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アイドル・スタディーズ
研究のための視点、問い、方法
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2022年9月30日
- 書店発売日
- 2022年9月30日
- 登録日
- 2022年9月6日
- 最終更新日
- 2022年10月14日
紹介
これまでの研究動向を整理しつつ、最新の研究事例や実践を紹介することで、アカデミックな領域でアイドル研究を行うことの意義と可能性を示す。アイドル研究/ファン研究に関心をもつ人すべてに、文化現象から社会を問いなおすための視点と問いの立て方、方法を提供。
目次
序章 アイドル・スタディーズへの招待[田島悠来]
第Ⅰ部 アイドル研究の展開
第1章 「アイドル」はどのように論じられてきたのか[田島悠来]
コラム1 「アイドル」の見方とその研究方法[田島悠来]
第2章 アイドルは労働者なのか――「好きなこと」を「やらせてもらっている」という語りから問う[上岡磨奈]
第3章 アイドルが見せる「夢」――アイドルの感情労働[石井純哉]
コラム2 自分の環境をもとに研究活動をデザインすること[石井純哉]
第Ⅱ部 アイドルのジェンダー/セクシュアリティ
第4章 異性愛規範と「恋愛禁止」はいかに問い直されるか[香月孝史]
コラム3 アイドルに投影されるもの[香月孝史]
第5章 性を装うアイドル――演じる/演じない手段として[上岡磨奈]
第6章 アイドル楽曲の鑑賞と日常美学――自己啓発という観点から[青田麻未]
コラム4 芸術と日常のあいだで[青田麻未]
第Ⅲ部 ファン研究の射程
第7章 語る方法としてのアイドル関連同人誌[関根禎嘉]
第8章 アイドル文化におけるチェキ論――関係性を写し出すメディアとして[上岡磨奈]
コラム5 新型コロナウイルスとアイドル産業[上岡磨奈]
第9章 ファンの「心の管理」――ジャニーズJr.ファンの実践にみるファンの「感情管理/感情労働」[大尾侑子]
第10章 台湾ジャニーズファンへのまなざし――「日本時間」の文化実践とファン・アイデンティティ[陳怡禎]
第Ⅳ部 アイドル研究領域の拡大
第11章 日本文化としてのアイドル――インドネシアの動向を事例に[上岡磨奈]
コラム6 JKT48を好きになってみた[上岡磨奈]
第12章 「異なる文化圏のアイドル」はいかに評価されるか――日韓合同K-POPオーディション番組『PRODUCE 48』を事例として[松本友也]
コラム7 声優とアイドル[中村香住]
第13章 台湾社会運動の場における「アイドル」文化現象[陳怡禎]
コラム8 アイドル・アーカイブ試論――アイドル・オントロジー構築に向けて[関根禎嘉]
あとがき[田島悠来]
執筆者紹介
前書きなど
序章 アイドル・スタディーズへの招待
(…前略…)
このような多大かつ多方面への影響を看過できない「アイドル文化」に対し,学術的な領域においても関心の目が向けられ,昨今一層その傾向は高まりをみせている。そこで,本書では,「アイドル研究」の現在進行形の実践について次の4つのパートに分けて紹介する。
第Ⅰ部では,まず第1章において,「アイドル」に関してこれまでにどのような研究がなされ,どのような着眼点でどのような議論が蓄積されてきたのかを整理しつつ,課題を見つめ,今後の可能性をふまえながら本書の方向性を改めて確認する。その上で,続く2つの章でアイドル活動に従事するアイドル本人の語りから,アイドルの労働の意味を問い直し,「アイドル」とは何者であるのかに迫る。
第2章では,アイドルの労働の実態に迫りつつ,そもそもアイドルの「仕事」とは何なのか,労働者と呼ぶことが可能なのかを批判的に検討する。第3章では,「接触」が行われる場面を軸に,アイドルの実践を「感情労働」という概念を用いて考察し,これまでのアイドルをめぐる労働に関する議論のなかで看過されがちであった当事者側からの視点を持ち込み,感情労働が要請される仕組みについて目を向ける。
続いて,第Ⅱ部では,アイドルのジェンダー/セクシュアリティ,さらには,パーソナリティにまで関わるパフォーマンスを分析する際の多様な視角を提供する。
