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公正社会のビジョン
学際的アプローチによる理論・思想・現状分析
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年4月15日
- 書店発売日
- 2021年4月15日
- 登録日
- 2021年1月29日
- 最終更新日
- 2021年4月27日
紹介
政治への不満、ジェンダー間の不平等、雇用不安。絶望感と諦めが充満するなかで、それでも「公正な社会」を実現することは可能か。政治・経済・社会・法の諸側面を融合し討議を重ねてきたプロジェクトチームが、不公正な社会状況を打ち破る新たな秩序を提言。
目次
序文 「公正な社会」に向けて[水島治郎・米村千代・小林正弥]
第1部 公正をめぐる理論と思想
第1章 公正にできることはまだあるか――絶望と分断に抵抗する[川瀬貴之]
1 はじめに
2 社会を動かす力:一元論に抵抗する
3 社会から離れようとする力:アパシーに抵抗する
4 多様な社会における,共有された公正
5 おわりに
第2章 公正社会論の思想的展開――ロールズの正義論からコミュニタリアニズムまで[小林正弥]
1 公正とは何か?:正義や公平・平等との関係
2 ロールズにおける公正概念と「公正社会」論への発展
3 リベラルな公正原理と政治的責務論:恣意性の排除と不偏性
4 コミュニタリアニズム的公正論
5 統合的公正社会論に向けて:ロールズ解釈とリベラル・コミュニタリアニズム
第3章 多次元的な統合的公正社会理論――協力的公共システムにおける規範的4基準[小林正弥]
1 統合的公正社会理論における協力的システム
2 政治哲学の4象限とロールズの2次元的正義論・3次元的公正社会論
3 4次元的公正社会論における「公正の3理念」
4 4次元的な「公正な正義」
5 4次元的公正社会論
6 公正社会の規範と実証:公正度の向上に向けて
第4章 「社会的公正」をめぐる意識の変容――不公平感の計量社会学[金澤悠介]
1 はじめに
2 階層意識としての不公平感
3 不公平感の意味変容:新たな不公平感の出現?
4 2000年以降の不公平感の変容
5 おわりに
第2部 「不公正社会」の現状分析
第5章 「不公正社会」への逆襲なのか――ポピュリズムの政治社会的文脈[水島治郎]
1 はじめに
2 拡大するポピュリズム
3 2つのポピュリズム
4 社会経済構造の変容と既成政党の衰退
5 大都市と地方:地域間格差と分断の表出
6 「置き去りにされた地域」にどう対応するか:日英の旧産炭地域比較
7 おわりに
第6章 社会的包摂の現在――雇用の不安定化と若者の就労[濵田江里子]
1 はじめに
2 福祉国家の再編:社会的排除と包摂
3 困難な状況に置かれた若者
4 社会的な包摂に向けた取り組み
5 おわりに
第7章 家族における平等と包摂――家族と公正[米村千代]
1 はじめに
2 家族へのまなざし
3 家族における不平等
4 主婦の形成と展開
5 きょうだい関係における対等性
6 親子関係の長期化・単身者の増加:包摂と支援
7 おわりに
第3部 グローバル公正社会の構想
第8章 メコン川流域の開発と市民社会――ラクチェンコーンの活動に注目して[五十嵐誠一]
1 はじめに
2 メコン川の開発:ダム建設と商業航行計画
3 ラクチェンコーンの誕生と沿革
4 ラクチェンコーンの活動
5 おわりに
第9章 深刻化する環境問題と食料安全保障――環境的公正と行動経済学的アプローチ[李想・小林正弥]
1 はじめに
2 社会の経済発展と環境への影響
3 環境問題の現状
4 環境における公正
5 次の段階の環境問題:食料安全保障についての行動経済学的アプローチ
6 おわりに
第10章 グローバルな社会サービス供給の模索――イングランドの成人社会的ケアを事例として[日野原由未]
1 はじめに
2 人の国際移動の進展と社会サービス
3 イングランドの成人社会的ケアにおける外国人材
4 おわりに
第11章 地域統合と社会的公正の新時代――主権国家の特質とAPECの可能性[石戸光]
1 はじめに
2 地域統合の特質と社会的公正
3 主権国家体制についての概観
