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東アジア都市の社会開発
貧困・分断・排除に立ち向かう包摂型政策と実践
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2022年3月25日
- 書店発売日
- 2022年3月14日
- 登録日
- 2022年2月2日
- 最終更新日
- 2022年4月5日
紹介
東アジア各国の都市の貧困・社会的排除に立ち向かう地域実践の仕組みを、「社会開発(Social Development)」という文脈から比較検討し、社会的不利を被りがちな地域や人に対する社会開発の東アジアモデルの導出に資することを目指す。
目次
はじめに
第1章 東アジアにおける社会的投資とアセット形成型社会開発アプローチ
1.はじめに
2.新たな政策パラダイムとしての社会的投資論
3.社会開発論の展開
4.アセット形成型社会開発の実践
5.おわりに
第2章 公害問題から検討する「社会開発」
1.はじめに
2.公害病と差別
3.社会開発の特徴
4.社会開発にとっての積極的差別是正
第3章 パートナーシップによる社会開発の推進――SDGsの歴史的背景を踏まえた国内実施に求められる視点
1.SDGsの背景
2.国連の「社会開発」への指向の系譜
3.「社会開発」の手法としてのパートナーシップ
4.SDGsの国内実施の現状と課題
第4章 韓国におけるホームレス問題と寄せ場型地域の社会開発実践――チョッパン地域における住民協同会活動を中心に
1.はじめに
2.社会開発アプローチ
3.韓国におけるホームレスの定義
4.行政によるホームレス支援施策
5.チョッパン地域に対する行政施策
6.チョッパンとチョッパン居住者
7.チョッパン密集地域の成り立ち
8.チョッパン地域における地域独自の社会開発実践
9.おわりに
第5章 ソウルと大阪における移住者の社会開発と地域コミュニティ――カトリック大阪大司教区社会活動センターシナピス
1.はじめに
2.取り残されていく国際結婚移住女性
3.シナピスの難民移住者
4.おわりに
第6章 日韓の生活困窮者支援比較――地域福祉施策の観点から
1.はじめに
2.背景
3.生活困窮者への就労支援
4.韓国における生活困窮者支援
5.本人の状況に合わせた就労支援
6.両国に求められるこれからの生活困窮者支援――地域福祉の観点から
第7章 城中村改造と包摂型住宅政策の実現
1.はじめに
2.社会的排除空間としての城中村
3.第二次住宅制度改革と都市更新時代
4.城中村の総合整備と包摂型住宅政策の実現
5.結び
第8章 香港における社会的弱者向けのソーシャルインフラストラクチャーの都市地理的発展背景
1.はじめに
2.工業都市の香港――労働人口の管理からみて
3.グローバル金融都市としての香港――インナーシティ地域に着目して
4.結論
第9章 社会的不利地域における福祉のまちづくりを支えるフードバンクの仕組み――台北市南機場団地における「南機場フードバンク」の事例から
1.フードバンクに関する取り組み
2.社会的不利地域としての台北市南機場団地
3.南機場団地における主なコミュニティ施設としてのフードバンク
4.福祉のまちづくりを支える南機場フードバンクの実態に対する評価
5.結びに――社会的不利地域におけるフードバンクが果たす役割
第10章 台湾における外国にルーツを持つ子どもの支援
1.はじめに
2.台湾における外国にルーツを持つ子ども
3.新住民に対する政府による政策とその支援体制
4.地方自治体による日常生活の課題に対する支援
5.おわりに
【コラム1】浅香地区における隣保事業の再構築に向けた実践
【コラム2】釜ヶ崎の居住支援活動と社会開発実践
【コラム3】横浜の寿町の居住者支援組織と社会開発実践
【コラム4】変容する東京山谷における居住支援組織と社会開発実践
おわりに
索引
前書きなど
はじめに
(…前略…)
本書を貫く共通の関心は、パンデミック下にある東アジア諸国の社会開発である。これまで様々な研究書を通して取り上げられた通り、東アジア諸国は儒教という共通の規範を背景に、個よりも集団の重視、公的福祉への抵抗感、つまり福祉の担い手を家族に求めるという意味での家族の重視、西欧的アプローチへの抵抗、そして経済的配慮の優先等の特徴を持つ。このような共通性を持つ東アジア諸国の福祉レジームを表す概念として、日本をはじめ、香港、シンガポール、韓国、台湾について、「生産主義的福祉資本主義(Productivist Welfare Capitalism、以下、PWC)」と論ずる研究もある(Holliday 2000,Mason M.S.Kim 2016=2019)。これらの国や地域では、社会政策が経済成長に圧倒的に、また明示的に従属しており、福祉を向上させる最善のルートとして、「経済第一主義」と成長および完全雇用に力点が置かれてきた。福祉は経済的目標に従属し、よりいっそうの経済発展を達成するために利用される。つまり、福祉は経済発展を支援するものであって、阻害するものとはみなされない。これは、政府の財政支出において社会保障分野より、経済開発や教育分野に、より多くの支出を行っていることからも説明できる。
(…中略…)
2000年代以降、東アジア各地では、新たな貧困問題の拡大を背景に、「社会的排除」という概念への関心が高まっている。しかしそのほとんどは、個人や世帯への不利や剥奪等に偏っている傾向があるように思われる。一方、このような新たな貧困概念が、個人や世帯を介して地域への影響として現れる場合や、社会的排除にかかわる、地域による負の影響も注目されるようになっている。これらの一連の関連性について、都市や地域における不利益の集中に焦点を当てたものが多い。とりわけ、社会的排除のダイナミックな特性においては地域の役割が最も大きな関心を集め、中でも都市における社会的排除にかんして、特定の地域への剥奪の集中が問題として指摘されている。社会的排除は、人々が完全なる市民として享有できるような利益から次第に閉ざされていくダイナミックな「プロセス」に関連して使われており、剥奪が集中している地域の居住者は、最も市民的権利から排除される結果に陥ることが指摘されている。その意味で社会的排除は不利益を被る世帯の地域的な集中による問題と、社会参加への制約や社会からの孤立等、その地域に居住することによってもたらされる様々な不利益の影響にかんする問題を伴う。近年の東アジア諸国においても同様の問題への関心が高まっている中、それらの実践的解決に向けた模索に導くためにも、比較研究の必要性は高い。
本書では、都市内の特定の地域が貧困や排除に陥りやすい、負の地域効果による影響を、各国の代表的な地域の現状に加え、それに立ち向かうための地域実践の仕組みを社会開発(Social Development)という文脈から比較検討し、社会的不利を被りがちな地域や人に対する社会開発の東アジアモデルの導出に資することを目指している。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。