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帝国のヴェール
人種・ジェンダー・ポストコロニアリズムから解く世界
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年11月20日
- 書店発売日
- 2021年11月18日
- 登録日
- 2021年10月5日
- 最終更新日
- 2021年12月14日
書評掲載情報
2022-01-15 |
朝日新聞
朝刊 評者: 温又柔(小説家) |
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紹介
「帝国」は人種、ジェンダーにおける見えない障壁、ヴェールを土台にして自らを構成している。例えば黒人に貼りつく孤立や苦しみが、白人の側からは不可視のままになっているように。ヴェールに隠された人間の叫びに応答するための、ラディカルな幕開けの書。
目次
まえがき[編者]
序文 人種資本主義(レイシャル・キャピタリズム)序説――BLM運動が投げかけた世界史的問い[貴堂嘉之]
Ⅰ 帝国としてのアメリカにおける人種とジェンダーの交錯
第1章 帝国建設において人種とジェンダーはどのように関係しているのか――アメリカ帝国主義についての省察[ルイーズ・M・ニューマン(荒木和華子訳)]
Column 1 「真の女性らしさ」イデオロギーとアボリショニストによる解放民援助活動[荒木和華子]
第2章 一九世紀アメリカにおけるフリー・ラヴ思想――ロマンティック・ラヴの理想と結婚制度[箕輪理美]
第3章 黒人女性が経験した人種差別の交差性――ファニー・ルウ・ヘイマーのスピーチを通して[西﨑緑]
第4章 ポストコロニアルからポストヒューマンへ――人種、ジェンダー、種の交差[丸山雄生]
Column 2 イヌとヒトの不穏な関係から考える人種と植民地主義[丸山雄生]
Ⅱ ポストコロニアリズムの時代におけるジェンダー・セクシュアリティをめぐる運動と批評
第5章 クィア理論入門――鍵概念の定義[ニシャン・シャハニ(土屋匠平・荒木和華子訳)]
Column 3 ままならない身体、ままならない情動――ジュディス・バトラーの「パフォーマティヴィティ」と「プレカリティ」[五十嵐舞]
第6章 都市での安全――インドにおけるゲイ向け観光と世界化のポリティクス[ニシャン・シャハニ(箕輪理美訳)]
第7章 FGM廃絶をめぐる歴史プロセスと新たなアプローチの可能性――『母たちの村』とナイース・レンゲテによる「男制」への着目[荒木和華子・土屋匠平]
Ⅲ 東アジアにおける帝国とポストコロニアリズム
第8章 東アジアにおける「帝国」の構造とサバルタン・ステイト――韓国と台湾を中心に[陳柏宇]
Column 4 ポストコロニアル研究の可能性――歴史学からの解説[渡辺賢一郎]
第9章 朝鮮人新聞の歴史からたどる日本と朝鮮の「結びつき」――一九世紀後半から二〇世紀中葉に至るコロニアルな関係、その内実と展開[小林聡明]
第10章 法と人権――「治安維持法」から「国家保安法」へ[権寧俊]
第11章 「裏日本」脱却のヴィジョン――自立共生を目指す新潟の動きをもとに[小谷一明]
Column 5 脱「裏日本」の夢を「環日本海」に見た[櫛谷圭司]
第12章 基地引き取り運動とは何か?――無意識の植民地主義からの脱却を目指す草の根の応答[福本圭介]
35
Column 6 私たちが「困難な歴史」とともに生きていくために[川尻剛士]
あとがき[編者]
事項索引
人名索引
前書きなど
まえがき
(…前略…)
最後に、この論集の全体構成について簡単に解説しておきたい。
まず、序文では、近現代世界史をあらためて再検証するために「人種資本主義」という概念が紹介・提案される。そもそも南北アメリカ大陸の植民地化と大西洋奴隷貿易とともに始まる資本主義が、その本質において、人種主義(レイシズム)を不可欠の要素とする収奪と搾取のシステムだとすれば、どうだろう。ここでは、世界各地で始まっている「帝国」の問い直しをひとつながりのグローバルな問題として捉えるための新しい視座が提起される。
第Ⅰ部では、アメリカ帝国の形成にどのように人種とジェンダーが関わってきたのかが中心的なテーマであり、アメリカの内側から考察を試みる。「ソフトな帝国主義」と言われる植民地支配の文化において、頻繁に「文明化」のレトリックが用いられてきたが、そのプロセスに人種・ジェンダーは不可分な形で関わってきた。アメリカが「帝国」として海外で影響を及ぼす際の文化的基軸を理解するにあたって、まずは国内での人種・ジェンダーによる制度、言説、規範を歴史的な文脈のなかで見ていく。そこで検討・言及されるのは、一九世紀の文明化事業としての宣教活動や人種的ミンストレルシーの表象、セクショナリティと人種に関する恐怖の神話と異人種混交の歴史の不可視性のほか、「真の女性らしさ」イデオロギーと奴隷制廃止主義者による解放民援助活動、結婚制度の廃止を訴えた一九世紀の急進的な市民運動、二〇世紀の公民権運動を支えた黒人女性活動家の思想と活動、さらに脱人間中心主義のポストコロニアルな世界を追求するために人と動物の関係を捉え直す「人種、ジェンダー、種の交差性」の視座などである。
第Ⅱ部では、ポストコロニアリズムの時代におけるジェンダーとセクシュアリティの問題を運動と批評の両方の観点から見つめる。ここでは、論文の対象地域はアメリカを超えて、世界に広がる。まず、クィア理論における重要概念が解説・紹介され、続いて、現代インド都市部で展開されるゲイ観光の文化政治が「レイプの首都」のポリティクスとの対照において描かれる。次に紹介されるのは、理論家ジュディス・バトラーによるジェンダーや情動の規範形成をめぐる思考である。そして、さらに、世界を舞台にしたFGM廃絶運動の歴史とその新しいアプローチなどを具体的な事例とともに検討する。
第Ⅲ部では、一九四五年まで帝国日本に支配されていた東アジアの諸地域が、第二次世界大戦後、アメリカのヘゲモニーの下で新たな「帝国」へと再編され、植民地主義の問題が根本的に清算されないまま現代に継続している問題を見つめる。歴史学におけるポストコロニアル研究のインパクトは、これまでのナショナル・ヒストリーを批判的に問い直す視座を提供したことにある。ここでは、この点を確認しつつ、戦前の朝鮮半島、戦後の韓国や台湾、さらには、日本国内では、沖縄、水俣、「裏日本」と呼ばれる日本海側を主題として論じ、東アジアの「終わらない植民地主義」を直視するだけでなく、そこから脱却するヴィジョンについても考察する。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。