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増補 異文化接触における文化的アイデンティティのゆらぎ
外国語指導助手(ALT)のJETプログラムでの学校体験および帰国後のキャリア
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2022年1月30日
- 書店発売日
- 2022年1月28日
- 登録日
- 2021年11月15日
- 最終更新日
- 2022年2月17日
紹介
文化間を移動する個人がどのように文化的アイデンティティを作り、キャリアを進めるか。「外国語指導助手」を手がかりに、個人のミクロな営み(アイデンティティの位置取りプロセス)が、学校環境や制度、歴史といったマクロの次元とどう関係しているのかを、フィールドワークによって解き明かす。増補新版。
目次
増補版へのまえがき
序章 日本の文教政策より生まれた「外国語指導助手」
第1章 文化的アイデンティティ研究への視座
第1節 先行研究の検討――異文化体験を中心に
第2節 本研究の理論枠組みと課題
第3節 研究方法論と本論文の構成
第2章 語学指導などを行う外国青年招致事業(JETプログラム)――本研究の背景
第1節 JETプログラム導入の歴史と拡大
第2節 JETプログラムを取り囲む東洋と西洋の表象
第3章 対人場面と教育場面における位置取り――本国でマイノリティであった外国語指導助手
第1節 メキシコ系アメリカ人の事例
第2節 アフリカ系アメリカ人の事例
第3節 アジア系アメリカ人の事例
第4節 否定的情動と位置取り――考察
第4章 対人場面と教育場面における位置取りの縦断的変化――本国でマジョリティであった外国語指導助手
第1節 位置取りのパターン
第2節 ジェームスの事例(滞在年数2年)
第3節 ピーターの事例(滞在年数2年)
第4節 エマの事例(滞在年数1年)
第5節 位置取りにおける情動緩和のメカニズム――考察
第5章 自己効力感と位置取り――授業での日本人英語教師と外国語指導助手の関係性に注目して
第1節 ティームティーチングのパターンと外国語指導助手の自己効力感
第2節 日本人英語教師と外国語指導助手間の関係性――ビデオ分析
第3節 日本人英語教師のもつ外国語指導助手表象
第4節 外国語指導助手の教育スキル――その自己効力感と位置取り
第5節 自己効力感と位置取り――考察
第6章 自己効力感の背景としての学校環境
第1節 生徒の授業参加態度と自己効力感
第2節 外国語指導助手に必要とされる教育スキルと自己効力感
第3節 生徒の授業参加と自己効力感――考察
第7章 位置取りへのマクロ次元の影響――自己効力感を中心に
第1節 自己効力感と個人要因、および環境要因――量的分析
第2節 外国語指導助手と日本人英語教師の親密性――自己効力感との関係
第3節 学校訪問形式とALTの自己効力感
第4節 日本の学校の管理体制とALTの自己効力感
第5節 外国語指導助手の位置取りとJETプログラム
第6節 自己効力感と位置取りに影響する個人・環境要因――考察
終章 新しい文化的アイデンティティ理論の生成――位置取りのゆらぎのメカニズム
第1節 位置取りにおける主体と環境の相互作用――研究のまとめ
第2節 位置取りのメカニズムについての理論生成
第3節 本研究の意義
第4節 本研究の限界と今後の研究
附章 JETプログラムのインパクト
第1節 国際移動としてのJETプログラム――研究の位置づけと理論的背景
第2節 JETプログラム経験者とJET同窓会
第3節 研究方法
第4節 元ALTの帰国後のキャリア
第5節 自己の再編――事例の提示
第6節 帰国後の自己再編――理論化に向けて
第7節 JETプログラムの評価と提言
引用文献
資料
資料1 外国語指導助手への面接時アンケート(面接冒頭でALTに記入依頼)
資料2 外国語指導助手への面接スケジュール
資料3 日本人英語教師への面接時アンケート(面接冒頭でJTEに記入依頼)
資料4 日本人英語教師への面接スケジュール
資料5 生徒へのアンケート
資料6 「生徒の積極性に関わるその他の学校要因」に関する補足的結果
資料7-1 元外国語指導助手へのインタビュー依頼
資料7-2 元外国語指導助手への調査協力承諾書
資料7-3 元外国語指導助手への面接スケジュール
増補版へのあとがき
索引
前書きなど
増補版へのまえがき
日本で外国人労働者をどのように受け入れ、共生社会を作っていくのかは、移民政策の課題である。国際移住機関(IOM)は、移民本人の法的地位や移動の自発性、理由、滞在期間にかかわらず、「本来の居住地を離れて、国境を越えるか、一国内で移動している、または移動したあらゆる人」と定義している。しかし、日本政府では、高度人材や技術的分野の外国人以外を積極的に入れないという方針で、移民受け入れ賛成派との軋轢が続いている。
「語学指導を行う外国青年招致事業」(The Japan Exchange and Teaching Programme,以下JETプログラム)は、大学卒業をした若い青年を対象とした政府主導インターンシップである。彼らは、日本の公立学校で英語教員の助手(ALT)として5年限度で働くことになる。英語教育においては、文法・読解中心からコミュニケーション中心への展開のニーズを背景に、中曽根首相時代の1987年に英語教育の改善と国際交流を目的として導入され、すでに30年以上が経過した。JETプログラム参加者として、日本に1年から5年滞在した人は、累計で約70,000人になる(CLAIR,2021b)。英語教育への貢献度については制度的な限界や問題が指摘されているが(Galloway,2009)一方で、青年達に日本を知ってもらう親日派育成政策としては成功しているともいわれる。
拙著『異文化接触における文化的アイデンティティのゆらぎ』初版(博士論文を2006年に出版)では、外国人青年の感じた「外国語指導助手」(Assistant Language Teacher,以下ALT)の責務のあいまいさへの戸惑いや限界感、日本の学校教育の官僚的な環境、そこで働く日本人教員の多忙な労働環境に対する様々な思い、本人達の働きかけや努力、文化的アイデンティティのゆらぎを描き出した。学校現場での観察、ALTや日本人教師への聞き取りなど、フィールドワークの手法を用いて、日本の学校環境やJTEや生徒との人間関係の中でのALTの心理を描いた。
しかし、ALTの日本での経験は、彼らのその後のキャリアや人生にどのような意味をもったのだろうか。日本にとってはどのような意味をもつのだろうか。増補版では、2018~2019年在外研究中にイギリスで行った元ALTへの聞きとり調査に基づき、帰国後にどのように自己を再編したかを論じるとともに、JETプログラムの課題と意義について述べる。
増補版を出すもう1つの理由は、フィールドワークをはじめ質的研究による研究の数が近年劇的に伸びているものの、日本の学校で働く外国人の心理を詳しく描いたものは少ない。日本の教育現場でJET青年を受け入れる学校関係者、教育現場におけるグローバリゼーションや多文化共生の施策に携わる政府関係者や自治体および非営利団体の方々、また質的研究を手がける研究者や大学院生にとっても、本増補版が何らかの助けになることを願っている。
上記内容は本書刊行時のものです。