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東北の結婚移住女性たちの現状と日本の移民問題 李 善姫(著) - 明石書店
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東北の結婚移住女性たちの現状と日本の移民問題 (トウホクノケッコンイジュウジョセイタチノゲンジョウトニホンノイミンモンダイ) 不可視化と他者化の狭間で (フカシカトタシャカノハザマデ)

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発行:明石書店
A5判
196ページ
上製
価格 3,500円+税
ISBN
978-4-7503-5521-4   COPY
ISBN 13
9784750355214   COPY
ISBN 10h
4-7503-5521-6   COPY
ISBN 10
4750355216   COPY
出版者記号
7503   COPY
Cコード
C0036  
0:一般 0:単行本 36:社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2023年2月28日
書店発売日
登録日
2022年11月25日
最終更新日
2023年4月3日
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紹介

様々な背景をもつ女性たちが日本人男性に嫁ぎ、東北地方に暮らす。このような人々に対し日本は何もしない「ほったらかし」政策を採ってきた。そのようなフレームに生きる女性たち事例から、日本がこれから採るべき移民政策を展望する。

目次

序章 移民を移民と言わない日本を振り返る
 第1節 人口減少時代の日本の「移民」
 第2節 動き出した外国人受け入れ――その本音と建て前
 第3節 繰り返される「ほったらかし移民」の失敗
 第4節 「ほったらかし」移民を後押ししている社会的フレーム
 第5節 当事者の観点からの結婚移住とモビリティ、そして東日本大震災
 第6節 「共生」する社会のために

第Ⅰ部 フレームの中の結婚移住女性たち

第1章 アジアの「仲介型国際結婚」と移民政策
 第1節 はじめに
 第2節 ジェンダー不平等の普遍性と移住の女性化
  1.グローバリゼーションと人の移動
  2.移住の女性化と結婚移住
 第3節 結婚移住と変容する東アジア社会
  1.台湾
  2.韓国
  3.日本
 第4節 日本の「多文化共生」政策とその意味
 第5節 国際結婚問題と日本の「多文化共生」施策との乖離

第2章 彼女たちの「結婚移住」――「他者化」と「不可視化」の狭間で
 第1節 研究動向から見る「犠牲者」フレームと「エージェンシー」フレーム
 第2節 地元プレッシャーという圧力
 第3節 新聞記事で追う東北のジモト社会と「仲介型国際結婚」
  1.山形の行政主導の国際結婚と初期対応
  2.東北太平洋地域における「仲介型国際結婚」
 第4節 「犠牲者」フレームと「エージェンシー」フレームの両面性

第3章 再生産労働と結婚移住女性たち、そして「自己決定・自己責任」
 第1節 はじめに
 第2節 「再生産労働」と結婚移住女性
 第3節 内面化された再生産労働
  1.最終的就労先としての再生産労働
  2.ヨメの役割とされる東北の再生産労働
  3.移住女性の再生産労働は当たり前?
 第4節 高齢化していく移住女性たち、彼女らのケアは誰がするのか
 第5節 失われた「当事者の権利」

第Ⅱ部 彼女らの結婚と移住を語る

第4章 「仲介型国際結婚」における当事者たちの選択と選別
 第1節 「ハイパガミー」よりも「ナジミ」がある国へ
 第2節 自分の人生を生きたい
 第3節 結婚市場における自分への商品化
 第4節 結婚移民の選択におけるグローバル的要因
 第5節 男性側からの国際結婚

第5章 移住女性の社会適応過程と「戦略的不可視化」
 第1節 「嫁」になる――移住初期の家族間の葛藤
 第2節 認めてもらえない外国人としてのアイデンティティ――社会的葛藤
 第3節 間違った社会関係の一歩と移住女性のステレオタイプ化
 第4節 他の結婚移住女性との差異化――コミュニティなんかいらない
 第5節 「戦略的不可視化」と孤立する移住女性たち

