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核と被爆者の国際政治学 佐藤 史郎(著) - 明石書店
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核と被爆者の国際政治学 (カクトヒバクシャノコクサイセイジガク) 核兵器の非人道性と安全保障のはざまで (カクヘイキノヒジンドウセイトアンゼンホショウノハザマデ)

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発行:明石書店
四六判
208ページ
並製
価格 2,500円+税
ISBN
978-4-7503-5425-5   COPY
ISBN 13
9784750354255   COPY
ISBN 10h
4-7503-5425-2   COPY
ISBN 10
4750354252   COPY
出版者記号
7503   COPY
Cコード
C0036  
0:一般 0:単行本 36:社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2022年6月25日
書店発売日
登録日
2022年6月9日
最終更新日
2022年8月17日
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紹介

核兵器の使用を思い止まらせるものとはいったい何か。ヒロシマ・ナガサキを語る被爆者の声は、核をめぐる政治と倫理に影響を与えているのか。核による威嚇が何度も行われ、実戦使用の不安も高まる今こそ「現実」を問う。著者初の単著。

目次

序章
 一 本書の問い
 二 本書の立場
 三 先行研究における本書の位置づけ
 四 用語の確認
 五 本書の構成

第Ⅰ部 核兵器の使用をめぐる政治と倫理

第一章 国際政治と倫理
 一 国際政治と倫理
 二 国際政治における倫理の余地

第二章 正戦論・義務論・帰結主義
 一 正戦論
 二 義務論と帰結主義
 三 意味合い
 四 一九八〇年代における研究の成果と課題

第Ⅱ部 「語る」被爆者

第三章 禁忌論
 一 核兵器不使用というパズル
 二 核禁忌
 三 核禁忌に対する批判的見解
 四 被爆者の声がもつ国際政治上の意義

第四章 アポリア論
 一 被爆者の声がもつ国際政治上の課題
 二 核兵器の非人道性をめぐるアポリア
 三 アポリア解消の道

第Ⅲ部 「語る」被爆者と「語らない/語れない」被爆者

第五章 多様性
 一 国際社会で「語る」被爆者
 二 日本社会で「語る」被爆者への影響
 三 日本社会で「語らない/語れない」被爆者への影響
 四 意味合い

第六章 時間性
 一 未来志向型と過去志向型の回帰的時間
 二 未来志向型の回帰的時間に生きる被爆者
 三 過去志向型の回帰的時間に生きる被爆者
 四 核兵器の非人道性の語りを記憶・継承するために

終章
 一 各章の要点
 二 本書の課題

 あとがき

 参考文献
 索引

前書きなど

序章

 一 本書の問い

 (…前略…)

 冷戦後、米ソ超大国の対立を発端とする核戦争の危険性が低下することで、核兵器の軍縮・不拡散措置の重要性が語られるなか、核戦略をめぐる思索の停滞という「核の忘却」の時代を迎えた。しかし現在、核兵器をめぐる国際政治状況が深刻化しており、再び核戦略論の議論が活発になっている。いまは「核の忘却」から「核の復権」という時代に突入している、との重要な指摘(秋山・高橋 二〇一九)があるくらいだ。
 これらの現実は、被爆者の声が国際社会のなかで響いていないということを意味しているのだろうか。また、この現実のなかで、核兵器の廃絶を目指すことは理想なのであろうか。
 だが、私たちはもう一つの現実を見落としてはならない。国際社会で核兵器の非人道性を語ることは、決して無意味な行動ではない。その最たる例として、二〇一七年九月に署名のために開放され、二〇二一年一月に発効した核兵器禁止条約(Treaty on the Prohibition of NuclearWeapons: TPNW)があげられよう。二〇二二年三月現在、この条約には八六カ国・地域が署名し、六〇カ国・地域が批准している。核兵器禁止条約は、核兵器の使用が「破壊的で非人道的な結末」(前文二項)をもたらすという認識のもと、「核兵器の使用による被害者(被爆者)」の「容認し難い苦しみ及び害」(前文六項)に留意して、核兵器の開発、実験、製造、取得、移譲、使用、使用の威嚇などを禁止している。すなわち、被爆者による語りは、核兵器の非人道性という認識を国際社会のなかで高めることで、核兵器禁止条約の成立に大きく貢献したと考えられるのだ。
 ただし、核兵器を保有する国や「核の傘(nuclear umbrella)」に自国の安全保障を依存する国は、批准はもとより、署名すらしていない。これもまた、現実である。たとえば、米国、ロシア、英国、フランス、中国の五カ国は、安全保障の問題を考慮していない核兵器禁止条約が、核兵器不拡散条約(Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons: NPT)を軸とする核不拡散体制を脅かすとともに、将来のNPT再検討会議におけるコンセンサスの決定に否定的な影響を与えうる、と批判している(U.S. Department of State 2016)。
 このように、いくつかの相反する現実があるなかで、あらためて問いかけたい。被爆者による核兵器の非人道性の語りには、国際政治において、どのような意義(プラスの影響)と課題(マイナスの影響)があるのだろうか。
 この問いを受けて、ともかくも「意義があるだろう」と思った人にまずたずねてみたい。それは、どのような意義なのであろうか。逆に、被爆者が核兵器の非人道性を国際社会で語ることで、何か課題は生じないのであろうか。また、自国の安全保障のために、国家が核兵器を必要としているという現実について、どのように考えればいいのだろうか。何より、核兵器を廃絶すれば、核兵器をめぐる安全保障の問題は解決するといえるのであろうか。
 つぎに、「意義はないだろう」と思った人に対して、たずねてみよう。なぜ、意義はないのだろうか。また、意義がないと考えることで、何か問題が起こらないのだろうか。そして、核兵器禁止条約の成立において、核兵器の非人道性の語りが重要な役割を果たしたという現実について、どのように考えればいいのだろうか。さらに問うとすれば、核兵器の廃絶は決して叶うことのない理想なのであろうか。何より、核兵器を保持すれば、核兵器をめぐる安全保障の問題は解決するのであろうか。
 本書は、①被爆者による核兵器の非人道性の語りの意義と課題とは何か、②その課題を克服するためには、どうすればいいのか、③そもそも、意義と課題があること自体、それはいったい、何を意味しているのか、を検討するものである。

著者プロフィール

佐藤 史郎  (サトウ シロウ)  (

1975年大阪府生まれ。東京農業大学生物産業学部教授。
立命館大学大学院国際関係研究科博士後期課程修了。博士(国際関係学)。
龍谷大学アフラシア平和開発研究センター博士研究員,京都大学東南アジア研究所グローバルCOE特定研究員,大阪国際大学国際教養学部准教授を経て現職。この間,ライデン大学地域研究研究所(LIAS)客員研究員などを歴任。
〔専攻〕
国際関係論,安全保障論,平和研究。
〔主な研究業績〕
『E・H・カーを読む』(共編著,ナカニシヤ出版,2022年)
『現代アジアをつかむ』(共編著,明石書店,2022年)
『安全保障の位相角』(共編著,法律文化社,2018年)
『日本外交の論点』(共編著,法律文化社,2018年)

上記内容は本書刊行時のものです。