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日本の移民統合
全国調査から見る現況と障壁
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年6月10日
- 書店発売日
- 2021年6月4日
- 登録日
- 2021年4月15日
- 最終更新日
- 2021年6月3日
紹介
日本全国を対象に実施した無作為抽出による大規模調査から、移民たちの生活・労働実態と日本社会への統合状況、そして統合を阻む「壁」を浮かび上がらせる。第一線の計量社会学者たちが実証的なデータ分析から統合メカニズムの全体像を描き出した稀有な書。
目次
はしがき
序章 移民の統合を考える[永吉希久子]
1 はじめに
2 移民の統合に関する諸理論
2.1 古典的同化理論
2.2 移民の社会統合と社会制度
2.3 日本の移民統合に関する研究
3 日本における移民の受け入れ環境
3.1 出入国管理制度
3.2 労働市場の構造
3.3 受け入れ社会の態度
3.4 エスニック・コミュニティ
4 使用データの概要と本書の構成
4.1 「くらしと仕事に関する外国籍市民調査」(ILW調査)の概要
4.2 本書の構成
第1部 移民の社会経済的統合
第1章[教育] 誰がどのような教育を受けてきたのか――出身背景の説明力に関する在留資格グループ別の比較[石田賢示]
1 移民の教育達成の社会的・学術的位置付け
2 移民の教育達成に対する出身背景の影響
3 在留資格グループ別に見る出身背景の影響への着目
4 本章で使用する変数・方法
5 分析結果
5.1 3つの在留資格グループの記述統計
5.2 多変量解析による検討
6 考察と結論
第2章[雇用] 移民の階層的地位達成――人的資本・社会関係資本の蓄積の影響[永吉希久子]
1 研究の背景
2 移民の階層的地位はどのように規定されるか
2.1 移民の階層的地位達成と労働市場の構造
2.2 日本の労働市場の特徴とその影響
3 分析
3.1 移民の労働市場における地位
3.2 受け入れ国での人的資本や社会関係資本の蓄積
3.3 階層的地位達成の規定要因
3.4 就労形態の規定要因
4 考察と結論
第3章[賃金] 移民の教育達成と賃金――教育を受けた場所と経済的統合[竹ノ下弘久・永吉希久子]
1 問題意識
2 先行研究の検討
2.1 人的資本論・シグナリング理論
2.2 日本の労働市場と移民の賃金
3 分析視角
4 データと変数
5 記述統計にもとづく結果
6 回帰分析による賃金の推定
6.1 日本国籍者との賃金格差
6.2 移民内部での賃金格差
7 考察と結論
第2部 移民の社会的統合
第4章[家族] 移民の家族と日本社会への統合――家族形成と配偶者の国籍に注目して[竹ノ下弘久・長南さや佳・永吉希久子]
1 国際的な移動と家族
2 移民の家族をどのようにとらえるか
2.1 移民家族の類型化とその規定要因
2.2 移民の家族のあり方とその統合への影響
3 使用するデータ,変数,方法
4 移民の婚姻形態とその動向
5 婚姻形態と移民の社会統合
5.1 経済的統合
5.2 社会関係資本
5.3 生活満足度
5.4 社会的承認の感覚
6 考察と結論
第5章[社会参加] 社会的活動から見た社会統合――移民と日本国籍者の比較を通した検討[石田賢示・龚顺]
1 はじめに
2 移民の社会的活動への参加をとらえる考え方と本章の課題
2.1 社会的活動に関する移民とマジョリティの差をどのように考えるか
2.2 日本および海外での先行研究の知見と本章の課題
3 データと方法
3.1 使用データ
3.2 使用変数
4 分析結果
4.1 社会的活動への参加に関する移民と日本国籍者の比較
4.2 日本国籍者と移民それぞれにおける背景要因の検討
5 考察と結論
第3部 移民の心理的統合
第6章[メンタルヘルス] 移民のメンタルヘルス――移住後のストレス要因と社会関係に注目して――[長松奈美江]
1 はじめに
2 移民のメンタルヘルスに影響を与える要因
2.1 移住とメンタルヘルス:「健康な移民効果」?
