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共生社会のためのことばの教育
自由・幸福・対話・市民性
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2022年10月31日
- 書店発売日
- 2022年10月24日
- 登録日
- 2022年9月21日
- 最終更新日
- 2022年10月31日
紹介
「ことばの教育」の実践を通して、私たちはどのような人間の在り方、またどのような社会の在り方を目指しているのか、という根本的な問題について、言語教育、言語政策、人権/共生論、シティズンシップ教育等、それぞれの立場から考察し、「共生社会」実現のための「ことばの教育」の理論的視座を提示する。
目次
はじめに[稲垣みどり]
第1章 ことばの教育は何をめざすか――共生社会のためのwell-being[細川英雄]
はじめに
1.何のためにことばを学ぶのか――ことばの教育とその分化の問題性
2.戦後の日本語教育の枠組みと展開
3.欧州評議会による言語教育政策から
4.文化観・言語観の変容とことばの教育
5.ことばの教育実践とは何か
6.改めて「言語習得」とは何か――ことばの教育の目的論を問う
7.ことばの市民の教育へ――共生社会のためのWell-beingへ
第2章 「共生社会におけることばの教育」の実践としての「本質観取」[稲垣みどり]
1.はじめに
2.哲学対話としての言語教育における本質観取の実践
3.現象学の原理と本質観取――何のための「対話」か
4.日本語教育は何をめざすか――共生社会のための日本語教育
5.おわりに
第3章 詩人金時鐘と母語の復権――言語をめぐる対立と共生[金泰明]
はじめに――母語か、母国語か
1.「母語」をめぐる対立と共生
2.和解と共存の「言語ゲーム」としての共生
3.母語の復権――言語による「共通了解」と「相互承認」
4.おわりに
第4章 言語権の視点からことばの教育を再考する[杉本篤史]
1.はじめに
2.言語権とはなにか
3.言語権の視点からみた日本の言語政策
4.近年の日本の言語政策の動向
5.あるべき言語教育政策の姿とは
6.おわりに――日本で言語権を保障するために
第5章 学校教育における「共生社会のためのことばの教育」の可能性[森篤嗣]
1.「共生」の受容過程
2.二重の単一言語主義に阻まれる「共生社会のためのことばの教育」
3.国内言語の教育と日本語を母語としない児童生徒
4.国際言語の教育と外国語活動・外国語科
5.国語科教材による「共生社会のためのことばの教育」の可能性
6.教員養成課程に見る「共生社会のためのことばの教育」の可能性
7.まとめ
第6章 共生社会で活かされる「複言語・複文化主義」的発想――現象学の視点から持続可能な対話のことばを探す[山川智子]
1.はじめに
2.一人ひとりの実感が社会を動かす原動力となる
3.「複言語・複文化主義」を現象学的に認識する
4.個人の尊厳を守る持続可能な対話の教育
5.おわりに
第7章 民主的シティズンシップ教育のローカライズを考える――「対話」を積み上げるための「異論」「複数性」「政治性」[名嶋義直]
1.本章で述べたいこと
2.シティズンシップ教育について
3.民主的シティズンシップ教育について
4.ローカライズで目指す教育の形
5.ローカライズを考える(その1)――「異論」に着目する
6.ローカライズを考える(その2)――「複数性」に着目する
7.ローカライズを考える(その3)――「日常の政治性」または「政治の日常性」に着目する
8.「対話」を積み上げる民主的シティズンシップ教育の必要性
9.民主的シティズンシップ教育の実践に向けて
第8章 人・ことば・社会のつながりを考える大学英語教育[オーリ・リチャ]
1.はじめに
2.専門教養としての大学英語教育は何を目指すのか
3.大学英語教育に求められるパラダイムシフト
4.人・ことば・社会のつながりを考える専門教養
5.日本語教育の論点とそこから得られる示唆
6.おわりに
第9章 評価が育てる学生、教師、日本語教育――デザイン力育成を目指した留学生と日本人学生の協働学習を通して[岡本能里子]
1.はじめに
2.なぜ評価の捉え直しが必要か
3.評価をめぐる議論の問題点と求められる視座
4.メディアリテラシー育成を目指したメディア制作協働学習
5.対話を通した多様な評価活動の試み
6.新たな意味や価値を創造するデザイン力育成のための評価枠組みとは
7.「自律した」学習者と教師を育てる評価への視点
8.今後の課題――多様な他者との対話を通した動的な評価を考え続けるために
座談会[稲垣みどり・細川英雄・金泰明・杉本篤史]
日本における言語教育の何が問題で何をめざすべきか
Well-beingという主題を基にした変奏曲
〈外なる共生〉と〈内なる共生〉
何を教えるかの「何を」の部分を変えていく可能性
現実の日本語教育のあり方と共生社会とのギャップ
母語とアイデンティティ――母語は複数あっていい
言語に線を引く境界や枠組みから自由になる方向をめざす「ことばの教育」
日本の中にある単一言語主義とは何か、その背景と理由
対話とおしゃべり――本質観取の活動へ
実践研究の意味
経験とトレーニング
「生きた思想」としての人権
共に生きる社会をつくるためのことばの教育へ――あとがきにかえて[細川英雄]
編著者紹介
前書きなど
はじめに
2019年の4月の入管法の改正、2019年6月には日本語教育推進法の成立、そして2020年のはじめから始まったコロナ禍により、日本語教育の枠組みも中身もかつてないほどダイナミックに変容しつつあります。国境を越えた自由な移動も制限され、日本への留学を望む留学生も日本に入国できない状態が長く続き、2年あまりの間、授業もオンライン授業中心となりました。2022年8月現在、ようやく国境間の移動が再開され、大学やその他の教育機関での対面授業も再開されましたが、コロナ禍はまだまだとても収束したとはいえない状況です。日本在住の外国人労働者も含め、多くの人たちがコロナ禍によって職を失い、生活が困窮しています。このような先の見えない昨今の状況の中で、日本語を母語としない人々に、日本語を「どのように」教えたらよいのでしょうか。また、「何のために」日本語を教えるのでしょうか。このような日本語教育の問題から、本書は出発しました。日本語教育の問題を考えるに先立ち、そもそも人に「ことばを教える」ということはどういうことなのか、という根本的な問題を、いま一度深く問い直す必要があると私たち(執筆者たち)は考えています。「ことばの教育は何を目指すか」の問いは、つまるところ、「ことばの教育」の実践を通して、私たちはどのような人間の在り方、またどのような社会の在り方を目指しているのか、という問いにつながります。そのような人と社会の在り方を問う本質的な議論を展開したい、今こそそのような議論が必要だ、という熱い思いから、この本は生まれました。どのような社会を目指して、またどのような人間の在り方を目指して、私たちは「ことばの教育」を実践するべきなのでしょうか。本書では、言語教育の研究者だけでなく、共生論/人権論の専門家、憲法学/言語権の研究者との共同執筆により、「ことばの教育」とはどのような社会を目指して誰のために行われるどのような営みなのかという、ことばの教育をめぐる本質的な議論を「共生社会のためのことばの教育」というテーマのもとに展開します。本書は「ことばの教育」が目指すべき社会の在り方を「共生社会」とおきました。さまざまな価値観と背景を持つ人々が、対立や分断を乗り越えて共に生きる社会の実現のための「ことばの教育」は、いかに可能か。本書のテーマはここにあります。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。