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福祉NPO・社会的企業の経済社会学
商業主義化の実証的検討
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年10月20日
- 書店発売日
- 2021年10月14日
- 登録日
- 2021年9月1日
- 最終更新日
- 2021年11月5日
紹介
経済や社会から排除された人々を再び包摂する活動を行うNPOは、市民社会を創れなかったのか? 新自由主義的な政策が進んだ四半世紀を、経済社会学・社会政策学・社会福祉学の知見を総動員して分析。ロスジェネ世代の著者が国内外で報告を重ねて完成させた渾身の書。
目次
はじめに
第1章 社会的排除/包摂とNPO――果たすべき役割への期待と課題
第1節 「NPO」の広がり:NPO概念の整理
第2節 社会的排除/包摂概念と政策的展開:NPOへの期待
第3節 社会的包摂に向けたNPOの役割検討
第4節 NPO批判の整理:ボランタリーの失敗から商業主義化へ
第5節 研究課題と分析視点の提示:経済社会学的アプローチ
第2章 NPO法人の実態と「事業型NPO」
第1節 NPO法人制度の概要
第2節 NPO法人の現状:既存の実態調査からの考察
第3節 NPO法人はなぜ増えたのか? 都道府県比較による分析
第4節 まとめ:NPO法人の現在
第3章 事業型NPOの特徴とその発展課題――京都府NPO法人の財務データ分析から
第1節 財務データ分析による事業型NPOの先行研究
第2節 調査の目的と方法
第3節 事業型NPOの発展形態
第4節 事業型NPO法人の組織的特徴
第5節 事業型NPOの事業モデル
第6節 まとめ:事業型NPOの特徴と発展課題
第4章 準市場におけるNPOの変容?――介護保険制度下における非営利=営利のせめぎあい
第1節 NPOの非営利性と商業主義化:契約の失敗仮説からの検討
第2節 準市場,混合市場としての介護保険制度
第3節 NPOのサービスの質は高いのか:グループホーム外部評価結果の分析
第4節 NPOはクリームスキミングをしないのか:事業所立地分析
第5節 NPO法人の商業主義化はみられたか:調査結果のまとめ
第5章 NPO概念の定着と社会的企業概念の拡散――NPOから「ソーシャル」へ
第1節 はじめに
第2節 欧米における社会的企業概念の系譜
第3節 日本における社会的企業概念の受容
第4節 日本型社会的企業概念の整理と分析上の有用性,課題
第6章 ソーシャル・イノベーションの普及過程――長野の宅老所事例分析
第1節 社会的革新の普及における社会的企業の役割
第2節 宅老所とは:その発展とソーシャル・イノベーション性
第3節 2000年代長野県における宅老所を巡る環境:強制的同型化?
第4節 宅老所開設者たちの模倣プロセスの分析
第5節 長野県宅老所・グループホーム連絡会の活動
第6節 議論と結論:長野県における宅老所の普及要因
第7章 社会的企業設立時のNPO・営利企業の選択――コミュニティへの志向による違いの分析
第1節 NPOの互酬原理の議論,再び
第2節 社会的企業としてのNPO・営利企業の差異の検討:調査の目的と概要
第3節 調査結果
第4節 NPO法人におけるコミュニティへの視座:考察とまとめ
第8章 若者就労支援団体による社会関係の埋め込み
第1節 就労困難な若者の支援の必要性
第2節 若者包摂型社会的企業と社会ネットワーク
第3節 調査の概要
第4節 調査結果:若者包摂型社会的企業による支援ネットワーク形成
第5節 議論とまとめ:抵抗戦略としての社会関係の埋め込み
第9章 コミュニティビジネスにおけるソーシャル・キャピタルの制約――当事者主体という罠
第1節 当事者主体組織の困難性:負のソーシャル・キャピタル
第2節 コミュニティビジネスによる経済的包摂の可能性と課題
第3節 コミュニティビジネスにおけるソーシャル・キャピタルの活用・制約
第4節 調査のまとめと考察:負のソーシャル・キャピタルと「当事者主体の罠」
第10章 結論と見通し――カナダの社会的企業の検討から対抗条件を探る
第1節 本書の研究のまとめと残された課題
第2節 カナダにおけるNPOの状況
第3節 カナダ・オンタリオ州の社会的企業の状況
第4節 事例の分析
第5節 カナダの社会的企業における抵抗戦略と日本への示唆,今後の課題
おわりに
参考文献
前書きなど
はじめに
(…前略…)
本書が議論するのは,そうした日本のNPOの,四半世紀の動向を通じた変容の検討である。前述のような経済・社会的環境の中で「社会的排除に抗うNPO」には「事業型NPO」としての,組織的な変容・変質(NPOの商業主義化)がどの程度みられるのか。そこでの組織的な課題を乗り越えながらどのようにして本来の社会問題解決に立ち向かうか。これについては世界的な福祉国家の課題であるにもかかわらず,日本ではまだまとまった知見が十分にない。
なお本書はNPO法人を主な研究の対象としている。しかし現状,日本では社会的包摂実践はNPO法人以外の非営利組織(社会福祉法人,社団法人等)や,営利企業なども関わってきており,それらも考慮する必要がある。本書においては,それらの法人格個々の差異,あるいは大まかな非営利と営利との法人の比較によって,NPO法人の組織的・実践的特徴を明確にする場合がある。また一方で,それらの共通点について論じる場面もいくつか出てくる。そのため本研究はNPO法人のみならず,他の社会的排除に抗う法人形態の団体にも共通した課題について,部分的に提示するものであるといえる。そしてそうした意味で,幅広く応用可能性を持った研究であると考える。
また,こうした法人格の違いを超えて社会問題に取り組む組織(そしてその活動)を指す概念として,「社会的企業」という語の使用が現在,世界的に広くみられるようになってきている。この社会的企業を政策的に支援する国家も,世界で多くみられるようになった。本書ではこの社会的企業概念についても検討を行い,それが事業型NPOの分析に与える示唆を明らかにする。ひいては,「社会的企業としての事業型NPO」という視点も持ち合わせての複眼的な分析枠組みで,とりわけ本書の後半では検討していく。
これまでの社会的企業の議論は,望ましいあり方を検討する研究と,社会的な課題の解消を実現するための方策を論じる議論という2つの方向性があったと浦野(2017)は指摘する。本書での研究はこうした2つのアプローチに立脚しつつ,それらを統合(あるいは止揚)することで,新たな知見を生もうとする試みでもある。
第1章で詳説するが,本書での研究の枠組みは主として経済社会学の知見に基づくものとなっている。しかし,その分析の対象である「福祉NPO」については,これまで社会福祉学や社会政策学など,広い学問領域で研究が行われてきている。したがって,それらの学問分野への貢献も少なからずあるのではないかと考える。そもそも,NPO研究は世界的に,学問横断的(マルチ・ディシプリーナリー)なものとなっている。いわゆる,「モード2の科学」である(Baber et al. 1994)。そのため幅広い研究分野への示唆があるのではないかと考える次第である。
上記内容は本書刊行時のものです。