第4章では,主には2010年代における女性アイドルに関するメディア言説,なかでもアイドルプロデューサーやアイドル自身といったコンテンツの送り手側の語りに目を向けるなかで,ジェンダー/セクシュアリティのステレオタイプを背景に「アイドル」というジャンルで内面化され続けてきた異性愛規範を基盤とする「恋愛禁止」をいかに問い直すことができるかを説く。
第5章では,「男装」を表現するアイドルを事例に,アイドルのパフォーマンスのジェンダー・ロールに基づく演技性(「演じる/演じない」ことの理由)について焦点を当て,アイドルと異性装というこれまで論じられる機会が少なかったトピックに切り込みを入れる。
第6章では,「日常美学」という観点からアイドル(モーニング娘。)の楽曲を分析する試みを通じて,アイドル本人にとっても,鑑賞者にとっても,楽曲鑑賞がパーソナリティに作用していくあり様を「自己啓発」というキーワードに基づいて検証する。
次に,第Ⅲ部では「ファン研究の射程」として,アイドルを「アイドル」として成立させるために不可欠な存在であるファンの姿に照射する。
第7章では,女性アイドルを中心にアイドル関連の同人誌を取り上げ,その歴史的な変遷にも目配せしつつ整理・分類を試みるなかで,ファンがアイドルについて語るための重要な媒体として同ジャンルを研究する意義を浮かび上がらせている。第8章では,現代のアイドルファンにとって欠くことができない商品の1つである「チェキ」に着目し,「チェキ」を介したコミュニケーションが指し示すものから,アイドルとファンとの関係性を再考する。
以上2つの章では,ファンを研究する際にどのようなメディアを分析の素材にすることが有用かを示すとともに,ともすれば見過ごされがちなそれらの資料的価値を提示しているとも言える。
続く第9章では,ファンの感情労働という視座からジャニーズJr.ファンの語りを見つめ,アイドルとファンの感情を取り交わす相互作用の様子を浮き彫りにし,ファン活動の労働的な側面に目を向ける。そして第10章では,台湾のジャニーズファンの語りから,海外のファンがどのようにコミュニティ内での自身のファン・アイデンティティを構築しているのかを「日本時間」というキータームを手がかりに読み解く。
これら2つの章においては,オーソドックスな方法論を用いて日本および台湾の共に男性アイドル「ジャニーズ」のファンの語りに耳を傾けていくことを通じて,ファン自身がファンとして振る舞うことにいかなる意味づけがなされうるのかを問うていく。
最後に,第Ⅳ部では「アイドル研究領域の拡大」として,従来のジャンル,視点,枠組みを越境するような新しい研究のあり方を模索する。
第11章・第12章においては,近年より盛んになってきている文化越境的なアイドル受容に関する事例が紹介され,「日本のアイドル」が異なる文化圏を生きる他者にどのように理解され,いかなる影響を及ぼしているのかに迫る。
第11章では,AKBの海外姉妹グループであるJKT48とそのファンへの調査に基づき,日本のアイドルに関する海外における受容のなされ方を探究することで,現地における日本独自の「アイドル」と「idol」との差異と混交を浮かび上がらせる。続く第12章では,「K-POP」の「トランスナショナル」な先駆的例として,日韓合同オーディション番組『PRODUCE 48』を取り上げることで,「K-POPアイドル」と「日本のアイドル」という異なる文化圏のアイドルがどのように評価されたのかを考察し,従来のステレオタイプな対比図式を更新するファンの役割を提示する。
そして最終第13章では,台湾の現代社会運動参加者にみられる「運動リーダー」をアイドルとして消費する実践から,芸能ジャンルを超えた場としてアイドルをめぐる文化現象を拡張し,若者にとっての社会運動が読み替えられていく様を論じている。
以上の4つのパートを通して,本書を,「アイドル文化」から社会のなかでの「当たり前」に問いを投げかけていく試みと位置づけたい。また,この試みによって,冒頭で示した「今,なぜ,『アイドル』なのか」という問いに読者それぞれがなんらかの答えを導き出してほしいと考えている。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。