4 WTOと地域統合をめぐる社会的公正
5 社会的公正とAPECの可能性
6 おわりに
第12章 条約の脱退条項の機能――その発動は公正な国際制度の否定か?[藤澤巌]
1 はじめに
2 条約締結を促進する手段としての脱退条項
3 脱退条項の発動による条約からの解放
4 条約修正の手段としての脱退条項の利用
5 国際法上の評価
6 おわりに
あとがき
執筆者紹介
前書きなど
「公正な社会」に向けて[水島治郎・米村千代・小林正弥]
(…前略…)
具体的に本書では,以下のように議論を進めていく。
第1部「公正をめぐる理論と思想」は,理論・思想・哲学の観点から「公正」の位置づけを試みる。
まず第1章「公正にできることはまだあるか」(川瀬貴之)では,「公正」概念の持つ多義性,文脈依存性に注目しながら,現代の社会に忍び寄る絶望と分断に抗する砦としての「公正」の重要性を示す。次に第2章「公正社会論の思想的展開」(小林正弥)は,政治哲学者ジョン・ロールズ以来のリベラリズムにおける「公正」論の展開を振り返ったうえで,「平等の尊重」に加え,コミュニタリアニズム的な「美徳」「社会的実践における誠実性」を考慮すべきことを示す。そのうえで第3章「多次元的な統合的公正社会理論」(小林正弥)において,公正社会を構想する4基準として,「遵守性・公平性・公明性・互恵性」を提起している。第4章「「社会的公正」をめぐる意識の変容」(金澤悠介)は,現代日本の社会意識を分析し,21 世紀に入り,被雇用者・求職者・無職者など労働市場で弱い立場にある層を中心に「不公平感」が全般に上昇していることを示したうえで,近年に支配的な「不公平感」が,政治的な表出の難しい,入り組んだ構造を持っていることを明らかにしている。
第2部「「不公正社会」の現状分析」では,現代社会に表出する不公正の諸相を描き,解明を行う。
まず第5章「「不公正社会」への逆襲なのか」(水島治郎)は,「不公正社会」への反発が様々な対抗運動を生んでいる背景として,大都市と地方の格差の問題を指摘し,その解決の契機を歴史の中に探る。そして第6章「社会的包摂の現在」(濵田江里子)は,日本型雇用システムの中で置き去りにされてきた若年無業者の就労支援に注目し,若年層を包摂する「公正な」福祉国家の必要性を示す。第7章「家族における平等と包摂」(米村千代)は,日本社会における性別役割分業型家族の展開を振り返り,家族における平等,対等性を実現しながら家族そのものを相対化するあり方を展望する。
第3部「グローバル公正社会の構想」は,グローバル化した現代世界における新たな「公正」を追究する試みである。
まず第8章「メコン川流域の開発と市民社会」(五十嵐誠一)は,中国や東南アジア各国を流れ,生物多様性の宝庫たるメコン川における開発問題を取り上げ,各国政府,市民社会など多様なアクターが交差するダイナミズムを描く。第9章「深刻化する環境問題と食料安全保障」(李想・小林正弥)は,近年の気候変動などの環境問題が社会的弱者を直撃している現実を明らかにしつつ,特に農業生産に着目し,将来世代も含めた環境的公正の実現を見通している。第10章「グローバルな社会サービス供給の模索」(日野原由未)は,医療福祉分野においてクライエントとサービス提供者の双方で外国出身者が増加し,多様化が進んでいる現実をふまえ,人の国際移動が進むグローバル社会における公正な社会サービスの青写真を描く。第11章「地域統合と社会的公正の新時代」(石戸光)は,ASEANやEU,APEC(アジア太平洋経済協力)などの地域統合のプロセスを検討しつつ,グローバルな社会的公正に資する統合に向けた理念として,「開かれた地域主義」を提起する。第12章「条約の脱退条項の機能」(藤澤巌)は,既存の国際制度を「不公正」とみて条約を脱退する国が相次ぐ近年の動向をにらみながら,脱退条項を含む条約の枠組みそのものが含む,「公正」をめぐる攻防の「舞台」としての機能を指摘する。
このように本書を見通したとき,現代の複雑化する社会に生起する問題群を整理し,解決へのビジョンを提示していくうえで,分野を超えて「公正」という概念が重要であることがわかる。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。