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都市に暮らすモンゴル人
ウランバートル・ゲル地区にみる住まい空間
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年6月30日
- 書店発売日
- 2021年7月9日
- 登録日
- 2021年1月19日
- 最終更新日
- 2021年7月28日
紹介
従来負のイメージに集約されてきたゲル地区を、居住者にとっての住まい空間であるとの認識の下、人びとの日々の生活の積み重ねによって住まい空間を構築していく過程と、その集合体としてゲル地区が形成・拡大・存続してきた過程と照らし合わせて描き出す。
目次
はじめに
序章 都市の中のゲルへの視点
1 問題の所在
2 ゲル地区の位置づけ
(1)発展途上国における不良住宅地区への視点
(2)ゲル地区研究の系譜
3 本書の視座
(1)本書のまなざし
(2)住まいと住まい空間
(3)ゲル地区と住まい空間
4 本書の課題
第1章 ウランバートルとゲル地区
1 モンゴルの近代化と社会主義国としてのあゆみ
(1)近代化以前のウランバートル
(2)社会主義時代の産業政策
(3)社会主義時代の都市開発
2 体制移行後のモンゴル
(1)政治体制の変化
(2)市場経済化政策
(3)ウランバートルへの人口集中
(4)体制移行後の都市開発
3 小括
第2章 ゲル地区の生活
1 ゲル地区の住宅
2 ハシャー内の日常
(1)インフラ
(2)食生活
3 近隣の生活環境
(1)ホロー
(2)教育施設
(3)交通
(4)買い物
4 小括
第3章 ゲル地区の形成と拡大
1 調査方法および資料
(1)インタビュー調査
(2)空中写真を用いた分析/
2 外縁部への拡大
3 ハシャーづくりの実践
(1)地点⑥ゾラクト
(2)地点⑤ウヌル
(3)地点①バロンサラー
4 ゲル地区内部の変容
5 小括
第4章 ゲル地区居住者の移住・移動・定着
1 居住地移動とハシャーの獲得
(1)移住の経緯
(2)移住直後の住まい
(3)都市内における移動の発生
2 住まいの充実
(1)バイシンの建設
(2)繰り返される住まい方
3 小括
第5章 ゲル地区居住者の就労と生活戦略
1 ウランバートルの労働市場と人々の就労
2 居住者の移動歴と職歴
(1)移動歴と初職
(2)個人の経歴
3 世帯の就労と生計の維持
(1)世帯の就労状況
(2)世帯の生活戦略
4 個人・世帯の経歴から見い出される今後の生活
(1)住まいに関する展望
(2)子どもに関する展望
(3)目標の実現に向けた就労
5 小括
第6章 ゲル地区再開発事業から考える居住空間と住まい空間
1 ゲル地区再開発事業とは
(1)再開発事業の詳細と実態
(2)再開発事業の課題
(3)ウランバートルにおけるアパート供給の実態と再開発の是非
2 再開発事業に直面する人々
(1)アパート化事業によるアパート入居者
(2)再開発を待つゲル地区居住者
3 小括
第7章 個人のライフヒストリーにみる住まい空間
1 オトゴンのライフヒストリー
(1)ゲル地区への転入
〇移住以前の生活
〇ウランバートルへの移住~独身時代
〇結婚~韓国滞在
(2)現在の生活
〇住まいの充実
〇日々の暮らし
〇親族等との関係
(3)今後の生活
2 住まい空間の特性
(1)空間利用の柔軟性
(2)取り巻く豊かな関係性
(3)維持する手段の多様性
(4)展望される将来の可変性
3 小括
終章 住まい空間としてのゲル地区
なぜゲル地区はあり続けるのか
「住まい空間」再考
文献一覧
付記
おわりに
謝辞
索引
前書きなど
序章 都市の中のゲルへの視点
(…前略…)
4 本書の課題
(……)
以上を踏まえ,本書では以下のようにゲル地区に向き合っていく.
第1章では,そもそもゲル地区とは何かという問いの下に,ゲル地区が現在の姿に至るまでの歴史的な形成過程を,社会・経済的,制度的な側面から明らかにする.近代化以前のウランバートルでは,ハシャーをつくってゲル,バイシンで住まうという居住形態が集住の常態であった.しかし第二次世界大戦後,都市計画が持ち込まれ都市開発が開始したことによって,「近代的な都市居住にそぐわない」ゲル地区が問題化されていく過程を整理する.
