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犯罪被害者支援の歴史社会学
被害定義の管轄権をめぐる法学者と精神科医の対立と連携
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年10月15日
- 書店発売日
- 2021年10月4日
- 登録日
- 2021年9月1日
- 最終更新日
- 2021年10月13日
紹介
日本で犯罪被害者支援の言説が形成された歴史的過程を、法学者と精神科医が被害定義の管轄権をめぐって形成した対立と連携に注目し、クレイム申し立て、メディア報道、政策形成、複数の専門職集団の連携、という社会問題化の4つの段階に沿って分析する。
目次
図表一覧
略語表
凡例
はしがき
序論 先行研究と分析視角
1 問題の所在
1.1 本章の目的
1.2 犯罪被害者をめぐる事件および法律の概観
1.3 犯罪被害者にかかわる施策における3つの支援――経済的支援、精神的支援、法的支援
1.4 被害者支援の用語の急増――1990年代後半から2000年代にかけて
1.5 被害者支援の用語が急増した背景――民間のレベルと立法のレベルにおける2つの動き
1.6 本書の課題
1.6.1 法学者と精神科医が行なったそれぞれの活動への注目
1.6.2 法学者と精神科医が形成した対立ないし連携への注目
2 先行研究
2.1 犯罪社会学ないし法社会学にかかわる先行研究における被害者研究
2.2 福祉社会学にかかわる先行研究における支援研究
2.3 歴史社会学にかかわる先行研究における被害者研究
2.3.1 法学者のテクストを対象にする研究
2.3.2 精神医学的な言説を対象にする研究
2.3.3 先行研究における歴史記述上の限界
3 方法論の検討
3.1 アボットの専門職論
3.2 社会問題の構築主義に依拠する専門家論
3.2.1 専門家集団の内部においてクレイムが形成された過程
3.2.2 社会問題化の過程における専門家の働き
3.2.3 専門家と非専門家の関係
3.3 ベストの社会問題の自然史
4 分析視角
4.1 複数の専門職集団が形成した対立ないし連携への注目
4.2 複数の専門職集団が用いた固有の言説的資源への注目
4.3 本書が依拠する分析視角の社会学的な意義――社会問題の自然史の批判的な再構築
5 本書が分析の対象にする事例の国際的な位置づけ
5.1 欧米と日本の共通点――法学的な枠組みと精神医学的な枠組みにもとづく犯罪被害者にかかわる施策の形成
5.2 欧米と日本の相違点――犯罪被害者に対する援助ないし支援を組織的に行なう民間団体の活動がはじまった時期
5.3 事例研究を行なう際に日本を対象にする意義
6 資料
7 各章ごとの分析の概要
7.1 犯罪被害者にかかわる言説的な基盤の形成――法学者と精神科医による犯罪被害者にかかわる諸カテゴリーの形成
7.2 犯罪被害者救済の言説の形成――新聞報道と法学者による犯罪被害者にかかわる諸カテゴリーの普及
7.3 犯罪被害者支援の言説の形成――〈複数の専門職集団の連携〉というあらたな段階への移行
第Ⅰ部 犯罪被害者にかかわる言説的な基盤の形成――法学者と精神科医による犯罪被害者にかかわる諸カテゴリーの形成
第1章 法学者と精神科医による被害定義の管轄権をめぐる対立の形成――被害者の有罪性のカテゴリーのもとで
1 本章の目的と位置づけ
2 新派刑法学における犯罪被害者――社会防衛を実現する際の付随的な研究対象
2.1 新派刑法学と牧野英一
2.2 旧刑法と現行刑法
2.3 犯罪被害者のカテゴリーの提示――民事責任と刑事責任を関連づける課題のもとで
2.4 社会防衛を実現する際の付随的な研究対象としての犯罪被害者
3 被害者学における被害者――有罪性にもとづいて分類される独立した研究対象
3.1 被害者学と中田修
3.2 犯罪者を分類する際の指標としての被害者の人格と行動
3.3 刑事責任能力に関する議論――刑法学の責任論と社会学の決定論の間で
3.4 有罪性にもとづいて分類される独立した研究対象としての被害者
4 被害定義の管轄権をめぐる法学者と精神科医の対立の形成――被害者の有罪性のカテゴリーのもとで
4.1 被害者学と刑法学の差異化――被害者側の要因に注目した犯罪の考察
4.2 被害者の精神的な側面に関する常識的知識の測定――被害者の有罪性のカテゴリーのもとで
4.3 被害定義の管轄権をめぐる法学者と精神科医の対立の形成
