書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
集団予防接種によるB型肝炎感染被害の真相
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年3月15日
- 書店発売日
- 2023年3月16日
- 登録日
- 2023年1月27日
- 最終更新日
- 2023年4月3日
紹介
1989年(平成元年)、5人のB型肝炎患者・感染者が国を相手に損害賠償請求訴訟を提起し、2006年最高裁で全面勝訴の判決を勝ち取った。その後の2011年、原告・弁護団は国との間で基本合意を締結し、2013年には「検証会議」による提言がまとめられた。
本書ではさらに踏み込み、国や自治体、また医療従事者等の責任および問題の所在は一様ではないとの視点に基づき、10年ごとに年代を区切り各時代背景や社会情勢とともに医学知見の程度や感染事例等を検討したうえで、各年代における問題点を検証する。「検証会議」の弁護士、原告を含むメンバーによる「真相究明再発防止班」が、検証会議の提言をはじめ膨大な資料を基に、B型肝炎感染被害の歴史と真相を解明した一冊。
目次
発刊にあたって 全国B型肝炎訴訟原告団代表[田中義信]
発刊にあたって 全国B型肝炎訴訟弁護団連絡会代表[佐藤哲之]
【はじめに】
【序】
1 B型肝炎訴訟とは
2 先行訴訟の最高裁判決(平成18年6月16日最高裁判所第二小法廷)
3 予防接種及びB型肝炎の基礎知識
【コラム:C型肝炎ウイルスとB型肝炎患者の不思議な縁】
第1部 歴史
【1940年代】
第1 時代背景
1 1940年代までのB型肝炎の歴史
2 戦前の予防接種行政
3 戦時以降の予防接種行政
4 医師の不足
第2 予防接種法の制定に至るまで
1 1940年代の衛生状況
2 予防接種法成立の背景(厚生省20年史より)
3 予防接種法の成立
4 予防接種法の強権的性格とGHQの介入
5 膨大な件数の接種が行われたこと
第3 1940年代の知見
1 ウイルスは同定されていないが感染リスクの知見は存在した
2 外国の知見
3 日本の知見
4 小括
第4 集団予防接種による感染拡大
1 予防接種法の施行
2 集団予防接種の実態
3 導入時のGHQの影響、国民のお上意識
4 小括
第5 厚生省内の所管
第6 まとめ(問題点)
1 知見面・対応面
2 制度面
【1950年代】
第1 時代背景
1 GHQによる占領の終わりと義務的予防接種制度の存続
2 高度経済成長と予防接種禍
第2 医学的知見
1 血清肝炎の知見
2 WHO肝炎専門委員会の「肝炎に関する第一報告書」
3 厚生省はWHO肝炎専門委員会の「肝炎に関する第一報告書」の内容を把握していた
4 注射器の使い回しによる集団予防接種の危険性を認識しうる知見の存在
第3 予防接種の規範と接種現場の実態
1 接種器具の消毒と交換に関する各規範の内容
2 予防接種の技術的基準の整理
3 時間当たりの接種人数に関する規定
4 予防接種現場の実態と国の不作為
5 注射筒に関する国の不作為
第4 まとめ
【1960年代】
第1 時代背景
1 社会情勢
2 売血制度から献血制度への転換
3 献血制度への移行による血清肝炎の減少
4 予防接種による副反応問題
第2 B型肝炎に関する知見の集積
1 1960年代における医学的知見の状況
2 オーストラリア抗原の発見
3 1960年代の医学的知見の集積状況
4 肝炎の慢性化・重症化についての知見
5 国の姿勢
第3 肝炎の集団発生事例
第4 予防接種等の実態
1 当時の予防接種の実施状況
