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危機の時代の市民と政党 塩田 潤(著) - 明石書店
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危機の時代の市民と政党 (キキノジダイノシミントセイトウ) アイスランドのラディカル・デモクラシー (アイスランドノラディカルデモクラシー)

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発行:明石書店
四六判
296ページ
上製
価格 3,600円+税
ISBN
978-4-7503-5499-6   COPY
ISBN 13
9784750354996   COPY
ISBN 10h
4-7503-5499-6   COPY
ISBN 10
4750354996   COPY
出版者記号
7503   COPY
Cコード
C0031  
0:一般 0:単行本 31:政治-含む国防軍事
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2023年2月28日
書店発売日
登録日
2022年11月8日
最終更新日
2023年4月3日
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紹介

近代的な議会政治が最初に誕生したといわれる北欧の島国アイスランド。2008年の金融危機以後、代表制民主主義の正統性が揺らぐなかで勃興した、憲法改正運動とアイスランド海賊党の結成を取り上げながら、市民社会と政党政治の相互作用を解き明かす。

目次

序章 危機の時代とアイスランドの民主主義
 第1節 危機の時代
 第2節 「危機」、いかなる危機か
 (1)代表制民主主義の危機と世界金融危機
 (2)政党の危機
 (3)「危機の運動」
 第3節 アイスランドへの視座
 第4節 研究の位置づけ
 第5節 本書の構成

第1章 先行研究と分析枠組み
 第1節 凋落する政党、動き出す市民
 (1)政党の市民社会からの離脱
 (2)政党と市民のあいだへの視座
 第2節 市民の政治参加を捉える
 (1)脱政党的な政治参加――熟議という方途
 (2)社会運動と政党――運動政党への着目
 第3節 分析視角と手法

第2章 小さな島の、大きな変容――アイスランド金融危機の歴史的文脈
 第1節 クライエンテリズムから新自由主義へ――アイスランド政治の特質
 (1)クライエンテリズム政治
 (2)新自由主義政治
 第2節 アイスランドの金融化/負債化
 (1)漁業の金融化
 (2)日常生活の負債化と格差の拡大
 第3節 鍋とフライパンで蜂起せよ!
 まとめと小括

第3章 アイスランド市民憲法の「失敗」と可能性
 第1節 金融危機から新憲法へ
 第2節 憲法改正の包摂性と敵対性
 (1)包摂性
  a.国民会議
  b.憲法議会/評議会
  c.国民投票
 (2)敵対性
  a.政治的文脈に見る敵対性
  b.新憲法草案に見る敵対性
 第3節 議会の「迷走」と憲法改正の「失敗」
 (1)左派連立政権の誕生と憲法改正過程の制度化
 (2)憲法改正をめぐる攻防
 (3)アイスセーブ問題、二〇一三年政権交代、社会民主同盟の変容
 (4)二階の正統性問題
 第4節 「失敗」の後で
 (1) 社会民主同盟内の活動家たち
 (2) 社会運動団体「立憲社会」の役割
 まとめと小括

第4章 市民熟議とアイスランド海賊党の組織化
 第1節 アイスランド海賊党と二つの運動潮流
 (1)国際的な海賊党運動
 (2)ポスト金融危機のアイスランドにおける諸運動
 (3)「海賊党」ではない海賊党――アイスランド海賊党の特殊性
 第2節 アイスランド海賊党の組織化と憲法改正のための市民熟議
 (1)宙吊りにされた新憲法――アイスランド海賊党形成の環境的条件
 (2)集合的アイデンティティの連続性
 第3節 市民熟議と政党はいかに交わるか
 (1)熟議と政党
 (2)「開かれた民主主義」の実相
 まとめと小括

第5章 路上から議会へ――運動政党、アイスランド海賊党の台頭
 第1節 運動政党とは何か
 第2節 運動政党としてのアイスランド海賊党
 (1)水平的組織構造とデジタル技術の活用
 (2)行動レパートリー
 (3)党内対立
 第3節 アイスランド海賊党の台頭
 (1)運動政党の台頭メカニズム
 (2)ポスト金融危機の政党システム再編
 (3)四党制の衰退
 第4節 反腐敗と民主的改革
 (1)ポスト金融危機の諸運動が示した社会課題
 (2)アイスランド海賊党の言説戦略
  a.診断的フレーミング――反腐敗と反エリート
  b.予示的フレーミング――憲法改正
  c.動員的フレーミング――市民の政治参加の強調
 まとめと小括

