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イスラエル vs. ユダヤ人
中東版「アパルトヘイト」とハイテク軍事産業
原書: L'État d'Israël contre les Juifs
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2022年1月25日
- 書店発売日
- 2022年1月24日
- 登録日
- 2021年12月15日
- 最終更新日
- 2022年2月17日
書評掲載情報
2022-03-12 | 日本経済新聞 朝刊 |
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紹介
イスラエルがパレスチナ自治区を占領してから半世紀が経過した。そのかんに、グローバリゼーションは世界各地でナショナリズムと外国人排斥を引き起こし、イスラエルで合流した。ユダヤ人ジャーナリストである著者は、人種差別、軍事産業の台頭、宗教分裂、右傾化など、イスラエル社会の日常から法制度までを横断し、今後の中東の国際関係を見通す。
目次
本書を読み解くための基礎知識 前編[高橋和夫]
イントロダクション――埋めることのできない溝
最後まで考えを変えなかった父
袋小路に陥った国
武力で解決できなければ、さらに武力を行使する
イスラエルに魅了された自民族中心主義者たち
第1章 恐怖を植えつける――軍事支配
世界で最も品行方正なイスラエル軍という嘘
倫理観の喪失
台頭するユダヤ版「クー・クラックス・クラン」
テロとの戦いを指導するイスラエル
第2章 プールの飛び込み台から小便する――イスラエルの変貌
事実を否定するのをやめる
アザリア事件が意味すること
無処罰によって粗暴となるイスラエル社会
ファシズムの香り
第3章 血筋がものを言う――ユダヤ人国民国家
「それはイスラエルとユダヤ人にとって悪法だ」
自民族中心主義の勝利
ユダヤ人にとっての「生存圏」
第4章 白人の国――純血主義の台頭
黒人「潜入者」に降りかかる災い
白人至上主義者とのつながり
「ユダヤ人遺伝子」を求めて
第5章 イスラエルの新たな武器――サイバー・セキュリティ
武器輸出という伝統
最先端のサイバー監視技術
制約なく活動する
イスラエルとカショギ殺害事件
パレスチナ人の次は、イスラエルの反体制派
第6章 公安国家――権威主義的な民主主義
パレスチナ人だけでなく反体制派ユダヤ人も対象
国内の敵「ベツェレム」
「ボイコット、投資撤収、制裁(BDS)運動」という「張りぼて」
公安機能の滑稽なまでの強化
第7章 絶滅危惧種――イスラエル法制度の危機
最高裁判所は「最後の砦」でなくなったのか
反体制派の当惑
第8章 ヒトラーはユダヤ人を根絶したかったのではない――ネタニヤフの歴史捏造、反ユダヤ主義者たちとの親交
ホロコーストを扇動したのは、エルサレムのイスラム法官なのか
イスラム嫌悪という絆
アメリカの福音派とユダヤ人
東ヨーロッパに古くから存在する反ユダヤ主義者との絆
ソロスに対する非難:トランプは反ユダヤ主義者か
第9章 黙ってはいられない――反旗を翻すアメリカのユダヤ人
イスラエルに背を向けたアメリカのユダヤ人たち
なぜ今、この変化が生じたのか
民主党の危機
イスラエルを非難するアメリカ人たち
第10章 今のはオフレコだよ――臆病なフランスのユダヤ人
フランス革命から極右のシオニズムへ
CRIF(フランス・ユダヤ人団体代表評議会)の正体
臆病なフランスのユダヤ系知識人
第11章 イスラエルにはもううんざり――ユダヤ教は分裂するのか
あなたの将来のイスラエル像は?
虚構の上に成り立つ牙城
アメリカにおけるディアスポラの再生
ユダヤ教は分裂するのか
第12章 鍵を握るアメリカの外交政策――トランプ後の中東情勢
トランプの置き土産
バイデンの挑戦:アパルトヘイト国家への対応
イランとの核合意に賭ける
結論 イスラエル vs. ユダヤ人
トニー・ジャットを悼んで
謝辞
本書を読み解くための基礎知識 後編[高橋和夫]
訳者あとがき
原注
前書きなど
訳者あとがき
本書 The State of Israle vs. the Jews (Other Press, 2021)は、フランス語で執筆されたL’État d’Israël contre les Juifs (La Découverte, 2020)の国際版である。双方のタイトルとも「イスラエル対ユダヤ人」という意味だ。
国際版には、イントロダクションの「埋めることのできない溝」と第12章の「鍵を握るアメリカの外交政策」が加筆されている。また、フランス国内の特殊事情や、フランスではお馴染みの人物などを用いた記述が割愛されている。日本の読者にとっては国際版のほうが理解しやすいと考え、フランス語版を参照しつつ国際版に基づいて訳出した。
著者のシルヴァン・シペルは、『ルモンド』の国際部の元記者であり、二〇〇七年から二〇一三年までニューヨーク特派員を務めた。イスラエルには、エルサレム大学での学業を含め、一二年間滞在したという。現在、パリを拠点にフリーのジャーナリストとして活躍中だ。イントロダクションに記されているように、彼自身、ユダヤ人である。
私が本書を翻訳しようと思った動機を記したい。二〇二一年五月にイスラエルとパレスチナの軍事衝突が勃発した。一一日間にガザ地区にはおよそ二六〇人の犠牲者が出たという。定期購読している『ニューヨーク・タイムズ』は連日にわたって関連記事を掲載したが、日本のメディアの扱いはきわめて表面的かつ限定的だった。このとき、日本語で詳しい情報に触れることができないというもどかしさを感じた。こうした状況下で出会ったのが本(フランス語版)だった。
私は本書のイントロダクションを読んだ段階で翻訳しようと決意した。私が強い衝撃を受けたのは次に掲げる二つの指摘である。
一つめは「イスラエルが人種差別と弱い者いじめをするという、理想主義者なら耐えられない小さな大国に成り下がろうとしていたのを目の当たりにしたのだ」という指摘だ。ユダヤ系フランス人である著者の、ユダヤ教文化を誇りに思うが故のやるせない怒りを感じた。
二つめは「イスラエル社会は矛盾に満ちている。きわめてリベラルで活力に満ちているが、民主的でない。建国以来、戦争状態だが経済発展を遂げ、偉大な文化を持つと同時に驚くほど自由な言論を謳歌している」という指摘だ。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。