2 ディスポーザブル製品の普及状況
3 自動噴射式注射機(ジェット注射機)
4 自治体・医師会の動き
5 国の姿勢
第5 まとめ
【1970年代】
第1 時代背景
1 公害の社会問題化
2 予防接種禍の社会問題化
第2 B型肝炎に関する医学的知見
1 はじめに
2 B型肝炎ウイルスの発見と感染経路に関する認識
3 疾患概念に関する知見とその認識
第3 予防接種等の実態
1 「日本医事新報」の記事から分かる国・厚生労働省(当時厚生省)の認識等
2 国の通知から分かる国・厚生労働省(当時厚生省)の認識等
3 自治体における予防接種の運用から分かる国・厚生労働省(当時厚生省)の認識等
第4 集団予防接種等によるB型肝炎感染被害発生の把握及び対応
1 鳥羽市鏡浦の肝炎集団発生事例
2 評価
第5 まとめ
1 目先の問題だけに対応する国の姿勢
2 被害の軽視
3 国の責任逃れの対応
4 国の責任の重さ
【1980年代】
第1 時代背景
1 社会情勢
2 感染症の状況
3 感染予防策の発達
第2 B型肝炎に関する医学的知見
1 B型肝炎ワクチンの開発
2 肝がんとB型肝炎の関係
3 無症候性キャリアの知見
4 小括
第3 予防接種の実態
1 予防接種の実施状況
2 1988年の通知(注射筒の交換)
3 予防接種における感染予防の不徹底
4 小括
第4 医療現場等におけるB型肝炎感染被害とその対応
1 注射器の使い回し等が原因と推定される水平感染事例
2 劇症肝炎の発生と対応
3 考察・小括
第5 まとめ
【B型肝炎訴訟(先行訴訟)提起に至る経緯及びその後の経過】
1 我が国における肝炎患者の状況
2 キャリア患者の感染原因を求めて
3 B型肝炎訴訟を提起するいきさつ
4 B型肝炎訴訟の経過
第2部 真相と教訓
第1 はじめに
第2 使い回しが続けられた歴史の振り返り
1 当初から注射針も注射筒も使い回しをしてはいけないとの知見があった
2 「予防接種法」の施行と集団予防接種方式による使い回しの実態
3 時代が進んでも注射針や注射筒の使い回しは続けられた
第3 なぜ注射針や注射筒の使い回しが続けられたのか
1 検証会議の提言における分析と本稿における分析
2 使い回しについての誤ったリスク認識
3 使い回しのリスク回避より予防接種率の向上が優先された歴史的経緯
4 社会的に問題にならなかったことによる使い回しの継続
第4 どのような教訓が得られるか
1 検証会議の提言における再発防止策と本稿における教訓
2 国・自治体・医療従事者について
3 研究者・専門家について
4 国民について
5 第三者機関について
第5 結語
第3部 検証会議
【検証会議について】
1 はじめに
2 検証会議メンバーとサポートメンバー
3 第1回検証会議(2012.5.31)
4 第2回検証会議(2012.6.21)
5 第3回検証会議(2012.9.13)
6 研究班
7 第4回検証会議(2012.10.3)
8 第5回検証会議(2012.11.12)
9 第6回検証会議(2012.12.20)
10 第7回検証会議(2013.1.16)
11 第8回検証会議(2013.2.22)
12 第9回検証会議(2013.4.3)
13 第10回検証会議(2013.5.1)
14 第11回検証会議(2013.5.20)
15 第12回検証会議(2013.6.18)
16 提言と研究結果報告書
【スタートはB型肝炎感染拡大の被害実態の明確化】
1 はじめに
2 B型肝炎の感染拡大の真相究明は、被害実態調査から始まる
3 なぜ、B型肝炎に感染し苦しまなければならないのか?
