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自民党の女性認識
「イエ中心主義」の政治指向
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2022年7月7日
- 書店発売日
- 2022年6月24日
- 登録日
- 2022年5月24日
- 最終更新日
- 2022年7月1日
書評掲載情報
2022-11-12 |
東京新聞/中日新聞
朝刊 評者: 森永卓郎(経済アナリスト) |
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紹介
自民党は長らく、女性を従属的な「わきまえる」存在と見なし、「イエ中心主義」の政治指向を形成してきた。戦後の保守再生の流れの中で、そうした女性認識はいかに形作られ、戦略的に再生産されてきたのか。国会に女性が増えない原因を解き明かす画期的試み。
目次
序章
1 社会の女性への眼差しを問題視しない「女性が輝く社会」
2 「わきまえる」が意味する「従属的」女性認識――「イエ中心主義」の政治指向
3 なぜ「女性に対する認識」が障害になるのか
4 「政治分野における男女共同参画推進法」が施行されても……
5 自民党の政治指向に焦点を当てる意味――サブカルチャーとしての政治文化
6 本書の構成
Ⅰ 女性認識の形成と再生産――自民党の政治指向をめぐって
第1章 女性議員数の推移と概観
1 戦後初の衆議院議員選挙から減少が続く
2 躍進の九〇年代
3 女性性の利用――「クリーン」と「革新」
4 「おたかさんブーム」――女性性の戦略利用
5 「小泉チルドレン」――改革派のイメージと風頼み
6 「小沢チルドレン」と「小沢ガールズ」
第2章 自民党の政治指向「イエ中心主義」
1 「イエ中心主義」が貫く政治指向
2 「イエ中心主義」――強いイエ意識
3 近代化への批判――近代化を超える「現代化」の模索
まとめ
第3章 家族イデオロギーの形成と日本型福祉社会
1 「日本の自殺」にみる近代化への批判と母性の喪失
2 高度経済成長と福祉への視線
3 田中角栄と「福祉元年」――自民党支持基盤の強化と瓦解
4 日本型福祉社会論の登場――「生涯設計計画――日本型福祉社会のビジョン」
5 大平正芳から中曽根康弘へ――つながれる家族観と日本型福祉社会
6 日本型福祉社会――家庭や個人による安全保障システム
7 中曽根内閣の行革と日本型福祉社会
まとめ
第4章 日本型多元主義による「イエ集団」としての政党
1 日本型多元主義とは何か
2 「腐敗の研究」による戦後保守の終焉宣言と総裁公選制
3 日本型多元主義の台頭と自民党長期政権
4 日本型多元主義に含まれない女性――組織化されない女性たち
まとめ
第5章 政治指向の象徴としての血縁継承
1 「イエ中心主義」の議席継承
2 血縁継承の定義
3 自民党議員全体に占める血縁継承
4 血縁継承と女性当選者
5 血縁継承と個人後援会
まとめ
Ⅱ 自民党議員のキャリアパス分析――候補者選定の傾向について
第6章 「イエ中心主義」の議員選定
1 自民党を構成している議員たち
2 四大供給グループにおける血縁継承者
第7章 医療関係出身者のキャリアパス
1 女性医療関係出身者はバックに広域組織
2 医療関係者のキャリアパス
3 男性医療関係出身者の場合はエリート集団のキャリアパス
第8章 教育関係出身者のキャリアパス
1 政治家をゴールにした女性教育関係出身者
2 女性教育関係出身者のキャリアパス
3 男性教育関係出身者のキャリアパス
第9章 メディア出身者のキャリアパス
1 知名度キャリアとしてのメディア
2 男性メディア関係出身者のキャリアパスと傾向
第10章 民間企業出身者のキャリアパス
1 女性民間企業出身者のキャリアパス
2 男性民間企業出身者のキャリアパス
第11章 地方議会から国政へのキャリアパス
1 地方議会出身者――男女格差
2 県議会議員からたたきあげ――坂本哲志議員のキャリアパス
3 地方議会経験者に占める血縁継承と女性地方議会出身者のキャリアパス
まとめ
第12章 地方議会と女性議員
1 そもそも地方議会に女性が少ない
2 根強い役割分業意識――まずは妻・母・嫁であることの負担
まとめ
終章
1 「政党は大きなイエ」
2 「家庭長」と「イエ中心主義」
3 女性個人の認識の放置
4 「イエ中心主義」の候補者選定と縁という「間柄」主義
5 選挙は「自己責任」と候補者選定の四つの基準
6 公募と女性性の封印
7 「風」とチルドレン――女性性の利用
8 自民党の女性議員――同化と従属
9 「二四時間政治にコミット」する必要のない政治環境
10 「従属」や「同化」を超えて――女性が個人として認識される政治へ
註
日本型福祉社会と日本型多元主義をめぐる主な論評や出来事一覧
あとがき
人名索引
事項索引
前書きなど
序章
(…前略…)
6 本書の構成
本書は二部から構成されている。第Ⅰ部では、どのように、「イエ中心主義」の女性認識が自民党の政治指向として形成され、再生産されてきたかを明らかにする。第Ⅱ部では、実際の自民党議員のキャリアパスを独自に調査・分析することにより、どのようなキャリアパスを持った人物が選ばれてきたか、自民党の候補者選定の傾向を明らかにしていく。つまり実際の候補者選択の傾向が、第Ⅰ部で分析する自民党の政治指向を反映していることが明らかになれば、戦後に形成・再生産されてきた政治指向、とりわけ女性認識が今日まで変わっていないことが裏付けられるからである。
政治指向分析では、自民党の「イエ中心主義」が再生産されていく過程を戦後の自民党の保守再生の道筋と重ねて明らかにしていく。女性をイエに従属する存在としての認識の再生産は、即ち戦前の伝統的価値観の再評価に伴う女性認識の再生産であり、自民党が保守政党として再生するための政治的かつ戦略的な選択の結果である。
またキャリアパス分析の過程では、他政党に比べて群を抜いて多い世襲議員(男女共に)が「イエ中心主義」の候補者選定基準を裏付けている。本書では、いわゆる世襲議員について、親から子への直系の地盤・後援会の継承だけではなく、広く夫の弔い候補や、親族に政治家(地方議員も含む)が存在している「環境世襲」も世襲とし、「血縁継承」という表現にすべてを包括している。なぜ「血縁継承」としたかについては第5章「自民党「イエ中心主義」の政治指向」の「血縁継承」の節において詳述している。
興味深いのは、「イエ中心主義」の表出は血縁継承議員に限らないことである。例えば地元の名士のイエに連なる、地元の資産家のイエに連なるなど、イエへの評価が候補者選定に大きく関わることもキャリアパス分析から得られた重要な知見である。つまり、「イエ中心主義」の政治指向は、女性を常にイエに従属する存在として認識形成をし、ゆえに女性が候補者として選定される機会を減退させるのみならず、男性候補にも「イエ中心」の評価の偏向を生じさせているが、この偏向はより女性候補に色濃く反映されているのである。
いささか乱暴な表現をお許し願えれば、「志しがあっても、自己資金も知名度も、一定の支援者もいない、ましてや自民党にコネクションもない普通の女性」は自民党の候補者になり難いのが現実である。
「イエ中心主義」の政治指向に基づく候補者選定は、女性が選挙においてその入り口に立つことすらが容易ではない状況を生み出す。「日本型政治文化」を主導的に形成してきた自民党の「イエ中心主義」の政治指向が、女性の過少代表を招く一因になっていることは本書をお読みいただければ、明解にお分かりいただけよう。
上記内容は本書刊行時のものです。