していくことができるのだろうか。どのようにすれば、食事や住居の心配をし続ける毎日を送る、生活費や家賃のために性的関係を強要されても耐え忍び続ける、目の前でただただ健康を損ない続け命を失っていく外国人がいるという現実を変えることができるのだろうか。本研究における問題意識はこの点にあり、本研究を行う理由の根底にはこれがある。この問題は程度の差こそあれ世界的な課題であり、今まさに取り組まれるべき課題であり、かつ「難問」である。
この課題について実践上においても研究上においても様々なアプローチがあるだろう。この課題に対して本研究で行うことは、日本における「生活保護と外国人」の歴史を検討することで、困窮外国人の問題が、主として厚生省・厚生労働省において如何なる背景のもと、如何なる対応が模索され、実施されたのか、されなかったのかを明らかにすることであり、それを踏まえて、日本における困窮する外国人の保護の在り方を考える議論の土台を提示することである。そこでは、本国が保護すべきという「本国主義」を軸にその対応が模索されつつも、絶えず「本国主義」の限界性に直面する厚生省・厚生労働省の姿があった。上記課題に対して本研究のアプローチは遠回りのようにも感じられるが、筆者は「問題の根源は過去の歴史にあって、現状を俯瞰する視点が歴史分析から得られる」(岩永 2011:6)と考えている。また、この「難問」に向き合うためには、現在的な分析と同時に歴史的な検討も欠かせないだろう。従来、後者の研究がなされることは少なかった。
本研究ではこのような問題意識をもちつつ、研究を進めていく。(…略…)
上記内容は本書刊行時のものです。