4 被害実態調査で実現したこと
5 原告として検証会議に参加して
【コラム:勇気をもって明るく生きること】
【検証会議委員による振り返り】
1 はじめに
2 検証会議・研究班について
3 ヒアリングへの同行
4 アンケート調査において
【検証会議バックアップ班員としての振り返り】
1 バックアップ班に参加するにあたり
2 第1回検証会議を傍聴して
3 計12回の検証会議から
第4部 資料
あとがき
全国B型肝炎訴訟原告団・弁護団について知りたい方へ
前書きなど
はじめに
なぜ、日本には肝炎患者が多いのか。
この疑問から始まってその答えを求め、医療費助成など肝炎患者の救済対策を実現・充実させるために提起されたのがB型肝炎訴訟です。
(…中略…)
検証会議研究班の報告によれば、1940年代から注射器具の使い回しで肝炎が感染するとの危険性が指摘されていました。それにもかかわらず、国は集団予防接種での注射器具の使い回しを止めずその事実を放置していました。このような国の姿勢について、検証会議は、「結果が重大であるが発生頻度が低いと考えられるリスクの把握と対応に不十分なところがあったと考えられる、特に、予防原則の徹底が不十分で、リスク認識が不足し、また、適期に更新されず、行政としての対応が適期になされなかった国の体制と体質が今回の大きな問題であった」と指摘しました。私たち原告・弁護団の真相究明班は、この提言の内容を広く原告の皆さんに知ってもらうため、独自のパンフレット(「B型肝炎感染被害拡大の真相究明と再発防止への提言『なぜ? どうして……』」)を作成して原告団や関係の皆さんに配布しています。また、患者講義として、私たちB型肝炎感染被害者が中学や高校あるいは看護学校や大学医学部など医療従事者養成機関で、B型肝炎とは何か、なぜ拡がったのかについての授業、講義を行っています。そこでもこの検証会議の検証結果を伝えています。私たちは、このように、B型肝炎ウイルス感染拡大の検証結果について知らせ広める活動を行っています。そして、この活動を行うなかで、私たち自身として、より深くこの感染拡大の原因や問題点を探り、検証する必要があるのではないかと考えました。
検証会議では、1948(昭和23)年の予防接種法の制定から1988(昭和63)年までの間の予防接種の実態やB型肝炎ウイルスの感染拡大の実態、医学的知見の発展や認識等について検証され、前述のような提言がまとめられたのですが、戦後間もない時期からその後の高度成長期など社会の発展や医学的知見の進展により、時代ごとに検証してみると、国の責任あるいは自治体や医療従事者等の問題のあり方について、その度合いや程度は一様ではないのではないか、戦後の混乱した時代から経済が発展してモノが増え、医療制度も整備されていき、B型肝炎に関する医学的知見が発展してウイルスそのものが発見されてその病像が明らかになっていく、その時期や時代ごとに、予防接種行政において取られなければならない義務や責任が違っていたのではないか、年代を経るごとに義務や責任が重くなっていったのではないかと私たちは考えました。
このような問題意識で、私たちは改めて集団予防接種等における注射器具の使い回しについて検証作業を行いました。
戦後のGHQ占領下にあった1940年代、占領が終わり戦後の復興から高度経済成長期に移行していく1950年代、国民総生産(GNP)が世界第2位の経済大国になった1960年代と、10年ごとに年代を区切って時代背景や社会情勢を概観し、医学的知見の程度や進展状況、感染事例の報告等を検討したうえで、その年代における問題点を検証しました(第1部「歴史」)。
そして、第2部「真相と教訓」において、このような歴史経過において、どうして注射器具の使い回しが行われ、続けられてきたのか、止められなかったのかについて、その原因・理由を考え、何を教訓として残すべきなのか探求しました。
私たちは歴史や公衆衛生の専門家ではありません。
しかし、私たちはなぜB型肝炎ウイルスに感染しなければならなかったのか、常にその疑問に立ち返って、考え、活動をし続けてきました。それぞれの時代を生き、あるいは、それぞれの時代を振り返ってみて、具体的・現実的に何が問題であったのか、どうすれば感染は防ぎ得たのかを考えてみたのです。
どれだけ問題点を掘り下げられたか、歴史や事実のとらえ方が間違っていないか等々心配なところはたくさんあります。それでも、私たちB型肝炎感染被害者が自分たちのこととして考え導き出した結果が本書になります。
全体として少し分量の多い本になりました。読み方として、第1部の各年代の記述について、年代ごとに順に読んでいただくことでも、あるいは、読者の方の生まれた年代ないし被害者の方がB型肝炎ウイルスに感染したであろう時代から読んでいただくことでもよろしいと思います。また、第2部から読みはじめ、それぞれの時代の背景事情を第1部に立ち返って読んでいただくことでもよろしいと思います。
本書をひとりでも多くの方々に手にとっていただき、ご一緒に考えていただければ幸いです。
上記内容は本書刊行時のものです。