5 本章のまとめ
第2章 法学者による被害者学の理論の展開――被害者の有責性のカテゴリーを介した理論的な関心と実践的な関心の共存
1 本章の目的と位置づけ
2 被害者の有責性をめぐって対立する2つの議論
2.1 理論的な関心にしたがって被害者の分類を体系化する議論
2.2 実践的な関心にしたがって被害者学の理論を応用する議論
2.3 対立する2つの議論――有責性にもとづく被害者の分類が道徳的な価値判断をともなうことの是非をめぐって
3 被害者学の理論化――道徳的非難をともなう被害者の分類とその体系化
3.1 有責性のカテゴリーにもとづく被害者の分類とその体系化
3.2 性犯罪の被害者の有責性を測る考察――被害者に対する道徳的非難のもとで
3.3 原因究明と道徳的な非難を混在させるなかで目指された被害者学の理論化
4 被害者学の実践化――補償制度における被害者学の理論の応用
4.1 法律の実務家における被害者の有責性のカテゴリーの広まり
4.2 被害者学の理論を補償制度において応用する試み
4.3 理論的な関心と実践的な関心を共存させるなかで目指された被害者学の実践化
5 理論的な関心と実践的な関心の対立――科学と支援の学の間で
5.1 法学者が依拠してきた諸カテゴリーに対する批判――科学としての被害者学の理論的な精緻化
5.1.1 常識的知識にもとづく被害者学の理論に対する批判
5.1.2 被害者誘発の発想に対する批判
5.1.3 被害者の有責性のカテゴリーに対する批判
5.2 研究対象の範囲の拡大――支援の学としての被害者学の曖昧な維持
6 本章のまとめ
第Ⅱ部 犯罪被害者救済の言説の形成――新聞報道と法学者による犯罪被害者にかかわる諸カテゴリーの普及
第3章 新聞報道による犯罪被害者にかかわる諸カテゴリーの普及――通り魔的犯罪のカテゴリーが可能にした犯罪被害と社会保障の接続
1 本章の目的と位置づけ
2 通り魔的犯罪のカテゴリーのもとで犯罪被害と社会保障を接続する形式の言説
2.1 法学者の活動の起点とされた「犯罪被害者等給付金支給法」
2.2 1970年代の日本に固有の文脈――犯罪の増加を示す統計上の言説的資源の不在
2.3 通り魔的犯罪のカテゴリーにもとづく犯罪被害の災害化
3 精神疾患および性的な描写と関連づけて使われた通り魔の用語――1950年代から60年代前半にかけて
3.1 通り魔に関する新聞記事の分類――被害者と加害者の性別に注目して
3.2 精神疾患者による動機のない犯罪としての通り魔
3.3 動機のない犯罪と性的な描写の奇妙な結びつき
3.4 特定の性質をもった一部の人間がなる特殊な状態としての通り魔の被害者
4 新聞報道による補償制度にかかわるクレイムの提示――1970年代
4.1 通り魔の被害者になりうる人々の範囲の拡大――性的な意味づけの後景化
4.2 新聞報道による補償制度にかかわるクレイムの提示
4.3 新聞報道の活動の変化を支えた文脈――学生運動と爆破テロに対する社会的な関心の高まり
5 通り魔的犯罪のカテゴリーが可能にした犯罪被害と社会保障の接続
5.1 通り魔的犯罪というあらたなカテゴリーの形成――通り魔と爆破テロの包括
5.2 異質な犯罪を包括するカテゴリーとしての通り魔的犯罪――被害者選定の無差別性を共通点として
5.3 多義的なカテゴリーとしての通り魔的犯罪――加害者の動機の不可解性と被害者選定の無差別性のいずれかを共通点として
6 本章のまとめ
第4章 法学者による犯罪被害者救済の言説の形成――選別主義のもとで結びつけられた犯罪被害者の権利と潜在的被害者
1 本章の目的と位置づけ
2 犯罪被害者の権利と〈社会保険〉
2.1 「犯罪被害者等基本法」における犯罪被害者の権利と潜在的被害者の結びつき
2.2 固有の権利主体としての犯罪被害者――大谷実という法学者
2.3 一般的な社会保険の枠組みと異なる〈社会保険〉の枠組み
3 被害者の補償に関する従来の議論
3.1 新派刑法学における犯罪被害者と被害者学における潜在的被害者
3.2 補償制度の制定を目指す法学者の間で共有されていた課題――犯罪被害者の再定義
4 対立する法学者の議論のなかで焦点化された被害者の人権
4.1 被害者の人権――恩恵以上の何かへ
4.2 補償制度の3つの理論的根拠――生活保護以上の何かへ
5 〈社会保険〉の枠組みのもとで形成された犯罪被害者救済の言説
5.1 犯罪被害者の権利の明確化――固有化される犯罪被害者
