書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
東アジアと朝鮮戦争七〇年
メディア・思想・日本
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2022年11月10日
- 書店発売日
- 2022年12月2日
- 登録日
- 2022年10月21日
- 最終更新日
- 2022年12月9日
紹介
朝鮮戦争は、朝鮮の戦争ではなかった。米ソによる冷戦構造と毛沢東ら共産党政権として誕生した中国の参戦によって、次第にイデオロギーを巡る戦争へと変貌していく。日本はこの戦争にどう加担したか。東アジアという巨視から眺める七〇年目の朝鮮戦争の論集。
目次
凡例
序章 二一世紀の東アジアにおける朝鮮戦争七〇年の位置付け[崔銀姫]
1 なぜ「東アジアにおける朝鮮戦争七〇年」なのか
「戦後」の裂け目に分け入る/「朝鮮戦争」は「朝鮮の戦争」ではなかった/なぜ「東アジア」なのか
2 「朝鮮戦争」だけではなく「朝鮮戦争七〇年」が問われる
批判的な再検討のために
3 本書の構成
第Ⅰ部 朝鮮戦争と国際動向
第1章[韓国]朝鮮戦争七〇年、民間人犠牲者の治癒と和解――真実・和解のための過去事整理委員会活動を中心に[鄭根埴]
はじめに
1 第一期 真実・和解委員会の設立背景と成果
民間人犠牲の遺産を克服するための努力/真実・和解委員会の活動と成果
2 補償訴訟と被害治癒のための主要勧告
訴訟からの補償/真実・和解委員会の勧告と履行
3 第二期 真実・和解委員会の発足と主要課題
再発足と申請現況/残された課題
4 評価と展望
第2章[北朝鮮]再現された感情と再生産される人民の心――二〇〇〇年代北朝鮮映画の情動政治[金聖敬]
はじめに
1 二〇〇〇年代前後の北朝鮮社会と文学芸術
2 北朝鮮映画の情動政治
3 北朝鮮映画で再現される羞恥心の情動
4 金正恩体制下の北朝鮮映画のゆくえ
第3章[中国]朝鮮戦争における中国共産党の対敵プロパガンダ工作[趙新利]
はじめに
1 中国共産党の捕虜政策
捕虜の釈放/捕虜の優遇と教育/捕虜政策の対敵プロパガンダの意義
2 対敵プロパガンダ
対敵プロパガンダの組織/対敵プロパガンダの主要手段/対敵プロパガンダの主要内容
3 結語
第4章[アメリカ]朝鮮戦争における宣伝ビラ[土屋礼子]
はじめに
1 朝鮮戦争における心理戦の始まり
2 第一期 初期の宣伝ビラ
3 第二期 中国軍参戦と組織改編
4 第三期 休戦会談以降の宣伝ビラ
5 日本人顧問団と北朝鮮のビラ
資料・朝鮮戦争の宣伝ビラ
論点Ⅰ 日本復帰五〇年の沖縄から見た朝鮮戦争[吉本秀子]
第Ⅱ部 朝鮮戦争と日本
第5章[ジャーナリズム]レッドパージと朝鮮戦争をめぐる報道界・記者研究の断章[根津朝彦]
はじめに
1 一九五〇年のレッドパージ
レッドパージの位置付けと前史/報道界のレッドパージ実施/主要紙とNHKの動向/地方紙の場合/講和論争の趨勢
2 レッドパージと解雇者のその後
一〇月の新聞週間と社是/再就職と反対運動の両難/民放への転身/報道界の解雇者の生き方
3 朝鮮戦争期の報道
全体的な特徴/開戦直後/従軍特派記者から休戦協定調印
4 報道界のレッドパージと朝鮮戦争が交差しない意味
第6章[帰国事業]帆足計にとっての朝鮮戦争と北朝鮮「帰国事業」――植民地朝鮮在住経験者と戦後日本社会[東村岳史]
はじめに
1 帆足計と大須事件
大須事件の経緯/帆足に着目する意義
2 帆足計と朝鮮との関わり
帆足の略歴/核兵器誕生後の世界観と朝鮮戦争観/北朝鮮「帰国事業」
3 「保守と革新の日本的構造」としての帆足計
論点Ⅱ 越境する左派的映画人と在日朝鮮人のネットワーク[丁智恵]
第7章[ローカル]軍都・小倉と朝鮮戦争――始まりの十字架と、今なお続く弾薬庫と[真鍋祐子]
はじめに
1 見えがくれする戦争の痕跡
メモリアルクロス/山田弾薬庫/「一九五二年」というターニングポイント
2 戦争と共にあった街で
地図から消された「キャンプ・コクラ」/箝口令/小倉の基地化/RAAとRRセンター
3 軍都・小倉という「対蹠地点」で
人々の移動と「対蹠地点」/ある青年公務員が見た風景/性と生、死が行き交う街
4 終わりなき朝鮮戦争