続く第2章では,筆者が現地でインタビュー調査を実施した2015~2018年現在のゲル地区を例に,個々のハシャーにおける生活の様子や居住環境の実態を取り上げる.上水の入手や利用方法,買い物先や交通手段など,日常のさまざまな場面にスポットをあてることで,ゲル地区の暮らしの実態について理解を深める.
第3章では,具体的にハシャーが形成されゲル地区が拡大していく過程に着目する.ここでは空中写真を用いた分析とインタビュー調査の成果を踏まえ,量・質の両面から,いつ・どこで・どのようにハシャーがつくられゲル地区が拡大していったのかを明らかにする.そして,中心部から郊外へとハシャーの形成が進むことでゲル地区全体が拡大していく様子と,一方で個々のハシャーの中ではバイシンの建設が進み,ゲル地区が外へと拡大しながらも内では変容を遂げている様子を示す.
第4章では,第3章で明らかになったゲル地区の拡大と変容の過程を,個人の意思や選択の下で成し遂げられてきた事実であることを重視しながら,人々の実際の経験として読み解いていく.インタビュー調査を基に,居住者のウランバートルへの移住,ウランバートル内での移動の理由と,自らのハシャーを獲得後,バイシンを建てることでその空間を充実させていく様子を明らかにし,人々がゲル地区に住まい空間をつくりあげていく過程を説明する.そこでは,移動を前提とした住宅であるゲルや,濃密な親族関係が重要な要素であることに言及する.
第5章では居住者の日々の生計維持に着目し,第4章で示される人々の住まう実践とそれを通じた住まい空間構築の過程が,いかに支えられているかを明らかにする.就労は,移住の理由やそれを背景としたウランバートルでの初職と密接な関係を持ち,それによってその後の仕事も規定されていく.世帯の生計をいかに立てるかは,再生産をいかに担うかにも直結し,自らの住まい空間をいかなる方向へ転化させていくかの選択や可能性に深く関連する.生計維持の実践を紐解くことは,人々のこれまでや現在の生活がいかにつくられてきたか,また将来の生活をどのように展望するかといった点をとらえていくことでもあり,過去・現在・未来にわたる住まい空間の変遷を,ひいては今後のゲル地区のあり方をとらえることにつながる.
第6章で焦点をあてるのは,ゲル地区の居住環境を改善すべく「上から」立案された再開発事業をめぐる課題である.インフラの完備されたアパートは多くの居住者にとって羨望の的であるものの,自力での転居は現実的でない.そこで期待されるのがアパート化事業であるが,実際には計画通りに運ばないことで,元来ゲル地区の人々が発揮してきた住まうことの主体性を阻害するに至っている状況が明らかになる.これを踏まえ,ゲル地区居住者による住まう実践の発揮とそれによって構築されてきた住まい空間を正当に評価することの是非を考える.
以上を踏まえ,第7章では,住まい空間の具体的な事例として,ある女性のライフヒストリーを取り上げる.ここでは,彼女が生まれてからウランバートルに移住し,さまざまな移動や就労の経験,親族との関係性を通じて自らの住まい空間をつくりあげていく過程を詳述する.それによって,各章で取り上げてきた住まう実践が,相互に絡み合うことで住まい空間の構築へと結実していく様が浮かび上がる.そこからは,住まい空間を織り成す関係性や維持するための実践の多様性も見えてくる.しかし同時に,ゲル地区における住まい空間の構築が,人々にとっては必ずしも「ゴール」を意味するわけではない実態も明らかになり,住まい空間がまさに過程的実在である様が明示される.
終章では,本書を通じて明らかになった,住まい空間が構築され,充実し維持されつつも変容していく過程を整理する.その上で,ウランバートルにおいてゲル地区が存立してきた背景を,それを担ってきた住まい手の側から迫ることを通じて見えてきた姿から改めて検討する.そして,「これまで」と「これから」とではゲル地区の存立にかかわる条件が変わりゆくなか,人々の住まう実践が続けられることによって,住まい空間としてのゲル地区がいかに展望されるかを考える.
上記内容は本書刊行時のものです。