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ジェンダーで読み解く北海道社会
大地から未来を切り拓く女性たち
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2022年10月28日
- 書店発売日
- 2022年10月14日
- 登録日
- 2022年9月21日
- 最終更新日
- 2022年10月31日
紹介
世界の中できわめて深刻な日本のジェンダー・ギャップ。開拓以来の歴史が短く、広大な地域をもち、経済的に豊かとは言えない北海道という地域に焦点を当て、女性研究者たちがこの地域の女性たちの生を掘り下げ、それぞれの専門的立場から分析していく。
目次
はじめに[岡田久美子]
第Ⅰ部 北海道から男女平等を求めて
第1章 北海道の民俗としてのジェンダー関係における「姉の力」考[林美枝子]
1 「妹の力」と民俗としてのジェンダー
2 北海道における四つの民俗事例の概要
3 「姉の力」の考察
4 妻・母たちによる「姉の力」
5 擬制的男女関係のジェンダーについて
6 おわりに
第Ⅱ部 北海道に生きる女性のライフヒストリー
第2章 地域に暮らした女性たち――定山渓温泉と芸者文化[妙木忍]
1 団体旅行の成立と芸者文化の隆盛
2 定山渓温泉における芸者文化
3 置屋「清元」と「一平会館」
4 芸者さんのライフヒストリー
5 コミュニティにおける芸者さん
6 暮らしを歴史に位置づけるという営み
コラム1 「芸妓連名簿」を読む
コラム2 勤続した場合の表彰制度
コラム3 ホテル従業員さんと芸者さんの協働
第3章 女性教員のキャリアと性別職務分離のメカニズム――北海道の小学校に勤務する女性教員へのインタビューから[高島裕美]
1 学校教育における「女性活躍」を阻むものとはなにか
2 北海道の女性教員をとりまく学校教育の概況
3 北海道の女性教員へのインタビューの分析
4 女性教員のライフコースからみた性別職務分離構造のメカニズム――キャリアにおける「配慮」と「難しい仕事」へのチャレンジが意味するもの
5 学校教育における女性活躍への課題
第4章 ある母と娘の就業経歴にみる女性モデル――職業移動と適応のプロセス[加藤喜久子]
1 職業経歴をめぐる女性モデルと男性モデル
2 調査対象
3 R子の就業経歴を辿る
4 R子の職業への適応プロセス
5 M子の就業経歴を辿る
6 M子の職業への適応プロセス
7 働き方の女性モデル
8 ディーセント・ワークを求めて
第Ⅲ部 北海道における女性支援体制
第5章 北海道の都市部における少子化・子育て問題と地域子育て支援の取り組み――札幌市と千歳市の事例にみる現状と課題[工藤遥]
1 目的
2 北海道における少子化・人口減少とその地域差
3 北海道における家族構造と子育て問題
4 すべての子ども・子育て家庭を対象とした地域子育て支援
5 札幌市――官民による地域子育て支援の取り組み
6 千歳市――「日本版ネウボラ」の先行導入事例
7 北海道の都市部における子育て支援の現状と課題
コラム4 フィンランドのネウボラと日本の子育て世代包括支援センター
第6章 母子生活支援施設の役割と課題――北海道の母子生活支援施設における調査より[吉中季子]
1 母子生活支援施設の変遷と背景
2 女性の貧困・住居喪失と母子生活支援施設
3 北海道内の施設の実態と利用者のニーズ
4 利用者のニーズから見えてきたこと
5 今日的意義と今後の課題
第Ⅳ部 北海道から旧弊を打ち破る
第7章 堕胎の刑事規制と優生思想[岡田久美子]
1 問題の所在
2 優生保護法
3 北海道における法の運用
4 人工妊娠中絶と堕胎罪をめぐる議論
5 北海道からの問いかけ
コラム5 リプロダクティブ・ライツ
第8章 当事者参画によるGBV(ジェンダーベイスト・バイオレンス)根絶施策の展開――北海道モデル[近藤恵子]
1 痛みを力に――当事者が切り拓いた暴力根絶の道筋
2 官民・地域・国境を越えてつながる暴力根絶の支援ネットワーク
3 北海道の先駆的取り組み
4 女性が直面する困難と暴力根絶への課題
5 新たな女性支援の枠組み、法整備に向けて
コラム6 ジェンダーベイスト・バイオレンス
索引
おわりに[加藤喜久子]
執筆者紹介
前書きなど
はじめに
世界経済フォーラムが発表する「ジェンダー・ギャップ指数2022」において、日本は146か国中116位と低迷を続けている。政治分野がとりわけ低順位(139位)であり、その中でも国会議員の女性割合は133位である。昨年よりも順位を下げた経済分野(121位)においては、管理職についている男女の差が130位である。経済分野における女性の貧困は深刻であるし、あらゆる人に均等機会が与えられているように見える教育分野でも、ジェンダー格差はある。
2020年から2021年にかけ、世界にはウイルス感染症COVID-19が蔓延し、日本においても相次いで緊急事態宣言が出され、不要不急の外出自粛、テレワークの推進、遊興施設の休業、飲食店の営業時間短縮などが要請された。これらの影響はあらゆる人に及ぶであろうが、社会の危機は、周縁化された者たちに最も強く影響を与える。
非正規で雇用される労働者が職を失う、日常的に家事・育児の多くを担う者の負担が増大する、ステイホームする同居人から暴力をふるわれる、経済的に苦しいひとり親が子どもを預けられず仕事に出られないなど、多くの問題がこの間に発生した。これら問題に曝される者の多くは女性であり、各分野におけるジェンダー・ギャップが投影されてきている。
危機において色濃く現れ問題を投げかけるジェンダー・ギャップをめぐり、本書では、北海道という地域に焦点を当て、これまで北海道に居住したことのある女性研究者らが、それぞれの専門的立場から分析していく。北海道は、開拓以来の歴史が短く、隣接県をもたず、179の市町村を抱える広大な地域である。公務員の年収を例にとるならば、北海道に住まう人々は経済的に豊かとはいえないであろう。東洋経済オンラインが2021年9月に発表した「公務員の年収が高い自治体ランキング500」によると、北海道の自治体の最上位は184位であり、300位以内に位置するのは3自治体である。これに対して「公務員の年収が低い自治体ランキング500」をみると、全国8位に北海道の自治体が位置し、上位100位以内に12自治体が入っている。
この北海道という独特な地域に住まう女性たちが、いかなる生を生きてきたのか。ジェンダー・ギャップからくる問題に直面するとき、問題の様相になんらかの特徴はあるのか。どのような公共的対応がなされているか。この地域から全国に向かって発信できるものがあるか。これらを、北海道ジェンダー研究会(旧札幌女性問題研究会)が『北海道社会とジェンダー─労働・教育・福祉・DV・セクハラの現実を問う』(2013年、明石書店)の第2弾である本書において、提示していく。
(…中略…)
未開拓の大地に入植して命をつないだ女性たちの記録、一つの文化の隆盛期を支えた女性たちや職業をもち続けた女性たちの語りから、北海道での女性たちの生き様と求められるものが読者に伝わってほしい。子育てする親のニーズと支援の仕組みについては、読者に共に考えてほしい。優生保護の措置や暴力によって蔑ろにされた当事者の意思を、今を生きる人の声として聞いてほしい。あらゆる人々が共に生きる未来を描くために、本書が役立つことができれば、執筆者一同、この上ない喜びである。
上記内容は本書刊行時のものです。