5.1.1 〈社会保険〉の枠組みのもとで具体化された犯罪被害者の権利
5.1.2 補償の対象を限定することによって分節化された犯罪被害者のカテゴリー
5.2 潜在的被害者の再定義――匿名化される犯罪被害者
5.2.1 誰もがなりうる一般的な状態を表すカテゴリーとして
5.2.2 通り魔的犯罪のカテゴリーに接続されるカテゴリーとして
5.3 「犯罪被害者等給付金支給法」において曖昧にされた受給の権利性
6 選別主義のもとで形成された犯罪被害者救済の言説
6.1 選別主義のもとで結びつけられた犯罪被害者の権利と潜在的被害者
6.2 のちの議論の起点とされた犯罪被害者救済の言説
7 本章のまとめ
第Ⅲ部 犯罪被害者支援の言説の形成――〈複数の専門職集団の連携〉というあらたな段階への移行
第5章 法学者と精神科医による犯罪被害者支援の言説の形成――2次被害の用語をめぐる争いを通して形成された複数の専門職集団の連携
1 本章の目的と位置づけ
2 「対等」な支援者-被害者関係にもとづく犯罪被害者支援の言説
2.1 本章で注目する法学者と精神科医
2.2 『講座 被害者支援』における犯罪被害者支援の言説――「対等」な支援者-被害者関係という発想
2.3 「対等」な支援者-被害者関係における法学者の専門性
3 1980年代の法学者が行なったあらたな活動――第2次被害者化の用語のもとで
3.1 法学の領域において生じた2つの動き
3.2 第2次被害者化と第3次被害者化
3.3 第2次被害者化の用語のもとで目指された刑事司法における被害者の権利の確立
4 1990年代の精神科医による対抗クレイムの提示――2次被害のカテゴリーのもとで
4.1 被害者の主体性を尊重する被害者援助
4.2 被害者救済に代わるあらたな発想の提示――当事者主義にもとづく被害者援助
4.3 2次被害のカテゴリーのもとで可視化された法学者の加害者性
5 被害者支援の用語を共通語にして形成された法学者と精神科医の連携
5.1 法学者による活動の意味づけの読み替え――救済から支援へ
5.2 犯罪被害者のカテゴリーが法的な基準にもとづいて定義されてきたことに対する精神科医による批判
5.3 法学者の用語法の転換――被害者援助の発想を踏まえたかたちでの被害者支援の用語の再定義
5.4 支援の学としての被害者学――法学者と精神科医の実質的な連携を基盤として
6 「対等」な支援者ー被害者関係にもとづく犯罪被害者支援の言説はなぜ形成されたのか――2次被害という諸刃の剣
7 本章のまとめ
第6章 犯罪被害者支援に携わる法学者の専門性――restorative justice を通した多方面にわたる支援活動への参与
1 本章の目的と位置づけ
2 犯罪被害者支援に携わる法学者の位置づけ
2.1 restorative justiceにおいて提示されたあらたな犯罪観
2.2 restorative justiceを通して犯罪被害者支援に携わる法学者の専門性
3 restorative justiceに関する初期の議論
3.1 restorative justiceに関する論文ないし雑誌記事の本数の推移
3.2 justiceの訳をめぐる法学者と社会学者の対立
3.3 害――諸影響を指し示すことができる包括的なカテゴリー
4 犯罪被害者支援に携わる法学者の専門性(1)――修復的実践の理論的基盤の提供
4.1 非専門家的な理論と実践を基盤とするrestorative justice
4.2 法学者の議論を下支えしたコミュニティの用語――被害の当事者の範囲の拡大
4.3 法学者が修復的実践に参与することに対する批判
4.4 犯罪被害者支援に携わる法学者のジレンマ(1)――理論と実践のはざまで
5 犯罪被害者支援に携わる法学者の専門性(2)――刑事司法における制度化
5.1 穏健な制度化のもとで損なわれるrestorative justiceの独自性
5.2 強硬な制度化に対する批判
5.3 犯罪被害者支援に携わる法学者のジレンマ(2)――穏健な制度化と強硬な制度化のはざまで
6 本章のまとめ
第7章 犯罪被害者支援に携わる精神科医の専門性――法律の制定過程への関与とカウンセリングの業務への従事を通した支援活動への参与
1 本章の目的と位置づけ
2 犯罪被害者支援に携わる精神科医の位置づけ
2.1 精神科医の活動の拠点とされた犯罪被害者相談室
2.2 小西聖子の3つの特徴
3 2次受傷のカテゴリーのもとで行なわれた被害者援助
3.1 被害者援助の用語の形成――犯罪被害者救済に対する批判的見解を通して