第8章[イデオロギー]朝鮮戦争と戦後右翼の再編――「基地国家」の現実と体制右翼の登場[南基正]
はじめに
1 敗戦と右翼
2 朝鮮戦争の勃発とGHQのヒアリング
3 右翼と元軍人の追放解除と組織化
4 朝鮮戦争を戦った日韓右翼と日米韓共助
5 戦後体制下の戦後右翼のレゾンデートル
論点Ⅲ 市民社会概念の思想的特質――戦後思想史からの考察[小野寺研太]
第9章[知識人]朝鮮戦争と日本の知識人――中野重治と竹内好を中心に[崔銀姫]
はじめに
1 西欧マルクス主義者の「戦後」の変化
2 先行研究
3 時代背景
朝鮮戦争(一九五〇~一九五三年)/「五〇年問題」とサンフランシスコ講和条約/「国民文学」論争
4 知識人と全体性(Totality)
5 戦後日本の「政治的無意識」への意識
『五勺の酒』(一九四七)・「戦後」の知識人の「疼き」/『朝鮮の細菌戦について』(一九五三)・アジアと日本
6 「鈍感」と「ドレイ」を超えて
資料・番組テンプレート
謝辞
索引事項
著者紹介
前書きなど
序章 二一世紀の東アジアにおける朝鮮戦争七〇年の位置付け
(…前略…)
先行の朝鮮戦争研究と本書では明確に異なる方向性を意識していることを理解してほしい。要するに、本書は、所謂「戦争史」、または「戦争論」ではない。タイトルに「朝鮮戦争」という名を冠する書物であるものの、本書の対象は、朝鮮戦争そのものへの検証や考察ではない。本書は、繰り返しになるが、朝鮮戦争を日本へと置き換える視点で考えているため、本質的な問いにおいて朝鮮戦争そのものが核ではない。先行研究で検討したように、朝鮮戦争そのものに関する(日本からの参戦や参加などの史実も含めて)考察は既になされてきている。重ねていうが、「朝鮮の戦争」という観点は、本書の研究の方向性と異なる。本書は、第二次世界大戦後に起きた朝鮮戦争の開戦から停戦協定の一九五〇年代前後の日本を軸足とし、朝鮮戦争と日本、そして東アジアまでを射程に、歴史社会学的かつ文化政治学的な視点がクロスするような、そういったまなざしの重層性や絡みあい、もしくは反発やずれ、そしてマクロとミクロの複眼といったアプローチで「朝鮮戦争七〇年」を考えるものである。
一方で、本書は、単著ではなく、また執筆者たちの専門領域や各々の研究方法も様々なため、本書の縦糸のような統一された理論的フレームを簡単に決められない難点がある。とはいえ、先述してきたように、本書の方向性は定ままっている。さらに、本書の全体を貫く縦糸のような理論的フレームが全く無いまま本書が編まれたものでもない。そこで、本章の最後に本書を貫いている理論フレームを鳥瞰的な視点から述べるならば、それはジャック・デリダ(Jacques Derrida)の「差異(différence)」と「差延(différance)」が挙げられる。デリダは、「差異(différence)」の「異なる」という意味だけではなく、時間的に「遅らせる、遅延させる」という意味を持つことから、両方の意味を含む名詞として「差延(différance)」を新たな概念として作ったといわれている。本書の場合、「差異」と「差延」のフレームを言及するのは、次のような意味においてである。すなわち、「差異」と「差延」のフレームは、本書の、自己と他者や、敗戦と戦後、混沌と模索、日本と朝鮮戦争、朝鮮戦争と東アジア、そして戦後と和解、といった本書の全てのキーワードを包摂するものであるという点である。そして、「差異」と「差延」のフレームは、二項対立や、二元論とは異なるものとして、決して「対立」や「否定」を意味するものではないことを含意すると共に、他者を他者として受け入れ続けている一つの運動のようなものであるという点も付け加えたい。つまり、本書の第Ⅰ部と第Ⅱ部で設定した各章のテーマ、すなわち、東アジア諸国の動向や、思想とイデオロギー、文化と知識人、メディアとジャーナリズム、実践と帰国事業、記憶とローカル、といった考察が、「異なる」ことや「否定」し続けるためではなく、異なることを認めつつ、異なっていく状況やその状態、そういった変化していく過程、痕跡や記憶などを絶え間なく問い続けるダイナミズムのプロセスとして見出せるためのものとして、その際、「差異」と「差延」のフレームは有効的であると考える。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。