2.2 移民のメンタルヘルスを悪化させる要因:就労,貧困,差別
2.3 移民のメンタルヘルス悪化への緩衝要因:社会関係
3 仮説
4 データ・変数
5 分析
5.1 移民のメンタルヘルス:国籍による比較
5.2 移住後のストレス要因/社会関係によるメンタルヘルス状態の比較
5.3 移民のメンタルヘルスの規定要因:ロジスティック回帰分析
6 考察と結論
第7章[帰属意識] 移民の日本に対する帰属意識――水準と規定要因[五十嵐彰]
1 はじめに
2 受け入れ社会に対する帰属意識
2.1 帰属意識とはなにか
2.2 日本人と移民の帰属意識比較
3 エスニック集団に対する帰属意識と受け入れ社会に対する帰属意識
3.1 意識間の関連
3.2 日本に居住する移民の意識間関連分析
4 受け入れ社会に対する帰属意識の規定要因
4.1 経済的要因
4.2 文化的要因
4.3 社会関係要因
5 規定要因の分析
5.1 手法
5.2 結果:エスニック集団への帰属意識
5.3 結果:経済的要因・文化的要因・社会関係要因
6 考察と結論
第8章[永住意図] 誰が永住を予定しているのか――日本で暮らす移民の滞在予定[木原盾]
1 問題の所在
2 理論的枠組みと先行研究
2.1 何が移民の予定を規定するのか?:移民の永住/帰国を説明する諸理論
2.2 日本における先行研究
2.3 本章における仮説
3 データ・変数・分析方法
3.1 データ
3.2 分析に用いる変数
3.3 分析方法
4 分析結果
4.1 記述的分析
4.2 多変量解析
4.3 帰国・永住・未定の予測確率
5 考察と結論
終章 日本における移民の社会統合[永吉希久子]
1 各章で何がわかったのか
1.1 社会経済的統合
1.2 社会的統合
1.3 心理的統合
2 統合のメカニズムと障壁
2.1 日本における移民の社会統合の特徴
2.2 インプリケーションと今後の課題
補論 外国籍者を対象とした社会調査をどのように実施するか[永吉希久子・前田忠彦・石田賢示]
1 調査実施における検討事項
1.1 調査方法
1.2 調査対象者の抽出方法
1.3 使用言語
1.4 階層変数の測定方法
2 実査
2.1 調査経過
2.2 回答の齟齬,無回答
3 調査の反省点と今後の課題
執筆者紹介
前書きなど
はしがき
2019年の出入国管理法の改定は,日本社会に「移民」の受け入れをめぐる大きな議論を巻き起こした.2020年からは新型コロナウイルスの感染が拡大し,国境を越えた人の移動が大幅に減少しているものの,少子高齢化を迎えている日本において,移民の存在が重要性を増していることは変わりない.総務省の「人口推計(2019年)」によれば,2007年以降日本社会は死亡者数が出生者数を上回る自然減の状態に転じており,減少幅も年々拡大している.減少していく人口を補うように,国内に暮らす外国籍者の人数は増加しており,その中で永住者の資格を持つ人も増えている(詳しくは序章).繰り返し指摘されてきたように,日本社会はすでに移民受け入れ社会となっている.
では,日本に暮らす移民たちは,ネイティブの日本人と比べて,どのような経済状況にいるのだろうか.もし不利な立場にいるとすれば,時間がたつにつれ,そうした不利は改善されているのだろうか.日本社会でどのような社会関係を作っており,日本社会に対してどのような考えをもっているのだろうか.これらの「移民の統合」をめぐる問いに答えることが,本書の目的である.
移民受け入れの長い歴史をもつ欧米諸国では,上記の問いは移民そのものを研究の焦点とする狭い意味での移民研究の範疇にとどまらず,階層研究,社会関係研究など,幅広い分野の中で扱われてきた.これに対し,日本の社会学の多くの領域では移民の存在は視野に入っていなかった.本書の執筆者の多くは階層研究を研究の土台としており,本書でも階層研究の枠組みを用いつつ,移民の生活状況を検証している.これにより,日本の階層構造の中に移民を位置付けることも,本書の目的となる.
上記内容は本書刊行時のものです。