3.2 被害者援助の固有性の明確化――2次受傷という精神医学の用語のもとで
4 精神科医の専門性のジレンマ――専門職集団の加害者性と「対等」な関係をめぐって
4.1 法学者と精神科医の立場の相違点――専門職集団の加害者性に対する反省的な発想の強度
4.2 精神科医に固有の問題として引き受けられた専門職集団の加害者性――2次受傷のカテゴリーのもとで
4.3 実質上の「対等」な関係と形式上の「対等」な関係
4.4 「対等」な関係と専門性の形成をめぐるジレンマ
5 犯罪被害者支援に携わる精神科医の専門性(1)――法律の制定過程に関与する活動において生じた被害定義の管轄権をめぐる対立
5.1 精神科医の用語法の転換――援助から支援へ
5.2 被害者支援の用語と2次被害の用語に託された精神科医の発想法
5.3 法的な枠組みによってとりこぼされる精神的被害の測定と専門職集団の活動の監視
6 犯罪被害者支援に携わる精神科医の専門性(2)――カウンセリングの業務に従事する活動において生じたケアの非対称性
6.1 認知行動療法を通した形式上の「対等」な関係の仮構
6.1.1 クライエントの能動性の強調
6.1.2 精神科医-クライエント関係の限定化
6.2 精神科医の専門性と形式上の「対等」な関係の両立
7 本章のまとめ
結論 本書が提示した知見と本書の意義
1 リサーチ・クエスチョンに対する解答
2 本書が提示した知見の要約
2.1 「クレイム申し立て」の段階
2.2 「メディア報道」の段階
2.3 「政策形成」の段階
2.4 〈複数の専門職集団の連携〉の段階
2.5 社会問題化がなぜ4つの段階を踏んで行なわれたのか――特定の言説的な基盤が可能にした問題の移行
3 本書が提示した知見のインプリケーション
4 本書の意義
4.1 被害者研究に対する歴史記述上の意義
4.2 支援研究に対する事例研究上の意義
4.3 専門職研究に対する分析視角上の意義
5 本書の限界と課題
5.1 歴史記述上の限界と課題
5.2 比較分析上の限界と課題
あとがき
参考文献
資料
関連法規など
1 「犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律」
2 「犯罪被害者等基本法」
3 「犯罪被害者等基本計画」
4 「犯罪被害者の権利宣言」
索引
前書きなど
はしがき
(…前略…)
本書では、以上で述べた目的を達成するために、序論、本論、ならびに結論を合わせて、9章の構成をとる。本書の分析の詳細な見とり図は、序論の終わりであらためて提示する。それにさき立ってここでは、本書の全体の要約を簡潔に示しておきたい。
まず序論で、先行研究と分析視角を検討する。また、本書が扱う事例の国際的な位置づけと、資料の収集方法を示す。つぎに第1章で、明治期の法学者の議論と昭和期の精神科医の議論の検討にもとづき、被害定義の管轄権をめぐる対立が法学者と精神科医の間において形成された過程を明らかにする。さらに第2章で、被害者の有責性のカテゴリーにもとづく被害者学の理論が1960年代の法学者によって展開された過程を、その理論における理論的な関心と実践的な関心の共存に注目して明らかにする。そして第3章で、犯罪被害者にかかわる諸カテゴリーが1970年代の新聞報道によって普及された過程を、通り魔的犯罪のカテゴリーに注目して明らかにする。また第4章で、犯罪被害者救済の言説が1970年代の法学者によって形成された過程を、選別主義にもとづくその言説の形式に注目して明らかにする。つぎに第5章で、犯罪被害者支援の言説が1990年代から2000年代にかけての法学者と精神科医によって形成された過程を、2次被害の用語をめぐる争いを通して形成された複数の専門職集団の連携に注目して明らかにする。さらに第6章で、連携のもとでの犯罪被害者支援に携わる法学者のあらたな専門性が形成された過程を、restorative justiceを通して多方面にわたって支援活動へ参与する法学者の活動に注目して明らかにする。そして第7章で、連携のもとでの犯罪被害者支援に携わる精神科医のあらたな専門性が形成された過程を、法律の制定過程への関与とカウンセリングの業務への従事を通して支援活動へ参与する精神科医の活動に注目して明らかにする。最後に結論で、本書が提示した知見と本書の意義をまとめる。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。