第6章 東北の日韓国際結婚――誰が残り、誰が去っていくのか
 第1節 はじめに
 第2節 日本における日韓国際結婚の推移
 第3節 東北の日韓仲介国際結婚と地域社会
 第4節 中高齢化する韓国の移住女性のモビリティと家族の苦悩
 第5節 「モビリティ」としての移住を考える
 第6節 「異邦人」ではなく、「構成員」となるための支援政策を

第Ⅲ部 震災が残した移住女性の課題

第7章 東日本大震災と顕著化した移住女性の問題
 第1節 はじめに――被災地と外国人
 第2節 被災地域の外国人と多文化共生施策
 第3節 不可視化されていた結婚移住女性たちの調査を行う
  1.石巻と気仙沼でのアンケート調査
 第4節 浮き彫りになった移住女性たちの脆弱性
 第5節 ジェンダー規範によって排除される移住女性たち
 第6節 外国人として、そして結婚移住女性としての二重の脆弱性

第8章 移住女性たちのレジリエンスとコミュニティ活動の持続可能性を考える
 第1節 震災後の外国人被災者支援とその課題
 第2節 震災後の移民コミュニティの活性化
 第3節 見えない存在から見える存在へ
 第4節 移住女性のレジリエンスを持続可能なものにするため

終章 多様化と階層化する結婚移民と共生のためのシティズンシップ
 第1節 国際結婚――時代をさき行く多様な家族像と多様な個人の生き方
 第2節 移住女性の多様化と階層化
 第3節 ジェンダー平等と多様性のある社会へ
 第4節 市民としての権利と市民としての義務を――「シティズンシップ」
 第5節 「移民」が幸福な社会は「国民」も幸福

 参考文献
 あとがき

前書きなど

序章 移民を移民と言わない日本を振り返る

 本書第Ⅰ部は、まさに「ほったらかし」移民を作り出した社会的フレームとその中を生きる、結婚移住女性の現状を考察した。筆者が10年間、結婚移住女性の研究を行っている中で、最ももどかしく思ったのは、「ほったらかし」移民を正当化する社会的暗黙が存在していることである。それが、本章第2章で言及している「他者化」と「不可視化」のフレームである。そのフレーム実態を説明するため、筆者はまず、第1章で「仲介型国際結婚」の広がりとともに、台湾や韓国では積極的な社会統合政策を結婚移民に採用している事例を紹介する。ところが、両国の積極的政策が学界では全面的に支持されていない現実がある。実際に韓国では、結婚移住女性への手厚い支援に対して、逆差別を訴え、ましてや外国人に対する排斥感が増加している傾向が報告されているし、結婚移住女性たちの側でも、全ての結婚移住女性を可哀想な存在に「他者化」することへの不満の声も多く出ている。

 (…中略…)

 では、台湾や韓国のように結婚移住女性への社会統合政策、あるいは支援政策を全面的に出さない理由はなんなのか。本書の第2章で検討したように、そこにはそもそも地域内で脆弱者を浮き彫りにしない風土があり、いわゆる「他者化」や「序列化」への抵抗のロジックが存在しているからである。特に、東北地方は、社会的均質性が強い風土が残っており、イエ制度やムラ社会の古い慣習を残している。加えて、多様性には不慣れな地域とも言える。そういうコンテクストの中で、村の唯一になるかも知れない結婚移住女性たちは、いち早く「馴染む」ことを期待される。地元では、極力彼女たちの異質性や他者性に抵抗する雰囲気があり、それは「対象化」されたくない移住女性側の思惑とも一致する。しかし、それによって生まれるのは「不可視化」なのである。本章の第2章では、「他者化」や「序列化」に抵抗する地元の動きとともに、「不可視化」の中を生きざるを得ない社会的スティグマについて述べた。
 そして、移住女性を取り巻くもう一つの社会的フレームは「ジェンダー役割」である。再生産労働のために女性の移住化が進んできた背景の中、移住女性たちにとって再生産労働はどのような意味を持つのか。本書第3章では、女性の役割とされている再生産労働は、移住女性たちの中でも内在された役割となっていることを検証した。しかし、問題は彼女らが日本の家族に注ぐ再生産労働の最後に、彼女たち自身がケアをうける権利がないという点にある。結果的に彼女たちの老後を誰がケアするのかは、すでに重要な社会的課題になっている。