第6章 政党政治を動かす市民たち
 第1節 「政党なき民主主義」、孤独な社会、台頭するポピュリズム
 第2節 ポピュリズムとは何か――エルネスト・ラクラウを手掛かりに
 第3節 「下から」のポピュリズム――統治の論理を読み解く活動家たちのまなざし
 (1)新自由主義的統治とポスト金融危機のフロンティア
 (2)民主主義というレンズ
 第4節 「市民的有権者」という新たな主体
 (1)合理主義モデルからの脱却に向けて
 (2)制度政治に介入する「市民的有権者」
 まとめと小括

終章 政党民主主義の根源化――ポスト金融危機のラディカル・デモクラシー
 第1節 ラディカル・デモクラシー
 第2節 アイスランド事例分析のまとめ
 第3節 政党民主主義を根源化すること
 (1)政党を再考する
 (2)政党民主主義の根源化に向けて

 あとがき

 参考文献一覧
 索引

前書きなど

序章 危機の時代とアイスランドの民主主義

 危機は既存の政治社会構成を揺るがすものである。イタリアの思想家アントニオ・グラムシの危機についての一節はあまりに有名だ。曰く、「危機はまさしく、古いものが死に、新しいものが生まれることができないという事実にある。この中間的空白期には、さまざまな病的現象が現れてくる」(グラムシ二〇〇一:八三)。
 スペインの哲学者ホセ・オルテガ・イ・ガセットもまた、危機について同じようなことを述べている。それは、「破局的な性質をおびる」ものであり、「さしあたり否定的な―つまり批判的な―変革である。新しい道を考え出さねばならぬが、それがなんであるかがまだ分からない。分かっているのは(あるいは、分かっていると信じているのは)、従来の理念や規範が偽りであり、許容し難いということだけである」(オルテガ一九五四:三三‐三四)。
 危機は不確実性を高めるものであり、混沌としている。しかし、これらの引用において注目すべきは、グラムシもオルテガも危機を過渡的なものとして捉えようとしていることである。「中間的空白期間」「まだ分からない」という言葉には、将来的に訪れるかもしれない何かが示唆されている。すなわち、危機とはまた、次なる何かを構成する契機でもあるのだ。
 本書は、欧州の北の端に浮かぶ島国アイスランド共和国を舞台として、今日の民主主義の動態を捉えようとするものである。アイスランドはしばしば近代的な議会政治が最初に誕生した地であると言われる。八七〇年頃にノルウェーからアイスランドへ植民した人びとは、各地域で選出された代表者が年に一度集い、立法および裁判機能を担う全島集会アルシング(Alþing)を開催した。こうしたアイスランドの政体は、のちに「自由共和国」と呼ばれるようになる。
 二一世紀の今日、アイスランドは民主主義の危機および新たな胎動の震源地として再び注目されつつある。きっかけは、二〇〇八年に起こった世界的な金融危機であった。危機後、アイスランドの市民は街頭へ繰り出した。政府や政治家に抗議し、自分たちで憲法を書き直し、社会の根本的なルール変更を求めた。新たな政党を立ち上げ、政党政治に介入した。本書が描くのは、このような市民の政治参加の歴史である。二〇〇八年以降、経済的危機および政治的危機、それらが引き起こす市民生活の危機が次々と起こった。これらの危機のただなかで、急激に変貌を遂げる民主主義の動態を捉えること、これが本書の目的である。

 (…後略…)

著者プロフィール

塩田 潤  (シオタ ジュン)  (

1991年大阪府生まれ、神戸大学大学院国際協力研究科部局研究員、龍谷大学法学部非常勤講師、法政大学キャリアデザイン学部兼任講師。専門は政治学、政党論および社会運動論。神戸大学大学院国際協力研究科博士課程修了。ピサ高等師範学校社会運動研究所研究留学などを経て現職。主な論文に「市民熟議と政党の組織化――アイスランドにおける憲法改正の失敗とその後」(『年報政治学2022-Ⅱ』)、主な訳書にシャンタル・ムフ『左派ポピュリズムのために』(共訳、明石書店)。

上記内容は本書刊行時のものです。