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「日本語教師」という仕事
多文化と対話する「ことば」を育む
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年4月10日
- 書店発売日
- 2021年4月19日
- 登録日
- 2021年3月19日
- 最終更新日
- 2022年5月6日
紹介
外国人に日本語を教えるときに留意すべきことはなにか。最新の言語学や心理学の知見をもとに日本語をわかりやすく教えるために必要な教材や教師としての働きかけ方などを、長く日本語学校で実践してきた経験に基づいて伝える。多文化に開かれた日本語の教え方。
目次
はじめに
1 日本語教師とはなんだろう
2 学びの契機としての「対話」と他者へのリスペクト
3 多文化共生とはどういうことか
4 異文化を受け入れるために
5 母語の獲得から学ぶこと
6 日本語を教えるには何が必要だろう?
7 Good Language Learnerに育てるために
8 学ぶ意欲を育むために
9 効果的な学習方法
10 コミュニケーション力をつける授業の実践例
1 漢字教育
2 作文教育
3 ディベートの授業
11 ひらかれた日本語のために――「やさしい日本語」という考え方
12 よい日本語教師になるために
あとがき
索引
コラム
1 千野栄一(1986)『外国語上達法』岩波新書
2 齋藤孝(2002)『読書力』岩波新書
3 アムネスティ・インターナショナル日本支部/谷川俊太郎(1990)『あたりまえに いきるための世界人権宣言』金の星社
4 金田一春彦(1988)『日本語新版(上)(下)』岩波新書
5 白川静監修・山本史也著(2004)『神さまがくれた漢字たち』理論社
6 林望(2018)『謹訳 改訂新修 源氏物語』(1~10)祥伝社文庫
7 西林克彦(1994)『間違いだらけの学習論――なぜ勉強が身につかないか』新曜社
8 荒川洋平(2009)『日本語という外国語』講談社現代新書
9 ドナルド・キーン/河路由佳(2020)『ドナルド・キーン 私の日本語修行』白水社
10 ウスビ・サコ(2020)『「これからの世界」を生きる君に伝えたいこと』大和書房
11 庵功雄(2016)『やさしい日本語――多文化共生社会へ』岩波新書
12 大村はま(1973)『教えるということ』共文社
前書きなど
はじめに
日本で学ぶ留学生が30万人を超えました。留学生に日本語を教える日本語教師は4万人います。そして、その日本語教師になろうとして、日本語教員養成講座を受講している人も増え続けています。私がかかわっている大学の日本語教員養成課程も2020年度は34名の学生が資格取得を目指してとりくみ始めました。いつもの3倍の学生たちです。
日本語教室にはいろいろな日本語教師がいます。学生に日本語力をつけられる日本語教師、つけられない日本語教師。そのちがいはどこにあるのでしょうか。「日本語教師になっていく」とは、どういうことなのでしょうか。本書はそのことを考えようとするものです。
日本語教員養成課程での実習生の模擬授業の1回目。「先生のあとについて言ってください」という実習生。この無自覚的に出てくる「先生」という言葉には、留学生教育にかかわったことのない実習生の素朴な「留学生観」が現れています。
日本語教員同士の振り返り、教員室で、留学生について、次のような「感想」を言いあう日本語教師たち。
「ベトナム人学生Aさんは、アルバイトで疲れているのかな。ずっと寝ていた」
「中国人学生Bさんはケータイばかりで、聞いていない。ほとんど話せないし」
「中国人学生Cさんは、勉強する気がない。わかりませんというだけ」
「ウズベキスタンの学生D、Eさんはおしゃべりばかりしている」
「14課の『て形』、きのう入れたのにまだ入っていない」
「あの学生は勉強しない。福建省出身だからしょうがないかな」
これらの発言には、「教えること」につかれた日本語教師たちの、素朴な『留学生観』『学習観』『授業観』『文化観』が出ています。このような『感想』を言い合うことを通して、日本語教師はエネルギーを奪われ、「教える」ことにさらに疲れていきます。そして、留学生たちは、コミュニケーションできる楽しさを感じられず、「日本語で話すこと」をあきらめていきます。
それでは、留学生をどう観れば、学習をどう観れば、授業をどう観れば、文化をどう観れば日本語教師は、教えることを喜びとすることができるのでしょうか。そして、学生たちにコミュニケーション力をつけることができるのでしょうか。
日本語教室には、疲れていても、寝てしまっても、おしゃべりしようと、留学生たちが来てくれます。日本語教師はこの来てくれる留学生と、教室で向き合える機会を与えられています。コロナ禍で今までの対面授業だけではなく、オンライン授業もとりこんだハイフレックスな授業が求められている現在、どのように向きあえば、教師自身が楽しくなり、留学生を学びに導き、留学生にも日本語を学ぶのは楽しいと感じてもらい、結果として日本語力をつけることができるのか、本書ではこのことについて考えていきます。
上記内容は本書刊行時のものです。