 本書第Ⅱ部は、前述した社会的フレームの中でも、主体的に生きる結婚移住女性たちのライフ・ストーリーを提示している。第4章では、彼女たちの移動をプッシュとプール理論で理解するのではなく、グローバル化の中での選択として捉え、さらには「仲介型国際結婚」というシステムの中で選別されることによる自尊感の回復の過程を描いた。また、男性側からの「仲介型国際結婚」の意味と移住女性たちの役割を検証した。
 第5章では、彼女たちの社会適応について検討した。結婚初期には家族間のコミュニケーションの問題や文化的葛藤、中には東北のイエ制度の中で経験する「ジェンダー」問題に直面するが、それを乗り越えたとしても、次なる問題として社会的に外国人としてのアイデンティティーが承認されないことで、地域社会で葛藤を感じることが起きる。さらに、彼女たちが社会活動として安易に関わる、国際結婚の斡旋が地域社会ではトラブルの元になり、以後地域の人々とよろしくない関係になってしまうケースも多い。そのようなトラブル続きの移住社会で、彼女らは残り続けるか、離れるかを選択していくのである。本書では、第6章で韓国からの結婚移住女性20人の調査を分析し、誰が残り、誰が去っていくのかを検討した。ここで見えてくるのは、強かに生きる移住女性たちにとって、モビリティは彼女たちの生活戦略であり、行き詰まった状況を突破する手段となっているということである。一方で、そのモビリティが内包している「不可視化」の強化とそれに随伴される脆弱性も背負わなければならない。
 本書第Ⅲ部は、災害が残した移住女性の課題を論じた。東日本大震災は、地域の結婚移住女性の課題と可能性が明確に浮き彫りになった出来事であった。沿岸地域で、被災した外国人は見えない存在だった。阪神淡路大震災の経験を元に、被災地の外国人に必要な支援を想定して被災地に入った支援団体は、最初被災地の外国人を見つけることすらできなかった。これまでの通り、日本人の中で生きてきた彼女らは、震災をきっかけに集まるようになり、彼女ら自身も「外国人がこんなにいるとは知らなかった」と言った。震災をきっかけに被災地の宮城県石巻と気仙沼でアンケート調査と面接調査が行われ、彼女たちの現状がようやく把握できた。その結果を第7章で考察した。第8章では、震災後移民コミュニティを作り、自ら地域の「多文化共生」の担い手になるまでの過程を記録した。ただ、震災から10年以上が経ち、中にはすでに活動をやめて、地域を去っていたコミュニティリーダーもいる。復興にも格差が生じている中、移住女性の多様化、階層化はより顕著に進んでいる。「共生」するという理念は果たして実現できるのだろうか。

 (…後略…)

著者プロフィール

李 善姫  (イ ソンヒ)  (

東北大学男女共同参画推進センター講師。韓国ソウル生まれ。博士(国際文化学)。文化人類学専攻。日韓の結婚移民研究。社会活動として「EIWAN運営委員」「ハングル学校ミヤギ」教師など移住女性と子どものエンパワメントにも関わっている。
【主要著作】
『国際結婚と多文化共生――多文化家族の支援にむけて』(共著、明石書店、2017年)
『復興を取り戻す――発信する東北の女たち』(共著、岩波書店、2013年)
『移動の時代を生きる――人・権力・コミュニティ』(共編著、東信堂、2012年)
『東日本大震災と外国人移住者たち』(共著、明石書店、2012年)

上記内容は本書刊行時のものです。